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ssh1041 貸与奨学金も持ち家政策も終身雇用が前提 [教育問題]

<2017>
<ssh371再録 初出2010年>

 奨学金は貸付ビジネスとしては成立しない、なぜなら借りるのは貧乏人の子どもたちだからもともと返済能力は期待できない。奨学のための奨学金は給付型にせざるを得ない―というのがssh1040「貸した奨学金は返らない」の論旨です。

 この意見には今でも変更はありません。貧乏人にも教育の権利を認めるなら、なんとか財源を作って奨学金を給付型にせざるを得ない。それがイヤなら純粋に教育ローンとして運営し、「貧乏人は学校へ行くな」と国家レベルで教育権の否定を宣言することです。
 まあ、教育権を認めないとなれば、もう先進国とは言えないから、非先進国宣言をしてOECDから脱退した方がいいでしょうね。そうすればPISAテストも参加しなくていいから、順位低下を気にしなくていいかも。っと、これは言い過ぎか。

 ご存じの通り、日本は貸与型奨学金中心のシステムで長くやってきました。で、1980年代くらいまでは、それで一応うまいこと回っていました。
 なぜうまく回っていたのか?理由として考えられるのは以下のようなこと。
1 貸与型とはいえ、免除職(教育職に就くと返還免除)や特別奨学金(全額を返す必要のない奨学金)など、実質的に給付型のシステムが併用されていた。
2 大学の学費が現在に比べはるかに割安だった。我が国の大学の学費は、物価スライド率をはるかに上回るハイペースで値上げされてきた。本年の消費者物価指数は1975年の約2倍だが、国立大学の授業料(入学金含まず)は年額535800円と、1975年(年額72000円)の7倍以上である。
3 経済が発展段階にあり、まじめにやっていれば卒業後の就職はほぼ確実であった。
4 これが本題だが、終身雇用制度であったため、収入がそれほど大きくなくても、時間をかけて借りたゼニを返すことが十分に見込めた。 
  終身雇用システムが時代にそぐわないと批判され始めたのは1980年代ではないかと思います。実力主義・能力主義賃金で国際化時代に立ち向かえ、みたいな感じで。
 ただ、当時はバブルに向かっていましたから、離職してもすぐに仕事は見つかりましたし、何よりバイト代がすごく高かった。体力に自信があれば、大学生がバイトで200万円近いクルマを買うことすら可能でした。今ではとても信じられませんね。
 財界も財界で、「日本は経済一流、政治三流」と豪語していました。なんだか「平氏にあらずんば人にあらず」みたいですが。
 その後バブル経済はピタリと終了、1990年代は企業業績が軒並みダウンして一大事になります。一流の経済はあわてて三流の政治に「景気対策を」と泣きつきます。
 で、小泉竹中の構造改革路線で、現在のような「労働の流動化」状態が作られました。企業業績は改善されましたが、労働者の状況はご存じの通りです。
 
 奨学金はけっこうな額を貸与されます。日本学生支援機構の第1種(無利子)奨学金は月額5万円前後(大学が国公立か私立か、住居が自宅か自宅外かで額は異なる)。4年間では200~300万円ほど借ります。返還は月12000~15000円ほどを14~18年かけて行います。
 奨学生は、卒業した時点で200~300万円の借金があるわけです。ひどい言い方をすれば、14~18年ローンで200~300万円の借金を抱えた新社会人の誕生です。
 この貸与奨学金をキッチリ返してもらうためには、少なくとも14~18年間は、毎月15000円くらいのお金を返し続けられるくらいの仕事にはついてもらわないといけない。
  あ、言っときますけど、親に肩代わりしてもらおうなんてのは不可能ですよ。貧乏だから奨学金借りてるんですから。親に肩代わりできるだけの財があったら奨学金なんかいりません。

 つまり。貸与奨学金を回収するには、14~18年くらいは継続して働けるような仕事の口を、奨学生の人数分用意しておかないといけない。もちろん終身雇用ならこの条件はクリアします。

 実は今、同じ理由で壁にぶつかっているのが持家政策です。
 日本は昔から持家政策です。賃貸住宅は単身者や小家族用の狭いものが中心で、ある程度家族が大きくなったら家を持つ。
 もちろん家は高価な買い物ですが、輪をかけて高価なのが土地。日本は世界に冠たる地価の高い国です。とにかく高い。
 地価が下落すると法人や大地主は困ります。なぜなら彼らにとって土地は株などと同じ「資産」だから。資産価値は高い方がありがたい。
 けど、「土地とは家を建てるためにどうしても用意しなければならないもの」という市井の人間にとって、高い地価は100%迷惑です。
 地価が高いと家そのものにカネがかけられない。実際、日本の住宅はクオリティが低く、中古住宅として市場に出ることなく20年かそこらで取り壊されるものが多数です。50年かけて育った木で作られた家が20年ももたずにゴミになるというのもすごい話です。

 持家政策では、勤務や通学に耐えられる場所に家族全員がフツーに住まうような手頃が賃貸住宅がない。泣く泣く多額のローンを組んでバカ高い土地にイマイチの家を建てるしかない。
 住宅ローンは貸与奨学金の比じゃありません。文字通りケタが違う。数千万円の借金を数十年かけて返します。月々の返済だって給料の25%くらいになる。
 終身雇用の時代は、それでも何とかなりました。勤務先は一定だし、定年まで雇ってもらえるから、退職金や年金まで計算して、ギリギリ最高の金額を借りれば、まあまあのマイホームが手に入った。あとはいろいろ切り詰めながら頑張ればローンも返せた。

 雇用の流動化というのは、つまりは、同じ仕事をずっと続けられる保証はないということです。さらに言えば、仕事そのものが常にあるという保証もない。
 イコール、長期のローンを組んでも、安定して返済できる保証はないということです。
 それどころか、ローンそのものが組めないかもしれない。いつ仕事が「流動」するかわからないような相手には、銀行だってあまりカネは貸したくないです。

 アメリカやイギリスは長いこと持家政策を取っていませんでした。比較的大きな家族でも賃貸にずっと暮らすことができた。
 しかし、80年代以降、新自由主義に走る経済界に押されて、持家政策に転換しました。つまりは住宅を市場原理に委ねたわけです。
 その結果、アメリカでは住宅バブルが発生し、低所得者層はまともな住宅を手に入れられなくなりました。さりとて持家政策で手頃が賃貸も絶滅。どーせ日干しになるんなら見通しがなくたって構うもんかと思っのか、多くの低所得者層は審査基準がメチャクチャに甘いローンに手を出し、そのカネで家を買いました。これがサブプライムローンです。
 で、その結末はみなさん御存じの通りのリーマンショックです。
 アメリカはもともと終身雇用じゃないですからね。

 持家政策も、貸与奨学金と同様、雇用が将来にわたって保証されて初めて成り立つ政策なんです。終身雇用をやめて雇用の流動化を推し進めれば、フツーの労働者に家は買えません。
 ハウスメーカーと金融機関はこのへんのことを政府に働きかけた方がいいんじゃないですかね。このままじゃオレたちおまんまの食い上げだぞと。
 
 もし日本が「雇用の流動化」を今後も維持するのであれば、少なくとも次の2点は要改善です。
 1 奨学金のあり方を見直す。具体的には公共事業として給付制にするか、奨学の精神を捨てただの教育ローンにする。
 2 住宅問題にテコ入れする。具体的には、持家政策を見直し、低所得者や不安定雇用の人間にも住めるような安価な賃貸住宅を求職可能な場所(便のいい場所)に十分に用意する。同様に、ローンの組めない家族が住めるような十分なキャパの賃貸住宅を通勤通学可能圏内に十分に用意する。持家政策そのものを捨てないのなら、資産としての土地を居住用の土地を峻別し、居住用の土地の価格を大幅に引き下げ、雇用が不安定でも家を買えるようにする。
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