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ssh476 カセットテープのお話(5)part 2 [科学と技術]

<2011>

注:So-netブログの仕様変更によりssh476が1本の記事としてアップできなかったため2本に分けてあります。

 

 CDが普及し始めた1980年代中盤、音響エンジニアがとあるインタビューで「次世代オーディオでは音楽はICチップのようなものに納められる。もはやテープやディスクを回すような機械的な装置は使わなくなる。」と断言していました。

 この話を聞いた時「原理的にはそうかもしれないけど、そんなものそう簡単に実用化はできないだろうに。」と私は思いました。

 

 しかし。現実はエンジニア氏の言った通りになりました。それも予想外に早く。

 音楽をデジタルデータとしてダウンロードし、好きなように編集する。再生はパソコンかiPod。どうしてもCDで聞きたければCD-Rにすればいい。

 

 こうなると、カセットもMDも一気に劣勢です。

 パソコンとインターネットが普及し、各メーカーがPCで音楽を楽しむ方向に乗り、多くのリスナーがそれに同調しました。音楽業界はコピーコントロールCD(PCでダウンロードできないように妨害信号の入ったCD、略してCCCD)で対抗しましたが、今度はDATの時のようには行きませんでした。もはや市場の流れは止めることができず、最後まで突っ張っていたエイベックスもCCCDの生産を止めました。まあそもそも自腹を切って買ったCDすらダウンロードできないというのはずいぶんと意地の悪い話だし、何よりCCCDはフツーのCDプレーヤーでの再生にトラブルが発生することがあったのです。

 

 

 パソコンとiPodは、音楽の聞き方をさらにカジュアル&パーソナルなものへと変えました。

 ウチの豚児たちを見ていると、音楽は基本的に一人で楽しむもののようです。iPodやゲーム機を使ってイヤフォンで聞くか、スピーカーで聞くとしてもパソコンの前で聞くか、とにかく個人的に軽~く聞くもののようです。みんなで同じものを聞くのは、クルマの中くらい。リビングルームにはオンキョーのHDDコンポもあるのですが、iMacがリビングに引っ越して以来、かなり出番が減っています。

 

 また、音楽のダウンロードサービスによって、CDを買うという行為もかなりいらなくなってきました。

 今、音響メーカーが力を入れているのは、家の中のネットワークオーディオです。家のどこかに大容量のHDDストーレッジを用意し(パソコン内蔵でもOK)、音楽はそこに一括して入れておく。リスナーはそれをLANを使っていろいろな装置に配信させて聞く。装置は部屋に据え置きされたコンポでもいいし、無線LANでノートPCiPodや音楽ケータイに飛ばしてもいい。

 

 私は、たぶんこれからもその方向でオーディオは進むだろうと思います。

 

 PCオーディオの最大の難点は、私に言わせれば音質です。およそ本格的なコンポで楽しめるような音じゃない。

 でも、私もPCオーディオは聞きます。今もiTunesで音楽を流しながら記事を打っています。iPodも聞きますし、PCで作ったCDはカーオーディオには不可欠なものになってます。

 多くのリスナーにとって、「音楽を聞く」というのは、ポップミュージックを上述したウチの豚児たちのように楽しむことです。そういう聞き方なら、PCオーディオは十分な音質を持っています。

 それと、方式が同じでも、音質はかなり改善ができます。アナログレコードもFMもカセットもCDも、最初から同じ規格を使い続けながら、様々な改良を受けて音質をアップしてきました。

 同じことが、ネットワークオーディオやPCオーディオでも起きる可能性はあります。

 最近、高級オーディオメーカーが「ネットワークオーディオプレーヤー」なるものを相次いで発売しています。ネットワークオーディオを本格コンポでも楽しめるようにという狙いです。これが受け入れられれば、音楽ソースの主流はネットに変わることになるでしょう。

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 カセットケースの変遷。左が一番古いタイプで、インデックスカード側のみ透明。真ん中の上が1980年代に一般化したタイプで、本体側も透明。下はスリムケース。カセット下部の突起に合わせてケースに凹みを作り、ケース全体の厚さを減らしたもの。カセットを大量に持ち運ぶにはこういう小さなカイゼンはありがたかったのです。右は横開きのスリムケース。横に開くことに特段のメリットもないのですが、成熟市場ではこういう変わりダネ商品がよく出ます。


 


 磁気テープに音楽や映像を記録する方式は、すでに過去のものになりつつあります。

 かつてスタジオで活躍していたでっかいオープンリールのマルチトラックレコーダーはもうありません。現在はフラッシュメモリーとHDDによるデジタル多重録音です。民生用の録音機もメモリータイプが主流です。最初はボイスメモ用だったICレコーダーも、今やハイクオリティな音楽録音機まで普通に入手できます。


 かくして主役の座を譲ったカセットですが、まだ引退したわけではありません。

 カセットのキカイは今でも生産され販売されています。小型テレコやCDラジカセは安価なものを主軸にホームセンターなどで売られています。カセットのカーステレオも健在です。テープもまだまだ入手は容易です。

 カセットが頑張っているのはカラオケの分野です。カラオケ練習用の10分ほどの短いテープはかなりの需要があります。年配者向けのカラオケ教室ではカセットはまだまだ必需品です。

 

 CDが登場したとき、誰もがアナログレコードの絶滅を予測しました。

 でもアナログレコードは生き残りました。特にミュージシャンやDJには大切なメディアです。

 

 じゃ、カセットはどうなるか?

 何しろ磁気テープ記録方式そのものが捨てられかけてますから、見通しはどうかな~。

 でも、録音機としては、まだしばらくは生き続けるのじゃないかなと思います。

 何しろカセットはキカイもテープもそれこそ掃いて捨てるほど世の中に出回っています。

 扱いも簡単です。デジタルものはどうしても年配者にはつらい。カセットはテープを入れてボタンを押すだけです。音源の貸し借りもテープそのものを渡すだけでいい。ファイルの互換性とか気にする必要は一切ない。

 

 もはやカセットが主役に返り咲くことはないでしょうが、それでも地道にしぶとく生き続けていく、と私は思います。

 

 大長編記事となってしまったカセットテープのお話はこれにて完結です。

 

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 今もって捨てられずに書斎に置かれている大量のカセットテープとそれを納めるラック。このラックは当時最も一般的だった形状で、各々の引出しに15本のテープが入ります。写真だけで270本分。一番多いときは400500本ほどのカセットを持っていました。さすがに古いものは捨てましたけど。

 

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 これは買い置きしたっきり未だに使っていないバージンテープの数々。CD時代のカセットはパッケージがやたらと華やかでした。メタルテープもあります。久しぶりに何か録音して使ってみようかな。


 

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