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ssh1021 坊主頭お断り [ご挨拶&エッセイ]

<2017>
*初出は2013年

<登場人物>
 私・・・某公立高校教諭。全日制英語科クラスの海外研修引率でオーストラリア出張中。Kさんには今回の研修の手配をしてもらっている。オージーイングリッシュの聞き取りに悪戦苦闘。
 Kさん・・・オーストラリア在住の日本人女性。オーストラリア人男性と結婚し、現在夫婦で留学などの手配をする会社を経営するキャリアウーマン。英語も日本語も極めて流暢。

<場面>
 生徒達が研修する学校での、モーニングティーのひととき。

*******
 私: この学校って、公立ですよね?
 Kさん: ええ、州立の学校です。
 私: 日本の中学生と高校生にあたる生徒が来ているような感じですね。
 Kさん: こっちで言うところの7年生から12年生ですね。ここは5歳から義務教育が始まりますから、日本より1年早いです。
 私: 先日、日本語の授業のお手伝いをしたんですけど、え〜と、あれ7年生ですか。
 Kさん: こちらの学校は7年生で日本語が必修になってるんですよ。
 私: え?必修。それはまた、大変な。で、その7年生なんですけど、まあ何というか、なかなか元気というか・・・。先生、ちょっと苦労してましたね。
 Kさん: (苦笑)あんまりいい授業じゃなかったですか。オーストラリアの公立校には、入試ってものはないんですよ。ここも地元の生徒がそのまま入って来ていて。だからいろんな生徒がいるんです。ものすごく優秀な子から、その正反対まで。
 私: あ、そうなんですか。いや別に非難してるわけじゃなくて、まあいずこも大変だなあと。ウチの愚息たちの中学時代も、教室内はなかなかドタバタしていたみたいですよ。 私: ここ、制服ありますね。
 Kさん: ええ。
 私: 私の勤務校は制服ってものがありませんで。県内の高校には割と制服のないところが多いんですよ。
 Kさん: あら、そうなんですか。私の出身地だとは制服が普通だったんですが。中学もそうなんですか?
 私: 中学はみんな制服ですね。制服についてはちょっと面白い話があって、私の地元のとある学校は、1980年代になって制服を廃止したんですよ。その理由が面白くて。制服があると、変形制服なんかの「着崩し」が却って横行してしまって、特に当時のツッパリファッションが近隣の人にえらく評判が悪かったんですって。そこで制服そのものをなくしてしまった。誰も制服を着ていないと、着崩すことの優位性が失せてしまって、ツッパリ君たちも困ったみたいですよ。
 Kさん: へえ、そういうこともあるんですね。
 私: 制服があると、服装指導がなかなか面倒臭いんですよ。ああいうものは「線引き」が難しくて。悪くすると、物差し持ってスカートの丈を計るような滑稽な世界に突入しちゃう。
 Kさん: ははは。私の若い頃にもそんな話は聞いたような気がしますね。で、先生の学校は、服装はまったく自由なんですか?
 私: 細かいルールはなくて、学校で学ぶのにふさわしい格好をしてこいという感じですか。今一番指導の対象になるのは、髪の毛の色と、ピアスなんかの装身具ですね。
 Kさん: 茶髪はダメとか?
 私: 茶髪はダメですね。やっぱ、世間があまりよしとしないものを学校が自由でよろしいとは言えないですから。その点、こっちは制服はあるけど、髪の毛はわりと派手な子がいますね。
 Kさん: 確かに日本だとちょっとマズいだろうなという子はいますね。

 Kさん: 実はですね。オーストラリアって、坊主頭がダメなんですよ。
 私: は?坊主はダメ?
 Kさん: ええ。男の子が坊主頭にしてくると、間違いなく先生たちがやってきて「君、なんだ、その頭は?」って詰問しますよ。
 私: それはまた、どういう理由で?宗教的な問題とか?
 Kさん: いえ。こっちの人には、坊主頭って、カジュアル過ぎるみたいなんですよ。
 私: えええ〜っ!?
 Kさん: 今日もけっこう派手に髪の毛にカラーリングしてる女の子がいましたけど、ああいうのは構わないんですよ。それよりも、坊主頭の方が、くだけ過ぎているというか、きちんとしていないって受け止められちゃうらしくて。
 私: 「学校に来るのに坊主頭にして来るなんて、不真面目にもほどがあるぞ」っていう感じなんですかね。
 Kさん: まあ、そんな感じでしょうね。
 私: じゃあ、もし日本から野球部の一団が留学に来たら・・・。
 Kさん: (笑)間違いなく大問題ですね。
 私: あれ?今思い出したけど、確か坊主頭の男の子、見かけましたよ。
 Kさん: あれはチャリティの関係です。
 私: え?坊主頭チャリティ?出家して托鉢でもするんですか?
 Kさん: 違いますよ。チャリティの散髪っていうのがあるんです。学校にチャリティのための理美容士が来てくれるんです。その時は坊主頭にカットすることになっていて、子どもがその代金を支払うと、それがそのままチャリティ基金に行くんです。
 私: へえ、そりゃまた面白いシステムですね。それは男子専門?まさか女子も坊主にするんですか?
 Kさん: 女子はさすがに坊主ってわけにはいかないんで、カラーリングしてもらって、その代金がチャリティに行きます。
 私: ふ〜ん。あ、ベル鳴りましたね。
 Kさん: じゃあ、次の授業を見に行きましょうか。
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