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ssh711 社説の読み方〜邦人人質殺害事件編 [社説の読み方]

<2015>

 

 後藤健二さんの殺害映像が流されて1週間経ちました。

 今回の邦人人質事件についてしつこく記事をアップしてきたsshとしては、「社説の読み方」でもこの件を取り上げます。

 5紙の論調はかなり似ています。イスラム国を強く非難しているのは共通。当然です。到底許される行為ではありませんから。

 そこで今回は、それ以外の部分を太字にして見ましょう。


◆◆後藤氏殺害映像 「イスラム国」の蛮行を糾弾する(読売 2015.2.2.)

 ◆日本人標的のテロに警戒強めよ

 尊い人命を弄ぶ、卑劣な蛮行である。断固として糾弾する。

 重要なのは、「テロに屈しない」という国際社会共通の原則を堅持し、関係国との連帯を強めることだ。在留邦人の安全確保にも万全を期す必要がある。

 シリアでの人質事件で、過激派組織「イスラム国」は、拘束していた後藤健二さんを殺害したとするビデオ映像を動画サイトに投稿した。政府は、映像の信ぴょう性は高いと判断している。

 ◆国際社会の結束不可欠

 殺された湯川遥菜さんとみられる写真も既に公開されている。2人の犠牲が事実なら、痛ましい結末であり、強い怒りを覚える。

 安倍首相が「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携する」と表明したのは、当然である。

 オバマ米大統領は「極悪な殺人を非難する」と声明を発表し、英仏首脳も足並みをそろえた。

 犯行グループのメンバーは映像の中で、後藤さんの殺害に関連して、日本がイスラム国との戦いに参加したことを一方的に非難した。

 黒装束の男は「勝ち目のない戦いに参加するという安倍(首相)の無謀な決断」と批判した。「このナイフは、あらゆる場所で日本人の虐殺をもたらす」とも脅迫している。

 身勝手な解釈に基づき、日本を一方的に「敵」と決めつける主張であり、決して容認できない。

 首相が表明した2億ドルの中東支援は、非軍事分野の人道援助だ。避難民向けの医療や食料支援、インフラ整備などに充てられる。

 そもそも国際ルールを無視し、虐殺、略奪、誘拐、占拠など、凶悪で非道な犯罪行為を重ねてきたのは、イスラム国である。

 イスラム国を封じ込めるには、国際社会の結束が欠かせない。米国主導の有志連合には約60か国が参加している。国連安全保障理事会も邦人人質事件に関し、イスラム国への非難声明を発表した。

 ◆自己責任にとどまらず

 日本が対イスラム国包囲網に参加することは、国際社会の一員として当然の責務である。

 人質事件は、最初の脅迫映像が流れた後、めまぐるしく事態が動いた。犯行グループは、2億ドルの身代金を要求し、その後、ヨルダンで収監されている爆破テロ犯の死刑囚の釈放に切り替えた。

 実現しないなら、イスラム国に拘束中のヨルダン軍パイロットと後藤さんを殺害すると脅した。

 ヨルダン政府は、パイロットの解放を条件に死刑囚を釈放するとして、ギリギリの人質交換交渉を進めたが、実を結ばなかった。

 日本政府は、「テロに屈しない」原則と「人命尊重」の観点の両立という困難な対応を迫られた。

 イスラム国は、インターネットを利用した「劇場型」の脅迫・殺害を繰り返す特異な集団である。「ヨルダン頼み」の手探りの交渉には限界があったと言える。

 ジャーナリストの後藤さんは昨年10月、退避勧告が出ていたシリアにあえて入国した後、「何か起こっても責任は私自身にある」とのメッセージを残していた。

 「自己責任」に言及したものだが、結果的に、日本政府だけでなく、ヨルダン政府など多くの関係者を巻き込み、本人一人の責任では済まない事態を招いたのは否定できない。

 同様の事態を避けるため、今後、危険地域への渡航には従来以上に慎重な判断が求められる。

 今回の事件により、日本人が海外で誘拐の標的となる危険が一層高まったことにも留意したい。

 過激派組織にとっては、日本の軍事的報復を恐れる必要はない。日本に圧力をかけ、中東各国などに間接的に要求をのませる手法を再び使う可能性もある。

 安倍首相が在留邦人らの安全確保の強化を閣僚に指示したのは、こうした事情があるためだ。

 ◆邦人救出の議論も要る

 首相は、海外での邦人救出に自衛隊を活用するための法整備を検討する方針である。領域国による自衛隊受け入れの同意など、様々なハードルもあろう。政府・与党で議論を深めることが大切だ。

 中東支援の強化も重要となる。首相は、「食料、医療といった人道支援をさらに拡充していく」と強調している。

 イスラム国の壊滅までには時間を要しようが、「テロとの戦い」の一翼を担い、その最前線に立つ中東諸国を支援するという現在の方針を変えてはなるまい。

 今後も、欧米や中東の各国との連携を強め、地域の安定とテロの拡散阻止に努めたい。◆◆


 


◆◆後藤さんの志を踏みにじる卑劣な犯行 (日経 2015.2.2.)

 志を踏みにじる卑劣な犯行だ。

 シリアやイラクの一部を実効支配する過激派「イスラム国」とみられるグループが、拘束していたフリージャーナリストの後藤健二さんを殺害したとする動画をインターネット上に公開した。

 菅義偉官房長官は「映像は後藤さんの可能性が高い」と述べた。事実だとすれば、犯行グループがすでに殺したと主張する湯川遥菜さんに続いての蛮行である。心の底から怒りが湧く。罪なき人々に非道な行為を繰り返す暴挙を断じて許すわけにはいかない。

 犯行グループは後藤さんを解放する条件として、ヨルダンで起きたテロ事件に関与し、同国に収監されている女死刑囚の釈放を求めた。日本だけでは決断できない冷酷な要求だ。

 日本はヨルダンと良好な関係にある。事件解決へ協力も要請した。しかし、ヨルダンはイスラム国の脅威と日々、対峙している。米国が主導する軍事行動に加わり、イスラム国に捕らわれた軍のパイロットもいる。

 ヨルダン国内ではパイロットを救えとの声が高まっていた。パイロットが解放されなければ、ヨルダン政府が死刑囚の釈放に応じられないのはやむを得まい。

 後藤さんは弱者の目線に立ち、紛争地で苦しむ女性や子供の姿を世界に伝えてきた。ヨルダンを巻き込み、後藤さんの命を取引に使ったイスラム国は卑怯(ひきょう)としか言いようがない。

 拡散するテロが世界を脅かしている。解決には震源地である中東の平和と安定の実現が不可欠だ。安倍晋三首相は「テロに屈することなく、中東への人道支援を拡充していく」と述べた。

 方向は間違っていない。国際社会と連携してテロに立ち向かい、中東を安定させる取り組みに率先して加わることは重要だ。同時に忘れてはならないのは危機管理の力を高めることだ。

 政府は後藤さんらの拘束情報を受けて昨年、非公表で対策本部を設置したという。事件は首相の中東訪問のタイミングが狙われた。どこまで状況を把握していたのか。解放に向けた交渉のルートは確保できていたのか。虚を突かれる前に点検すべきことがあったように思える。

 日本人がテロに遭う事態は今後も起こりうる。未然に防ぐ情報の収集と、国民が危険を回避するための適切な開示が欠かせない。◆◆


 

◆◆「イスラム国」の非道この国際犯罪を許さない (朝日 2015.2.2.)

 あまりに非道な行為が、無事解放の願いを打ち砕いた。

 過激派組織「イスラム国」が拘束していたジャーナリスト後藤健二さんを殺害したとする映像を公開した。湯川遥菜(はるな)さんに続く無情の殺害宣告だ。

 1月20日に明るみに出た人質事件は、安倍首相の中東訪問をとらえた脅しだった。「イスラム国」のために住む場所を失った難民への人道支援を表明した日本政府を責めたて、身代金や人質交換に応じなければ殺害するという主張は、独りよがりでおよそ道理が立たない。

 残虐きわまりない犯人と組織を強く非難する。

責任追及と処罰を

 最悪の事態を避けられなかったことは、国際社会や日本が向き合わなければならない多くの課題を突きつけた。

 「イスラム国」の特徴の一つが、外国人を拘束して予告した上で殺害し、その様子をインターネットで公開するむごたらしい手口だろう。

 この上ない人権侵害であり、国際犯罪である。このような行為を続ける組織との対話や交渉の困難さは想像にあまりある。

 しかし、米国が主導する空爆などの軍事行動では解決できない側面がある。そもそも「イスラム国」のような理解しがたい組織がなぜ台頭してきたのか。米英が中心となって強行したイラク戦争が中東地域の宗派間の対立を生み、情勢をいっそう複雑にしてきた経緯に思いをいたさざるをえない。

 国際社会は国連などを中心に国単位での問題解決を基本としてきた。「イスラム国」のように国家を名乗りながら、近代国家の常識からかけ離れ、暴力的に支配地域を広げようとする組織とどう対峙(たいじ)していくか。そのことが改めて問われる。

 国連の調査委員会が昨年まとめた報告書は、「イスラム国」による思想統制や女性への組織的な性暴力などの残酷な統治の実態を指摘し、戦争犯罪や人道に対する罪で司令官らを国際刑事裁判所(ICC)で訴追するよう促している。

 たやすいことではないだろう。それでも2人の日本人のほか、人質となった米国人、英国人が殺害された事件も含め、訴追と処罰を求める国際社会の圧力を高めていくべきだ。

政府の対応、検証を

 安倍首相らの国会などでの説明によると、湯川さんの拘束事件を受けて昨年8月に首相官邸に情報連絡室などを設置。11月には後藤さんの行方不明を把握し、政府が対応する事案に加えたという。

 それでも2人を救出できなかったという現実を直視しなければならない。

 最初の脅しの映像がネット上に出たとき期限とされた72時間は短かったが、政府が2人の拘束を知ってからでいえば、すでに相当の月日がたっていた。

 ジャーナリストらが拘束されたものの解放されたフランス、スペインのケースでは殺人予告などに至る前に解放に向けた交渉が進んでいたとされる。

 今回の日本政府の対応について、菅官房長官はきのうの会見で「(「イスラム国」とは)接触しなかった」と述べた。それはなぜなのか。昨年、新設された政府の国家安全保障局は、どのように機能したか。

 同じ被害を繰り返さないためにも、政府は事実を最大限公表し、検証する責任がある。

互いを知り合う必要

 冷戦後、中東は戦争や紛争の現場となってきた。日本政府は欧米主要国とは一線を画し、抑制的なかかわり方をしてきた。非軍事で、難民らへの人道支援に重きをおくものだ。

 「イスラム国」は後藤さんを殺害したとする映像で、安倍首相を名指しし、日本を敵とみなすメッセージを送りつけてきた。しかし、「イスラム国」に対する軍事作戦に日本は参加していない。人道支援を重視する日本の姿勢は、いまも中東地域に広く浸透している。

 「イスラム国」から筋違いの脅しは受けたが、これからも家を失い、苦境に立たされている人たちの生活を支える姿勢を守り通すべきだ。

 紛争地の取材を重ねてきた後藤さんが心を寄せていたのも戦闘の帰趨(きすう)ではなく、現地の人たちの暮らしぶりや、喜び、悲しみだったという。

 殺害宣告は理不尽きわまりない行為である。中東ではこのような理不尽が日々積み重ねられている。それらは「対岸」の出来事ではなく、日本が向き合わねばならないことである。

 周辺の国々にはシリア、イラクから逃げる人たちがあふれ、欧州各国も含め、難民受け入れの負担が増している。今こそ日本政府が難民に門戸を広く開くときではないか。

 ほとんどのイスラム教徒は穏健で命を大切にする人たちだ。互いをもっと知り合う。そして必要な助けの手をさしのべる。

 悲劇を乗り越え、その原則を貫きたい。◆◆

 

 

◆◆日本人人質事件 この非道さを忘れない (毎日 2015.2.2.)

 かすかな望みを無慈悲に断ち切る映像だった。ジャーナリストの後藤健二さんを拘束していたイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)は後藤さんの殺害を示すとみられる映像をインターネット上で公開し、これは日本にとって悪夢の始まりであり、今後も日本人を殺し続けると宣言した。湯川遥菜さんに続き2人目の日本人人質の殺害が告げられたことに、激しい憤りと悲しみを覚える。仮にもイスラム教徒と名乗る者たちが、なぜこうも簡単に市民の命を奪うのか。私たちは忘れない。これはイスラムを隠れミノとした無法組織の、決して許されない残虐行為だ。

 後藤さんの解放については、ヨルダン当局が収監する女性死刑囚の釈放がカギになっていた。ISは後藤さんの映像と音声を使って2人の交換解放を提案し、日本がヨルダン政府に釈放を働きかけるよう要求していた。ISがこの取引の期限としたのはイラク時間1月29日の日没(日本時間同日深夜)である。

 これに対しヨルダン政府は、ISが昨年末に拘束した空軍パイロットの生死確認が先決だとして期限内に死刑囚を釈放しなかった。この時点で、後藤さんの無事解放には黄信号がともったのである。

 だが、ヨルダン政府に責任があるわけではない。ISが釈放を求めた死刑囚は2005年、ヨルダンを揺るがした同時テロに関与して拘束された。ISの前身「イラクの聖戦アルカイダ組織」を率いたザルカウィ容疑者(06年、米軍の空爆で死亡)とゆかりの深い人物でもある。

 そんな危険人物を簡単には釈放できまい。しかも国民が救出を熱望するパイロットを差し置いて2人の交換解放に応じれば、「アラブの春」のような激しい反政府運動によってヨルダン王政が存続の危機に直面しかねない。それでなくてもヨルダンは地域強国のシリアやイラク、イスラエルと国境を接し、地域情勢によっては「いつ倒れてもおかしくない国」と言われてきた。

 そもそもISはそんなヨルダンの事情を承知で交換解放という「くせ球」を投げた可能性もある。親日・親米のヨルダンはISと戦う有志国連合の一員である。ヨルダンを揺さぶって有志国連合にくさびを打ち込み、あわよくばヨルダンを脱退させることもISは狙っていたようだ。

 人質事件の背景として、ISが安倍晋三首相の中東歴訪を挙げるのも言いがかりである。21世紀の中東でISは初期イスラムへの回帰を訴え、正体不明の人物をカリフ(預言者ムハンマドの後継者)と奉じて強権的で時代錯誤的な共同体をイラクやシリアに広げている。

 その半面、ネットを通じて巧妙な広報活動を展開し、欧米主導の歴史と国際秩序に挑戦するようなイメージを強調して、世界各地の若者らを吸い寄せようとする。だが、実態を見れば、異教徒を容赦なく殺害し、女性は性奴隷として売り飛ばし、見境なく人質を取って身代金を奪う狂信的な集団に他ならない。世界16億人のイスラム社会の中で、悪性細胞のような存在だろう。

 そんな組織が日本や国際社会のあり方を批判する資格はない。湯川さんの悲報が届いた時も強調したように、日本は「公正、公平」を旨とする中東外交を粛々と続けるべきである。浮足立つのは逆効果だ。

 ◇政府対応の検証が必要

 だが、現実にISからテロの標的にされた以上、国内外の日本人の安全確保に留意する必要がある。重ねて指摘すれば、日本は01年の米同時多発テロを実行した国際テロ組織アルカイダから「十字軍(米欧)」の味方とみなされていた。アルカイダから「残虐すぎる」と絶縁されたISはその日本観を受け継ぎ、アルカイダ以上に邪悪な害意を日本人にむき出したわけである。

 実に心外だが、日本も米欧並みにテロの標的とされた現実を受け入れるしかあるまい。来年は日本で主要国首脳会議(サミット)が開かれ、20年には東京オリンピックもある。テロ対策にも万全を期すべきだ。

 この事件には不明な点が多い。政府は情報公開に努め、国会は政府対応も含めて事件の徹底した検証をすべきである。後藤さんの家族には昨年から身代金要求があり、これを政府も承知していた。にもかかわらず安倍首相が中東を歴訪し、ISと戦う国々に経済支援を表明した狙いは何だったのか。政府はヨルダンに頼るほか、救出へどんな方策を試みたのかなど、再発防止に向けた議論を尽くさなければならない。

 国際連携も必要だ。いまや世界各地で過激主義が台頭し、ISへ忠誠を誓う組織も多い。同時テロ後、米ブッシュ政権が続けた「テロとの戦争」とは何だったのかという疑問に、改めて襲われる。次のオバマ政権が米軍撤退を急いだことがISという怪物を育てた、という厳しい見方も米国内外で広がっている。

 米同時テロ後、国際社会は過激派の資金源を絶つ送金規制などを始めたが、テロから14年たって、そんな連携も緩んだように見える。テロとどう戦うかを含めて、新たな国際連携を考える時である。その先頭に立つのは米国しかないはずだ。◆◆

 

 

◆◆後藤さん殺害映像 残虐な犯罪集団を許すな 対テロで国際社会と連携(産経 2015.2.2.)

 過激組織「イスラム国」に拘束されていたジャーナリストの後藤健二さんが殺害されたとみられる残忍な映像が、インターネット上に公開された。

 後藤さんとともに拘束されていた湯川遥菜さんも、すでに殺害されたとみられている。残虐で卑劣な犯罪行為である。どんな主張があるにせよ、暴力や恐怖によって相手を屈服させようとするテロリズムを許すことはできない。

 安倍晋三首相は「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携していく」と述べた。

 日本の歩むべき道は、テロと戦う国際社会とともにあることを強く再確認したい。

 ≪覚悟持つ社会の醸成を≫

 後藤さんはこれまで、主に紛争や貧困など厳しい環境にある子供たちの姿を追い、書籍や映像で伝えてきた。後藤さんを知る多くの人が、彼の生還を待っていた。彼の新たな報告や作品を待っていた。殺害が事実なら、それもかなわぬこととなる。

 後藤さんと湯川さんが拘束された映像が流れたのは1月20日だった。ナイフを手にした男は身代金として2億ドル(約236億円)を日本政府に要求した。安倍首相が中東歴訪中に表明した、避難民に対する人道支援の額と同額である。

 金額の多寡に関係なく、これを受け入れるわけにはいかなかった。テロに屈すれば新たなテロを誘発する。身代金は次なるテロの資金となり、日本が脅迫に応じる国であると周知されれば日本人は必ずまた誘拐の標的になる。

 音声は日本政府を批判し、日本国民には政府に圧力をかけるよう要求した。これに呼応する形で国内の野党や一部メディアから同様の批判の声が相次いだが、日本の国民は冷静だった。

 産経新聞社とフジニュースネットワークが実施した合同世論調査によると、イスラム国による脅迫事件への政府の対応について58・9%が「取り組みは十分」と評価し、67・3%が身代金を「支払うべきでない」と答えた。

 後藤さんを殺害したとみられる映像は再び音声で日本政府を批判し、「日本にとっての悪夢の始まりだ」と脅した。理不尽な脅迫に対峙(たいじ)するためには、政府が毅然(きぜん)とした態度をみせるとともに、国民一人一人がテロに対して揺るがぬ心を持つ、覚悟を持った社会の醸成が必要となる。事件の責任を日本政府に求めるのは誤りだ。憎むべきは、テロ集団である。

 イスラム国は2度目の脅迫画像をネット上に公開した際に身代金の要求を引っ込め、イラク人死刑囚の釈放を要求した。3度目の画像で後藤さんはイスラム国に捕らわれたヨルダン軍パイロットの写真を持たされ、パイロットの殺害も予告していた。

 死刑囚は2005年にアンマンで60人以上の尊い生命を奪った連続爆破テロの実行犯である。逮捕されたのは自爆装置の起爆に失敗し、不発に終わったためだ。釈放には多くのヨルダン国民が反対し、ヨルダン政府もパイロットの生存確認を最優先させた。

 ヨルダンの懸命の対応には感謝すべきで非難することは誤りだ。テロに屈しない。自国民の保護を優先させる。いずれも批判の対象とはなり得ない。両国の立場が逆だったとしても同様である。

 ≪日本として責任果たせ≫

 オバマ米大統領は「安倍晋三首相や日本国民と連帯し、この野蛮な行為を糾弾する。われわれは中東や世界の平和と繁栄を前進させるため、日本が着実に取り組んでいることを称賛する」などとする声明を発表した。

 キャメロン英首相は「人命を一顧だにしない悪の権化」だと、イスラム国を強く非難した。

 中東やアフリカなどイスラム圏の20カ国・地域からなる「在京アラブ外交団」は1月27日、「イスラムの気高い教えや原則をかたってこのような野蛮な行為が行われたことに対し、遺憾の意を表する」と声明を発表していた。

 忘れてならないのは、「イスラム国」は国ではなく、犯罪集団であり、イスラム社会にとっても敵であるという事実だ。

 安倍首相は改めて「日本がテロに屈することは決してない」と述べ、中東への人道支援をさらに拡充することを表明した。今後もイスラム諸国を含むテロと戦う国際社会と連携し、日本としての責任を果たさなくてはならない。◆◆

 


 5紙共通の内容を除いて残った部分を要約して並べると、こんな感じ。

  • 読売クン: 安倍首相の2億ドル中東支援に問題はない。日本は有志連合に加わるべきである。後藤健二さんが危険地帯に入った自己責任は免れない。海外での自衛隊活動に道を開くべし。
  • 日経クン: ヨルダンではパイロットを救えという世論の高まりがあった。政府の対応は必ずしも十分とは言えない。
  • 朝日クン: アメリカ主導の軍事行動はテロを解決しない。テロ対策は国連主導であるべきである。政府は情報を公開して対応を検証すべきである。冷戦後の日本の中東外交はうまく行っていた。日本は難民受入れをすべきである。
  • 毎日クン: イスラム国はヨルダンの揺さぶりを狙ったフシがある。再発防止に向けて政府の対応を検証し議論をすべきである。9.11以降のアメリカの政策がイスラム国を産んだという指摘がある。
  • 産経クン: 政府の対応は悪くない。政府批判をすべきではない。

 

 安倍政権の志向性を先回りしてエールを送る読売クン。政府批判を止めよとだけ叫ぶ産経クン。この2紙が安倍政権応援団。

 アメリカ主導の武力行使を批判し、政府の対応への疑問を示し検証の必要性を説くのが朝日クンと毎日クン。朝日クンはさらに踏み込んで冷戦以降の中東政策を評価し、難民受入れまで提唱しています。で、今回は日経クンが割と朝日・毎日に近い主張をしています。

 

 こういう事件が起きると、中央紙がそろって同じ方向にならえになってしまうことが往々にしてあります。

 しかし、今回の各紙はわりとスタンスが割れています。そういう点では、まだ各紙とも冷静であると言えます。

 

 sshとしては、この冷静さが続くことを望みます。強く、強ーく望みます。


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