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ssh79 不正確な文章とは?〜作文技術(1) [作文技術]

<2007>

 今回からしばらく、文章を書く技術を扱いたいと思います。

 sshは小論文指導の場ですから、ここでいう「書く技術」というのは、自分の言いたいことを、読み手に正確に伝える文章を書くためのワザ
 であります。

 論述文に、美しさや感激的な部分は、基本的に不要です。重要なのは、正確に伝えることです。
 で、今回は手始めに、以下の文を御覧下さい。

◆◆◆  私たちは、子供たち一人ひとりが充実した学校生活を送り、自ら夢と希望を持ち、未来に向かって多様な可能性を開花させ、充実した人生を送るために必要な力を身に付けて欲しいと思います。そして、学校教育とともに家庭教育や大人社会全体の取組を通じて、我が国が永年培ってきた倫理観や規範意識を子供たちが確実に身に付け、しっかりとした学力と人格を磨き、幅広い人間性と創造性、健やかな心身をもって、21世紀の世界に大きく羽ばたいて欲しいと願っています。                        「教育再生会議第一次報告」より
                                    ◆◆◆
 もともとが小論文じゃありませんから、ここであれこれケチをつけるのも意地の悪い話ではありますが、しかし、それにしてもこの文、かなり不正確です。
 少なくとも小論入試だったら、不合格リスト一直線です。なぜか?

 全部は指摘しきれないんで、冒頭の文だけ指摘すると、

 ①主語と述語がわかりにくい。
 ②修飾・被修飾の関係がわからない。

 まず、「私たちは」どうするのか?
 文の末尾まで行ってようやく、「思います」という述語が出てくる。これじゃ離れ過ぎ。
 まあでも、これは許せないこともない。一応、主語と述語は分かるから。

 決定的にまずいのは、「子どもたち一人ひとりが」からの部分。
 これが主語だとすると、その述語は、「(学校生活を)送り」は、それらしい。
 文はさらに続くから、「(夢と希望を)持ち」もそのよう。
 「(可能性を)開花させ」も多分そう。
 どうやら述語がいっぱい並んでいるみたい。それならそれで、別段悪いことはない。

 ところが、この文、そう思って読み進めて行くと突如、障害物にブチあたる。
 「充実した人生を送るために必要な力を身に付けて欲しいと思います。」

 え?
 
 送るために必要な力?
 ってことは、その前は修飾語句?
 じゃ、その前は?
 その前の前は?
 どこからどこまでが、「必要な力」にかかってるの?
 子どもたち一人ひとりに身に付けて欲しい力って、
 次のどれ?
 A:「充実した人生を送るために」必要な力
 B:「未来に向かって多様な可能性を開花させ、充実した人生を送るために」必要な力
 C:「自ら夢と希望を持ち、未来に向かって多様な可能性を開花させ、充実した人生を送るために」必要な力
 D:「充実した学校生活を送り、自ら夢と希望を持ち、未来に向かって多様な可能性を開花させ、充実した人生を送るために」必要な力

 困った。
 この文、どの解釈も成り立つ。
 
 もし、この文を書いた人の意図した内容が上記A〜Dのどれかだとしたら、この文は、それを正確に伝えられていない。

 私の言う「正確」「不正確」というのは、例えばこういうことです。
 これは「不正確な」文の良い(?)例です。

 (もっとも、この文を書いた人に、伝えたい内容なんかもともとなかったのだとすれば、この文、なかなか味のある文ですがね。)

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