ssh671 腕時計のお話 [科学と技術]
<2014>
ケータイが普及した1990年代ころから、腕時計をしない人が増えてきました。
今日の高校生はほとんど腕時計をしていません。時計はケータイかスマホで代用。おかげでセンター試験などの時に慌てて時計を買うケースが多いです。試験会場にはケータイ・スマホは持ち込めませんので。
私が学生のころは、男子も女子も高校進学のお祝いに腕時計をもらうのが一般的でした。
当時の腕時計はかなり高価で、最低でも2万円以上しました。イナカの高校生にとっては立派な宝物です。
初めて腕時計をもらった時、嬉しくて用もないのにしょっちゅう時間を見ていましたっけ。
腕時計は時間を知るための計器でもありますが、装身具(アクセサリー)でもあります。
一般的に、男性は女性よりも装身具を身につけるチャンスが少ないです。女性が指輪・ブレスレット・ブローチ・ネックレス・イヤリング・ピアス・髪飾りといったものを割と自由に身に着けられるのに対して、男性はそれほど自由じゃない。指輪やブレスレットやピアスはビジネスの現場ではちょっとムリだし、タイピンやカフスボタンはネクタイやワイシャツとセットです。
そんな男性にとって、自由に身に着けられるほとんど唯一の装身具が腕時計です。腕時計はフォーマルでもカジュアルでもビジネスでもレジャーでもはめられる。
計器としての性能はすでにほとんど完成していますし、ケータイ・スマホの普及で腕時計の必要性も下がりました。私のようにケータイもスマホも持っていない前世紀の遺物はともかく、21世紀の日本では腕時計は「わざわざ」はめるものになっています。
ssh666 アトキンソンサイクル車は1993年に発売済みです [科学と技術]
<2014>
◆◆130年前のエンジン技術を蘇生 大幅燃費向上を達成したトヨタの“男気”(2014.5.18産経新聞)
【すごいぞ!ニッポンのキーテク】
トヨタ自動車が、世界最高レベルの熱効率(燃やしたガソリンが動力に変換される割合)を実現した次世代エンジンを開発した。ハイブリッド車(HV)に用いてきた「アトキンソンサイクル」と呼ばれる効率のよい燃焼方式をベースに、不足するパワーを従来型エンジンで磨いた技術などで補い、10%以上の大幅な燃費向上を実現。4月に発売した小型車「パッソ」「ヴィッツ」を皮切りに、2015年までに計14モデルで導入する計画だ。課題だった小型車セグメントで競合他社を突き放すとともに、得意のHVにも応用してさらなる性能強化を図る。
アトキンソンサイクルとは、霧状にしたガソリンと空気の混合気の圧縮比よりも膨張比を大きくして熱効率を改善する燃焼方式。技術自体は約130年前に確立していたが、熱効率を高めると出力が低下する欠点があり、長らく日の目を見なかった。最近は、トヨタがHV「プリウス」で用いているほか、ホンダも小型車「フィット」のHVなどで採用して低燃費化に成功している。
トヨタの次世代エンジンは、ガソリンエンジン車でも出力を低下させずにアトキンソンサイクルを利用できる形に改良したのが特徴だ。出力低下を防ぐため圧縮比を高めると、ノッキング(異常燃焼)が発生しやすくなる。これを回避するため燃焼室内の排気効率を高めたり、新構造のウォータージャケットスペーサーでシリンダーの壁温を調整したりといった工夫を重ねた。また、新形状の吸気ポートは、エンジンのシリンダーに混合気を取り込む際、シリンダーのなかで特殊な気流を生み出して燃料が急速に燃えるように形を工夫し、熱効率の改善に貢献している。(以下略 太字筆者)◆◆
え~、圧縮比よりも膨張比の方が高いエンジンは、1993年にすでに国内で実用化・販売されています。
メーカーはマツダ。クルマはユーノス800という名前でした。
アトキンソンサイクルとミラーサイクルは厳密にはちょっと違うのですが(説明省略)、本当のアトキンソンサイクルエンジンは作るのはかなり難しく、現在実用化されているのはすべてミラーサイクルエンジンです。
なんですけど、マツダはミラーサイクル、トヨタとホンダはアトキンソンサイクルとか高膨張比サイクルとか呼んでます。
今回トヨタが発表したパッソ、ヴィッツ用の1Lエンジンと1.3Lエンジンに用いられている技術は、国内だけで見ても全然新しいものではありません。特にヴィッツ用の1.3Lはマツダのデミオ用1.3Lとほとんど瓜二つ(燃費も全く同じ25km/L)。デミオの1.3Lもミラーサイクルで、発売は2010年。もう3年以上も前に発売済みです。あまりに似ているので、私はマツダのエンジンをトヨタがもらったのかと思ったくらいです。マツダはトヨタからハイブリッドシステムの技術供与を受けてますから、お返しに、とか。
ssh626 モノの寿命は何で決まる? [科学と技術]
<2013>
学生時代に読んでいた「FMファン」という雑誌のQ&Aコーナーに、こんな質問が載っていました。
「オーディオ機器の寿命は、どのくらいですか?それは何によって決まりますか?」
投稿者が知りたかったのは、何年くらい動くのかということだったようです。しかしプロによる回答は意外なものでした。
その回答の正体は後回しということにして。
生き物に寿命があるように、モノにも寿命があります。オーディオ機器に限りません。家でもパソコンでも衣類でも食器でも楽器でもクルマでも道具でも家具でも本でも何でも、未来永劫現役というわけにはいきません。いずれは他人の手に渡ったり捨てられたりします。
今回は、いろんなモノの寿命が、何によって決まるのかというお話です。
ssh595 ヘッドフォンのお話(2) [科学と技術]
<2013>
ヘッドフォンとスピーカーは、基本的には同じものです。
超小型のスピーカーを、個人だけがリスニングに使用するように、耳のすぐ近くに置けるようにした超パーソナルタイプのスピーカーがヘッドフォンです。
ついでに言うと、マイクとスピーカーも基本的に同じものです。電気信号を音に変換する装置は、その逆もできます。実際、多くのインターフォンはスピーカーがマイクを兼ねています。
ヘッドフォンの形式は、振動板(ダイヤフラム)の形状と本体(ハウジング)の形状で分けられています。
ダイヤフラムの方は、コーン型とドーム型が多く、ついで平面型です。
コーン型というのはよく見るスピーカーのような形です。ドーム型は文字通り振動板がドームのような形をしていますし、平面型も文字通りです。
概して、コーン型は廉価版に多く、低音再生能力が割と高いようです。ドーム型は中級機に多く、中高音の再生能力がいいと言われているようです。平面型は高級機に多く見られます。
ハウジングの方は、大きく密閉型と開放型に分かれます。密閉型は遮音性能が高く、開放型は聞き疲れが少ないと言われています。
もっとも、どの形式が絶対的に優れているというようなものでもありません。技術の世界は常に一長一短で、何かメリットがあるとデメリットももれなくついてきます。ユーザーの側としては、予算と好みで自分に合ったものを探すことになります。
ところで、スピーカーの主流はダイナミック(動電)型と書いてきましたが、他の方式もあります。そのことにも触れておきましょう。
ダイナミック型以外の方式としては、コンデンサー(静電)型と、圧電型があります。
ssh594 ヘッドフォンのお話(1) [科学と技術]
自他共に認めるオーディオ好きの私ですが、肝心のオーディオ業界は斜陽産業でして、大きな据置型コンポはもはや絶滅危惧種的存在です。
その一方で、ヘッドフォン市場はなかなか活気があります。
今や音響機器の主流はミニコンポやiPodかパソコンです。多くの人にとって、イヤフォンやヘッドフォンこそがもっとも主要なリスニング装置となっています。
最初は「音なんかどうだって気にしない」と言っていた人でも、いざきちんとした音を聞くと「やっぱりこの方がいいね」と言うものです。iPodやWalkmanだって、イヤフォンやヘッドフォン(以下めんどくさいのでまとめてヘッドフォンと呼ばせてもらいます)が変われば音は変わります。いいヘッドフォンは、やっぱりいい音がする。
オーディオ界では「スピーカーは音の出口」と言われ、すべてのコンポーネントの中でもかなり重要視されています。音の好みがもっとも分かれるのはスピーカーです。リッチなマニアは複数のスピーカーを設置して使い分けているほどです。
そう考えれば、ヘッドフォンも立派な「音の出口」です。ヘッドフォンの需要が高まるのもむべなるかな。
写真は我が家の古~いヘッドフォンたち。
一番左はソニーDR-5S。約40年前の製品です。システムコンポーネントListen1000と同時に購入しました。昔はステレオを買う時は一緒にヘッドフォンを買うのが通例だったのです。当時5900円は中級機というところでしょうか。長らく実家で埃をかぶっていたので救出いたしました。少々の汚れはありますが完動品です。当時の製品の常でデカくて重いのが難点。
真ん中もソニー製のDR-4M。DR-5Mとほぼ同時期の製品で、当時人気のポータブル録音機「カセットデンスケ」用にコンパクト設計されているというのが売りのヘッドフォンです。お値段は6900円とちょっと高めです。これも今もって完動品です。こいつの難点は圧迫感が強いこと。コンパクト設計ゆえ、イヤーパッド(耳に当たる柔らかい部分)が小さく、耳そのものが押さえつけられるもので。
一番右のカワイSH-2は10年ほど前に購入した電子ピアノのオマケ。左の2種よりずっと小さく軽い開放型です。これはスポンジ製のイヤーパッドがボロボロに劣化して使い物になりません。
ssh551 横幅たそがれ〜クルマの幅が広すぎる [科学と技術]
<2012>
ホントにまー、どーしてこうも横幅がブクブクと太るんでしょうかねえ。
特にここ6~7年の太り方はひどい。いくらなんでも、あれじゃ太り過ぎです。
いえ、どこぞのタレントの話でも、みなさんの近親者の腹回りのことでもありません。
クルマの話です。
私が初めて買ったクルマ(1987年)は当時のベストセラー、マツダ・ファミリアでした。
サイズは全長×全幅×全高が3990mmx1645mmx1405mm。スリーサイズが今でもスラで出てきますよ。舐めるように可愛がった初めてのクルマですから。もちろん5ナンバー車(小型乗用車)でした。
ファミリアは数回のモデルチェンジを経て、現在はアクセラの名で売られています。
そのアクセラのスリーサイズは、4460mmx1755mmx1465mm。25年の時を経て、ずいぶん成長しております。メーカーのマツダは今もってアクセラを「コンパクト」と主張していますが、日本では立派な3ナンバー車(普通乗用車)です。3ナンバーのコンパクトなんてアリかよ。
ま、これはマツダだけじゃありません。
海外市場でのアクセラの一番のケンカ相手はフォルクスワーゲン・ゴルフです。ゴルフは1974年に発売されて以来、小型ハッチバックの大ベストセラーとして君臨。世界中のメーカーがゴルフの牙城に挑戦してきましたが、今もってゴルフはNo.1ベストセラーカーです。ヨーロッパでのゴルフの強さは、アジアでのトヨタ・カローラに匹敵します。
そのゴルフが、モデルチェンジごとにブクブク太っているんです。
初代ゴルフは3725mmx1610mmx1410mmでした。私のファミリアよりまだ小さい。
それが2代目(1984年~)には3985x1665x1415mmとなり、4代目(1997年~)にはついに3ナンバー車の仲間入り(4155x1735x1455mm)、現在販売されている6代目(2009年~)に至っては、4210x1790x1485mmという堂々たる体付きです。全幅1790mmと言えば、トヨタ・クラウンとほとんど同じ(1795mm)。
競争市場では、後を追う側が何かウリを持たせないと勝負になりません。クルマの場合、得てして2番手以降は1番手よりもサイズを大きくするか、装備を増やすか、値段を安くするかという作戦に出ます。
ゴルフがデカくなったのなら、ライバルはそれと同じかそれ以上にデカくするというのが常套手段です。アクセラがデカくなったのはゴルフがデカくなったからです。全長は長過ぎの感がありますが。
実は、昨今クルマの幅をどんどん太らせているのは、日本でもアメリカでもなく、ヨーロッパのメーカーです。
ssh519 桜のお話 [科学と技術]
<2012>
亜寒帯に属する私の地元では、今が桜が満開の見頃となっています。現任校はすぐ隣が大きな公園で、先日はクラスの生徒をLHRに連れ出してお花見をしてきました。こういう立地条件はホントに恵まれている。こういうのは学校間で競争したところで変えられる類いのものじゃないですわね。
ところで。満開の桜って、ちょっと不気味な感じがしませんか?
実は、私はするんですよ。
喩えが悪いんですが、イナゴとかダンゴムシとかアリのような小さな昆虫が大量に群れているのを見るときに感じるような不気味な感じに似たものが、ちょっとだけ私の脳内をかすめるのですよ。あるいは、東京のラッシュアワーの映像みたいと言ってもいいかもしれません。
理由は多分、すべての木のすべての花が一斉に開花するからでしょうね。時間差をつけて開花するのなら、たぶんそういう妙な感覚はないはずです。
でも、一斉に咲いて一斉に散るからこそ桜はいいんですよね、一般的には。これこそが日本の美学。
さてさて。
日本で一番ポピュラーな桜はソメイヨシノですけど、あれが生物の種(しゅ)として認められていないということは、みなさんご存知でしょうか?
ssh476 カセットテープのお話(5)part 2 [科学と技術]
<2011>
注:So-netブログの仕様変更によりssh476が1本の記事としてアップできなかったため2本に分けてあります。
CDが普及し始めた1980年代中盤、音響エンジニアがとあるインタビューで「次世代オーディオでは音楽はICチップのようなものに納められる。もはやテープやディスクを回すような機械的な装置は使わなくなる。」と断言していました。
この話を聞いた時「原理的にはそうかもしれないけど、そんなものそう簡単に実用化はできないだろうに。」と私は思いました。
しかし。現実はエンジニア氏の言った通りになりました。それも予想外に早く。
音楽をデジタルデータとしてダウンロードし、好きなように編集する。再生はパソコンかiPod。どうしてもCDで聞きたければCD-Rにすればいい。
こうなると、カセットもMDも一気に劣勢です。
パソコンとインターネットが普及し、各メーカーがPCで音楽を楽しむ方向に乗り、多くのリスナーがそれに同調しました。音楽業界はコピーコントロールCD(PCでダウンロードできないように妨害信号の入ったCD、略してCCCD)で対抗しましたが、今度はDATの時のようには行きませんでした。もはや市場の流れは止めることができず、最後まで突っ張っていたエイベックスもCCCDの生産を止めました。まあそもそも自腹を切って買ったCDすらダウンロードできないというのはずいぶんと意地の悪い話だし、何よりCCCDはフツーのCDプレーヤーでの再生にトラブルが発生することがあったのです。
パソコンとiPodは、音楽の聞き方をさらにカジュアル&パーソナルなものへと変えました。
ウチの豚児たちを見ていると、音楽は基本的に一人で楽しむもののようです。iPodやゲーム機を使ってイヤフォンで聞くか、スピーカーで聞くとしてもパソコンの前で聞くか、とにかく個人的に軽~く聞くもののようです。みんなで同じものを聞くのは、クルマの中くらい。リビングルームにはオンキョーのHDDコンポもあるのですが、iMacがリビングに引っ越して以来、かなり出番が減っています。
また、音楽のダウンロードサービスによって、CDを買うという行為もかなりいらなくなってきました。
今、音響メーカーが力を入れているのは、家の中のネットワークオーディオです。家のどこかに大容量のHDDストーレッジを用意し(パソコン内蔵でもOK)、音楽はそこに一括して入れておく。リスナーはそれをLANを使っていろいろな装置に配信させて聞く。装置は部屋に据え置きされたコンポでもいいし、無線LANでノートPCやiPodや音楽ケータイに飛ばしてもいい。
私は、たぶんこれからもその方向でオーディオは進むだろうと思います。
PCオーディオの最大の難点は、私に言わせれば音質です。およそ本格的なコンポで楽しめるような音じゃない。
でも、私もPCオーディオは聞きます。今もiTunesで音楽を流しながら記事を打っています。iPodも聞きますし、PCで作ったCDはカーオーディオには不可欠なものになってます。
多くのリスナーにとって、「音楽を聞く」というのは、ポップミュージックを上述したウチの豚児たちのように楽しむことです。そういう聞き方なら、PCオーディオは十分な音質を持っています。
それと、方式が同じでも、音質はかなり改善ができます。アナログレコードもFMもカセットもCDも、最初から同じ規格を使い続けながら、様々な改良を受けて音質をアップしてきました。
同じことが、ネットワークオーディオやPCオーディオでも起きる可能性はあります。
最近、高級オーディオメーカーが「ネットワークオーディオプレーヤー」なるものを相次いで発売しています。ネットワークオーディオを本格コンポでも楽しめるようにという狙いです。これが受け入れられれば、音楽ソースの主流はネットに変わることになるでしょう。
カセットケースの変遷。左が一番古いタイプで、インデックスカード側のみ透明。真ん中の上が1980年代に一般化したタイプで、本体側も透明。下はスリムケース。カセット下部の突起に合わせてケースに凹みを作り、ケース全体の厚さを減らしたもの。カセットを大量に持ち運ぶにはこういう小さなカイゼンはありがたかったのです。右は横開きのスリムケース。横に開くことに特段のメリットもないのですが、成熟市場ではこういう変わりダネ商品がよく出ます。
ssh476 カセットテープのお話(5) [科学と技術]
<2011>
Not only 利便性 but also 音質面の向上を成し遂げたカセットテープ。
ウォークマンの登場もあり、洋楽やJポップなど若者にも楽しめる音楽ソースが身近にもなり、好みの音楽をカセットに録ってウォークマンやミニコンポやラジカセやカーステレオで楽しむというスタイルが一般化します。
そして1980年代、カセットはついにオーディオシステムの主役の座を得ることになります。
さて、1982年、オーディオ界に黒船級の新人が現れます。コンパクトディスク、すなわちCDです。
直径12cmの光学式ディスクに最長74分の音楽をデジタル記録した、全く新しいオーディオ規格です。
CDは、コンパクトカセットを作ったフィリップスと、ウォークマンを作ったソニーが共同開発しました。日欧合作です。
当時読んだ話だと、CDの開発動機は主に利便性にあったらしいです。小さな光学式ディスクになれば便利だろうと。その光学式ディスクに記録するにあたって、デジタル方式の方が都合がよかったのでデジタルにしたと。
真偽のほどは不明ですが、しかし、CDが市場に導入されるにあたって、各メーカーがもっとも強調したのは、デジタルオーディオの音質面の有利さでした。デジタルはアナログとは全然次元が違う、今までの再生装置ではデジタルの高音質ソースは再生し切れないぞ、と。
ついに主役を射止めたカセット君にとって、CDはまさに脅威となるはずでした。
ところが。CDはカセットを駆逐することはありませんでした。それどころか、長らく共存共栄していきます。
写真はカセットデッキには欠かせないアクセサリー。一番左はヘッドクリーニングテープ。真ん中は一見ただのマイクですが、ワンポイントステレオマイクといって、これ1本でステレオ録音ができます。一番右はヘッドイレーサー。磁気ヘッドは長く使っていると磁気を帯びて性能が悪くなるので、イレーサーで定期的に消磁してやらねばなりません。その後カセットサイズのイレーサーが登場して、消磁はすごくラクになりました。
ssh475 カセットテープのお話(4) [科学と技術]
<2011>
キカイが改善され、テープも性能をアップし、ドルビーシステムという強い援軍も得たカセットテープは、ラジカセなどの手軽な用途だけでなく、本格的なステレオシステムの世界でも徐々に存在感を増して行きます。
もちろんオープンリールデッキも様々な改善を受けて性能をアップしてはいました。
しかしいかんせん台数が出ない。
たくさん売れるものにはより大きな投資が行われるのが資本主義世界の掟です。
クルマの世界でも、開発に一番おカネのかかっているのは、少数生産の高級車ではなく、最も大量生産されるクルマです。かつてのトヨタだと、カローラこそ最も膨大な予算を投入して開発された、最もデキのいいクルマでした。
あまり売れないオープンに対し、カセットはますます成長市場。音響メーカーはカセットに全力投球し、オープンはいよいよ蚊帳の外になっていきます。
さて、ssh474に書いたように、ウォークマンの登場で、音楽の楽しみ方は一大転換を迎えます。
すなわち、1980年ころから、レコードやFMなどの音源をカセットに録音して聴くのが、音楽鑑賞のスタンダードとなります。
それまで、オーディオの最も重要なソースはレコードであり、FMでした。レコードやFM放送を聴くためにオーディオはあった。
マニアがオープンデッキを持っていたのは、FMを長時間録音するためであり、レコードを守るため(テープに録音して聴けばレコードが針で摩耗することがない)でした。つまりあくまでデッキは補助的な立場だった。
1980年ころに起こった変化はカセットオーディオ革命とでも呼べそうなものでした。
オーディオの中心はカセット。音楽はカセットで聴く。
レコードプレーヤーもFMチューナーも、カセットのミュージックテープを作るための補助的な立場に転落します。
カセットオーディオ革命の主役がウォークマンだとすれば、最強の援軍はメタルテープでしょう。