ssh482 実戦トレーニング〜How to 要約 攻略編 [小論実戦トレーニング]
<2011>
―10月23日付 追記訂正あり―
では、ssh481の解答解説。
意見文の要約というのは、コツをつかめば案外簡単です。みなさんも是非コツを覚えて下さい。
先にゴールを明示しておきましょう。意見文の要約=その人の意見をまとめること。
より詳しく言うと、意見以外は基本的にカットすること。
では、冒頭から少しずつ見ていきましょう。まずは第1段落
◆◆世界の経済と金融の中心地ニューヨークのウォール街で始まった反格差社会デモが世界各地に拡大しつつある。その様子はテレビやインターネットで伝えられ、抗議行動は欧州、アジアの80カ国950以上の都市に飛び火しているという。東京・六本木でも小規模ながらデモがあった。
ここには3つの文があります。が、要約する上では第2文と第3文は全く不要です。第2文と第3文は、第1文を補強するための例示と説明です。
「反格差デモが世界各地で起きている」⇒世界各地ってどこ?⇒それは欧州やアジアなどで、日本も含まれている⇒どうやって?⇒ネットやテレビで広がって。
例示や説明のための文を、要約に入れてはいけません。
なぜ?
例示は、何かをより具体的に示すためのものです。
説明とは、同じ内容を別の言葉で言い換えたものです。
つまり、どちらも、同じ内容を重複して言っているだけです。要約には不要です。
(ちなみにこの記事の「ここには・・・」から「要約には不要です。」までの10行では、「なぜ?」から後ろの部分は説明のための文です。もしこの10行を要約すれば「例示や説明のための文を要約にいれてはいけない。」でしょう。)
というわけで、第1段落の要約は、
「反格差社会デモが世界で起きている。」
これだけ。
次に行きましょう。
◆◆先進国の都市を中心に広がるデモは、世界が今なお2008年のリーマン・ショック後の金融・財政危機から立ち直れない現実の帰結といえる。景気低迷や高い失業率に直面し、未来への希望を描けない若者世代が重苦しい不安と抑えきれない苛立(いらだ)ちを抱えている現実は、心情的には理解できる。
第1文の要約は「デモの原因は金融経済危機である」。
生真面目な受験生にご注意。修飾語句は90%以上不要情報です。修飾語句はたいていただのデコレーションです。
例えば第1文冒頭の「先進国の都市を中心に広がるデモは」の「先進国~広がる」はカットしてください。この情報はすでに第1段落で述べられています。また、第2文の「リーマン・ショック後の」というのも不要です。
次の第2文ですが、これはバッサリとカットしてもらって差し支えありません。ここは文そのものが不要です。
「心情的には」理解できるということは、心情的にしか理解できないということです。「気持ちはわかるけどねえ・・・」という意味です。倫理的には、法律的には、論理的には、社会的には、理解できない。筆者は、このデモにあまり理解を示していないのです。
というわけで、第2段落の要約は、
「このデモは金融経済危機が原因である」
でおしまい。
第3段落に行きましょう。
◆◆1929年の大恐慌を教訓に、米国では自由競争と機会均等の原則に立ちつつ、金融の暴走に歯止めをかける工夫を重ねてきた。だが冷戦終結後、ドル基軸のグローバル化が一段と進む中で、そうした姿勢を見失った。格差社会の拡大は、強欲にかられて金融・経済の倫理やリスク管理を怠り、自らの繁栄のみを追い求めた近年の時代感覚と表裏の関係にある。
まず、第1文はカットです。理由は第2文の冒頭の「だが、」。逆説語がある場合、その後ろが本当の意見です。
「彼はいい人だが口数が多い。」と言ったら、彼は口数が多いよと非難している。
「彼は口数が多いがいい人だ。」と言ったら、彼はいい人だねと褒めている。
ごくまれに例外もありますけど、「だが」「しかし」「ところが」などが出てきたら、重要なのはその後です。ちょうどこの文のキモが「ごくまれに例外がありますけど」にないとの同じ。
では第2文の価値は?
これ、ほぼ無価値ですね。ただ第1文を否定しているだけです。つまり第1文と第2文は、セットでチャラ。
てなわけで、ここの要約は、
「格差社会は金融・経済の倫理やリスク管理を軽視したせいである。」
となります。
では、第4段落。
◆◆1989年のベルリンの壁崩壊から既に22年、旧ソ連の消滅からは20年が経過した。冷戦勝者とされた米国も含めて、今のありようを自省するときがきた印象だ。何よりも、「親よりも豊かになれない」ことへの憤りが、米国だけでなく欧州やアジアの比較的裕福な国の若い世代にも共有されたからこそ、デモは世界に広がったと受け止めるべきだろう。その意味でデモは、今の世界の構造的な矛盾や問題点に注意を喚起しているのは間違いない。
第1文と第2文はカットです。「印象」だから。単なる印象なら根拠にはなりません。
それと、第3文冒頭に「何よりも」とあります。ということは、第1文と第2文「よりも」第3文は重要ということです。この第3文には筆者ならではの重要な意見が含まれています。第4文もカットはできません。ここにはデモの価値への評価が入っています。
従って、第4段落の要約は、第3文と第4文の内容すなわち、
「デモの拡大は若い富裕層先進国の若者の共感ゆえである。デモは世界の構造的な問題を指摘している。」
となります。
最終段落です。
◆◆一方で、やすやすと映像が国境を越え、世界に波及する直接行動に対し、何かを変える力であるかのような錯覚を持つことには十分に注意する必要がある。格差の解消は、曲がりなりにも機能しているシステムの破壊を叫ぶだけでは決して実現できないからだ。ましてや参加者に紛れて商店を破壊するなどの行動は断じて許されない。世界は今までも、そして今も、矛盾に満ちている。その所在を明確にするために怒りの表明が必要なときもあるだろう。ただし、矛盾解決の道筋を確立するには、直接行動とは異質の地道な作業が必要だ。デモの喧噪(けんそう)に少し距離を置き、そうした困難な作業に取り組む勇気が若い世代に広がることを期待する。
「一方で」という言葉は対比のための言葉とされています。しかし、対比というのはかなりの確率で逆説です。つまり後ろの方が重要。実は第4段落よりも最終段落の方が重要な可能性があります。
で、ここの第1文ですが、これは重要です。ここで筆者ははっきりと「錯覚」という言葉を使って、TVやネットでの波及を批判しています。
第2文は第1文の理由。これはそれほど重要ではありません。理由は要約にはあまり要りません。
第3文「ましてや」というのは付け加えです。付け加えはオマケなのでカット。
第4文もカットです。これは一般的事実=当たり前のことです。当たり前のことは言う必要なし。
第5文は譲歩です。譲歩は要約ではカットしてください。そもそも第6文で「ただし」と否定されてますし。
第6文は逆説の後なので残ります。筆者は「矛盾の解決にはデモ以外の取り組みが必要」と主張しています。もっと言えば「デモで状況は変わらない」。これは第1文とほぼ同じです。
第7文はカット。これは第6文と同じ内容です。
最終段落の要約は、
「デモで状況は変わらない。」
でいいでしょう。
以上で各段落を要約する作業は終了。では、各段落の要約を足してみましょう。
「反格差社会デモが世界で起きている。このデモは金融経済危機が原因である。格差社会は金融・経済の倫理やリスク管理を軽視したせいである。デモの拡大は若い富裕層先進国の若者の共感ゆえである。デモは世界の構造的問題を指摘している。デモで状況は変わらない。」
いや~、ずいぶんと短くなりましたねえ。と安心したアナタ。まだまだ甘~い!
私のリクエストは50文字。この要約は倍以上の116文字あります.
各段落の要約を足していくだけで、ほぼ満足いく答案になるという問題もありますけど、今回はダメ。
各段落の軽重を判断して、軽い部分を切る必要があります。
では、この課題文で「軽い」段落はどれ?
すぐにわかるのは、第4段落です。
第4段落は、「一方で」という対比の言葉の前にあります。よってカットの対象。
ここをカットすると77文字にダイエットされます。あと27文字カットすれば完成。
こうなると、第3段落をカットすることになりそうです。
というのは、第3段落は、金融経済危機の原因を指摘しているのですが、この指摘はしごく常識的です。
意見文を要約する場合、筆者ならではの独自性のある部分こそ重要です。字数に収まらない以上、ここは価値が薄いとしてカットしましょう。
これで字数はほぼ満足いくものにダイエットされました。あとはちょいとお化粧すればおしまい。では完成品を。
「金融経済危機が原因の反格差デモは若い富裕層先進国の若者の共感もあり世界に広がったが、デモで状況は変えられない。」
もっと究極的な要約をすれば、こうなります。
「反格差デモで格差社会はなくならない。」
ずいぶん長い記事になってしまって恐縮です。
しかし、意見文の要約というものの方法論は、いささかわかっていただけたでしょうか?
今回の課題文の場合、「ああ、筆者は反格差デモには賛同できないって言ってるのね。」というふうに読み取れなければダメだということです。
―追記―
心如さんより頂いたコメントを読んで、記事を一部訂正しました。(注:コメントは消失)
私は当初、比較的裕福な国の若者=裕福な若年層と読み取りました。筆者はデモ参加者は必ずしも生活苦から動いたわけではないと。
しかしこの部分は心如さんの読み取りが正しいと思います。比較的裕福な先進国の若者というのは、必ずしも富裕層とは限りません。
ということで訂正いたしました。心如さん、ありがとうございました。