ssh461 「土日休業の主婦」の語り方〜ssh458攻略編 [小論実戦トレーニング]
<2011>
それでは、ssh458の攻略編です。
問題文は短いので、もう一回掲載しましょう。
◆◆<問題>
A君はこの春に高校1年生になりました。
中学までは運動部に所属せず、美術部に入っていました。
A君は絵を描くことは好きなのですが、本当は中学ではスポーツをやりたいと思っていました。
しかし、運動部はどこも土日に練習が入っています。
A君のお母さんは特に病弱とか虚弱体質とかいうわけではないのですが、早起きは苦手です。週末くらいはゆっくり寝かせて欲しいとよく言っています。
実はA君が中学で運動部に入らなかった最大の理由はそこにはありません。
A君の中学では、運動部員はみんな髪の毛をスポーツ刈りか坊主頭にしないといけないことになっていました。
A君はそれがイヤで、運動部への入部を見送っていました。
運動をすると勉強が遅れるかもしれないという不安もありました。だから美術部入部は自分の意思です。
さて、真面目に勉強したおかげで希望の高校に入学したA君ですが、ちょっとトラブルに見舞われています。
A君が進学した高校では、運動部員であっても髪型に特別な縛りはありません。校則で禁止されているようなことをしなければOKです。
A君は希望の高校で、今度こそとバスケットボール部に入ることにしました。
ところが、お母さんが難色を示します。
「私は土日までとてもお前の面倒は見切れないよ。高校は給食がなくてお弁当だから、毎朝今までより早く起きて結構つらいのよ。もしどうしてもバスケをやるんだったら、土日は自分で起きて朝ご飯食べて自分でお昼を用意してちょうだい。でないとお母さん、とてももたないから。」
問1 A君はバスケットボール部に入部すべきか、入部すべきでないか?
問2 このお母さんの発言について、キミはどう思うか?◆◆
<「けしからん」と斬って捨てれば不合格答案>
まず、A君のお母さん(以下「母親」とします)を「けしからん、親失格だ。」と斬って捨ててしまった人。アナタは残念ながら試験で切って捨てられます。
これについては、ssh138「箇条書きHow to小論文(2)」をご覧ください。
◆◆(6)意見は、大所高所から述べてはならない。
大所高所から述べるというのは、例えばこんなことです。
・拉致問題→言語道断だ、許せない。
・殺人事件→大罪だ、厳罰に処せ。
・いじめ→あってはならない。断固たる対処をせよ。
こういう言い方、威勢がいいんで、結構気持ちいいんですよね。しかし、意見文では絶対にやってはならないです。なぜ?
「言語道断」でしょ?言語の入り込む余地ないんでしょ?
「大罪」でしょ?同情の余地ないんでしょ?
「あってはならない」んでしょ?あること自体が許されないんでしょ?
議論の余地がないんですよ。議論にならない意見は、意見じゃないんです。
大所高所ってのは、いわば神様の視点です。他者よりもずっと高い、エライ場所から、自分よりずっと低い、バカどもを見下ろす視点です。そんな視点から語られて、誰が「なるほど」とうなずきますか?◆◆
意見というのは、異論の入り込む余地がなければなりません。
意見とは、反論が可能なものです。
意外に思うかも知れませんが、そうなんです。
ここを勘違いすると、意見文は書けません。
もし、どうしても母親が「けしからん」と思うのなら、なぜけしからんのかを、丁寧に考察することです。
<可能性を列挙する~なぜ早起きが苦手?>
ところで、母親はなぜ、早起きが苦手なんでしょうか?
病弱でも虚弱体質でもないといは書かれていますが、それだけでは原因はわかりません。
こういう時は、考えられる可能性をできるだけたくさん列挙してみます。すると、それまで思いつかなかった方向が見つかることがあります。
さて、考えられる可能性としては、
・体質の問題。低血圧、睡眠が浅い、寝起きが悪いなど。
・生活面の問題。宵っ張り、飲酒など。
・単なる怠け者。けしからん。
・よく眠れない環境にある。家が狭い、騒音が大きい、照明灯のすぐ近くにいる、ご近所が神経質、一緒に寝ている家人の寝相やイビキがひどい、など。
・朝、目の覚めにくい環境にある。朝の日差しがまったく入らない間取りなど。
・仕事の疲れ。(母親が専業主婦だとは書いてありません)
・家事の疲れ。(A君の家は大家族なのかもしれませんし、農家や商売家なのかもしれません。)
・夜の仕事をしている。警備員、スナックなど。
・A君以外に面倒を見ないといけない家族がいる。遠距離通勤の父親、小さい兄弟、祖父母など。
・病気の祖父母などのケアのために出る必要がある。
・A君の高校はとても遠く、彼は毎朝5時半に家を出る。そのため母親は午前4時に起きて弁当を作らねばならない。(イナカではよくある話です)
・ストレスがたまっている。父親や同僚やご近所とうまくいっていないなど。
・早起きとは直接関係ないが、弁当作りが極端に苦手。原因は案外A君の偏食かもしれない。
<A君の本気の度合いは?>
「A君、可哀想だなあ」と思った人は、ちょい待ち。
実は、A君の本気さ加減も、文面では少々心もとないのです。
何せ彼が中学でスポーツをやらなかったのは髪の毛と勉強が理由です。
なれば、高校でバスケを初めても、成績がイマイチになればやめたくなる可能性もあります。
もちろん逆に、いざ初めてみたらのめり込んで、ものすごく頑張るかもしれない。このあたりはやってみないとわかりません。
<お母さんは正直だ>
ところで、問2ですけど、このお母さん、なかなか正直ですよ。
大変だと、入部前からきちんと話しています。
それに、部活をやるなとは言っていません。やるなら土日は自分で何とかしてくれと言っています。
この言葉に何のウラもないとすれば、A君がクラブをやるのはそんなに大変なことじゃなさそうです。
土日の朝食と昼食を用意するだけのことですから。
さて、ここで隠し球の問3を出してみましょうか。
問3 問1の自分の答えの正反対の答え(「入部すべき」と答えた人は、「入部すべきでない」に)を、理由をつけて述べてみて下さい。