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ssh1040 貸した奨学金は返らない [教育問題]

<2017>
<ssh321再録 初出2010年>

 ここ2〜3年ほど、奨学金返還の滞納が話題になっています。例えばこんなの。

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 日本学生支援機構によると、平成20年度の奨学金の滞納者は計31万人で、滞納金の総額は723億円に上っている。機構では、正規の返済猶予手続きをせず滞納を続ける場合には延滞金を課すなどの措置を講じているが、それでも滞納者は4年前より6万1千人増えている。「返したくても返せない」という人も多い。(中略)
 奨学金制度に詳しい千葉大の三輪定宣名誉教授は「卒業後も定職につけず、派遣やバイトで稼いだ少ない収入から奨学金を返済する人も多い。だから、延滞してしまうケースもある。貸与ではなく、給付型奨学金が早急に導入されるべきだ」と訴える。
 民主党政権はマニフェスト(政権公約)で「給付型の検討を進める」としているが、国の財政は厳しさを増している。川端達夫文科相は6日の閣議後会見で「マニフェスト的には非常に意識しているが、最終的にはお金がネックになっている」と明かした。
 同機構では「給付型の導入はどうなるか分からない。しかし、返済金の半額軽減で滞納者が減ることを期待している」としている。<MSN産経ニュース 4月11日>
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 実は産経クン、3月には「奨学金滞納 借りたものを返すは常識」というタイトルのかなり手厳しい社説を書いていました。理由のない滞納は許されないと。

 別に産経クンだけなじゃいんですが、世の中、奨学金と教育ローンをごっちゃにしてる人が相当いるようです。
 世界の奨学金の主流は給付型(返済義務なし)で、貸与型(返済義務あり)が主流の日本はなかなか珍しい国です。
 私も奨学金が「奨学」金であるためには、給付型がベストだと考えています。なぜなら、奨学金を貸与しても、返ってくるアテはないからです。
 もっとはっきり言えば、貸した奨学金は返らない。
 奨学金は、貸し付けビジネスにはなり得ません。
 ローンの場合、貸し付け審査は返済能力の有無が重要となります。返済能力がある、あるいは担保となるものがある、そう判断してもらって、初めてローンは借りられます。収入が保証されている人や資産の大きい人でないと貸してもらえません。
 一方、奨学金の場合、審査は家計の厳しさが重要です。なるべくカネに困っている人が優先。もちろん成績は重要ですが、同じ成績ならより収入の少ない人が優先です。
 これはつまり、最も返済能力のない人間が最優先されかねないことを意味しています。

 まあそれでも、借りた学生がその後一人前に就職して、ある程度の収入を安定して得るという確証があれば、奨学金が返還されるアテは出てきます。
 事実、高度経済成長時代にはそれが期待できました。とにかくきちんと学校教育を終えれば、企業や公務員が終身雇用で迎えてくれた。経済は右肩上がり。貸した奨学金は返りました。
 しかし、ご存知の通り、現在は中等高等教育を終えたからと言って「ある程度の収入を安定して得る」=正規雇用の仕事にはそう簡単には就かせてもらえません。名のある大学を出ても派遣や請負になる時代です。借りた奨学金を確実に返せる保証はありません。

 貸し付けがビジネスとして成立するのは、貸したカネに利子がついて返ってくるからです。「銀行は慈善事業をしている訳じゃない」と融資を断られた経験のある人ならおわかりでしょう。貧乏人にはカネは貸せない。それがビジネスです。
 しかし奨学金は、例えば大学生時代の私のような貧乏人の小せがれや小娘にカネを貸すものです。
 せめてその子たちの将来の収入が見込めれば「出世払い」で貸すこともできますが、今のご時世ではそれも期待できません。
 貸し付け事業としては、これほどリスキーなものはありません。ハイリスクローリターン。最低のビジネスモデルです。


 日本育英会が現在の日本学生支援機構という独立行政法人になったのは2004年。時は小泉改革が喝采されており、「痛みを伴う改革」「官から民へ」「国際競争を勝ち抜く」などの合い言葉も勇ましく、派遣労働法の改正など様々な改革が行われました。
 現在、あれらの改革は弊害が大きかったというのが定評になっているようですが、この育英会の独立行政法人化は、本当にまずかったと思いますね。
 奨学金の運用が「独立」でやれるはずありません。
 だって、貸しても返ってこないんだから。一番返せそうにない相手に貸すんだから。

 奨学金は給付型であるべきだ、と私が主張するのは、そういう理由です。
 奨学金は、ビジネスにはなり得ません。
 奨学金は、慈善事業みたいにならざるを得ないんです。


 これから奨学金をどうしていくか?選択は2つしかありません。
1 独立行政法人としての事業を堅持し、運営を健全化するのであれば、今後、返すアテのない相手には貸さない。奨学金の本来の使命である「奨学」の理念を捨て、ただの教育ローンとして運営する。貧乏人の小せがれや小娘には教育を受ける権利はあきらめてもらう。
2 奨学金の理念である「奨学」を堅持するのであれば、採算はあきらめる。貸した奨学金は返らないと割り切り、それを前提とした制度設計をする。より具体的には、独立行政法人の形態に固執せず、場合によっては「民から官へ」の逆改革を行い奨学事業を公共事業化し、税金その他のカネで奨学金を賄う。

–オマケ−
 2006年にノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのユヌス博士は「マイクロクレジット」という実践を行いました。これはこれまでのビジネスの常識を覆し、貧困層に少額の融資を行うことをビジネスとして成功させたものです。
 ここまで「貧乏人にカネを貸す」という表現をしてきたのでユヌス博士のことを思い出したのですが、ただ、こと奨学金ということになると、マイクロクレジット的な手法は難しそうな気がします。詳しいことはWikipediaあたりで見てください。
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