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ssh1010 2013年のグアム通り魔事件で死刑待望論が湧かなかったのはなぜか [マスコミュニケーション論]

<2017>
<ssh593再録>
(  )内は今回追加した文言です。


 2月12日(2013年)にグアムで起きた無差別殺傷事件。
 この事件のニュースを知った時、2008年6月8日の秋葉原での無差別殺傷事件を連想した人は多かったと思います。容疑者が若い男性であること、無差別に多数を殺そうとしたこと、クルマで突っ込んで刃物を振り回すという方法、模倣犯かと思うほどそっくりです。
 (容疑者はクルマで6人をはね刃物で観光客を襲った。被害にあった14人は全員日本人で、うち3人が死亡。)

 08年の秋葉原の事件で、私は容疑者への死刑待望論があまりに早く大きく湧くことに違和感を感じていました。これは彼が死刑に値するかどうかというのとは別の問題で、とにかく悪い意味で「盛り上がり」過ぎていると思ったのです。
 その時の記憶をたぐって、今回の事件と比べると、ほぼ正反対の違和感があります。
 今回の事件での国内の反応があまりにドライで「盛り上がり」に欠けるように思えるのです。
 少なくとも、新聞もTVも、続報がひどくあっさりています。
 (実際にこの事件ではネットを中心とした「死刑!死刑!」という煽りは拍子抜けするほど少なかったのです。)

 なぜ、今回の事件に対して、08年の秋葉原の時のような(死刑!死刑!の)世論が湧かないのか?
 私なりにあれこれ考えてみました。1. グアムに死刑制度がないことが早いうちに報道されてしまった。
 これは少なからず影響があったと思います。
 死刑制度がない以上、死刑にしろと言っても実現の可能性はほぼありません。言ってもしょうがないならやめようか、というわけじゃないでしょうが、出鼻をくじかれたという感覚はあるかもしれません。
 死刑制度への強い支持を主張するのなら、「グアムの制度がおかしいのだ、制度を変更せよ」と強く求めるという方法があるのですけど、あまりそういう話は出てきません。そう主張してしまうと「世界中に死刑制度を広めよう」ということになってしまって、そこまでデカい話は責任持てないと逃げているのかもしれません。
 (容疑者にはその後、終身刑の判決が出たようです。)

2. 外国の出来事なので腰が引けている
 これも十分考えられます。
 よく知っている土地で、自分と同じ人種の人間が起こした事件であれば、やはり感情的になりやすい。
私だって4年前はそうでした。
 しかし今回は、外つ国で外国人が起こした事件です。顔の表情一つ取っても、日本人なら「あんなふてぶてしい表情しやがって」とかすぐに感じられるところが、イマイチよくわからないということはあるんじゃないでしょうか。

 とはいえ、以上の2つはこじつけみたいなもんです。私の考える最も大きな理由は、これ。

3. 警察関係者からのリーク情報が手に入らず、マスメディアがいつものような続報を流せない
 事件報道ってのは、実はとても簡単なんです。
 現場に行ってカメラ回してテキトーに何かしゃべってれば、一応ニュースになる。
 そして、日頃から仲良くしている警察の方々にひっつき回って、捜査や取り調べの情報を聞き出す。
 警察もメディアにはいろいろとリークしてくれますから、そのリーク情報を続報として流せばいい。こうすれば毎日続報が流せます。
 もちろん、リークされてくるのは容疑者にとって都合の悪いことが多い。警察は逮捕した時点で容疑者=犯人と睨んでますから、当然それを揺るがすような情報は流しません。
 日本で何か事件が起きると、「◯◯容疑者は××と言っていることが関係者への取材で明らかになりました。」てな続報が毎日流されます。
 そういう日本的なニュースを聞いてると、容疑者は間違いなく犯人で、それも相当のワルじゃのうと私たちは感じるようになります。
 しかししかし。今回は日本じゃありません。
 日本人がこれほど理不尽に殺傷された事件です。メディアが取材に手を抜いているとは思えません。
 思うに、新聞もTVも、事件報道=リークをいただいてそれを続報する、という手法にすっかり慣れてしまって、今回の事件についてはどう続報を出していいかわからず困っているんじゃないでしょうか。

 恐らく、私のような日本のメディア視聴者も、そういう警察リーク情報が続報として日々流される状況にどっぷり浸ってしまっている。
 だから続報がないと、それっきりになる。続報がない=大きなニュースではないと思うようになってしまっている。
 国内の凶行であれば、日々のリーク情報によって怒りがこみ上げ「こんなヤツ死刑だ!」と叫ぶところが、続報がないので怒りが盛り上がってこない。


 社会問題に対する私達の感情は、想像以上にマスコミュニケーションにコントロールされているんじゃないでしょうか。

 メディアは報道しやすいネタを選んで報道している。例えばグアムの警察に突撃して決死の覚悟でリーク情報をもらって国内と同じように報道しよう、なんてことはしない。国内の、仲良しの警察関係者から話が聞ける容疑者と、今回のような容疑者では、報道は全然違う。
 別に「偏向」報道を意図しているわけでもなんでもなく、ただ「お仕事」としてやりやすいことをしているだけなんだろうけれど、それがこういう偏りを生み出すことがある。
 それゆえ、私達の怒りやら共感やらも、よく流れてくるネタに対してのみ沸き上がる。ニュースとして大きく扱われない事件に対しては、怒りも共感も別に持たない。地味なニュースをわざわざ調べてあれこれ意見を言うのは(私も含めて)一般的じゃない人のやること。

 誰かが悪意を持って「偏向」した情報を流して国民をどーのこーの、というわかりやすい陰謀論じゃなくて、特段の悪意もなく、メディアも私達も、偏った感情を持ってしまう。

 怖いですね。
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