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ssh289 モチベーション〜小論キーワード(11) [小論キーワード]

<2009>

 

 今回の小論キーワードは、<モチベーション>。つまり、motivation です。

 

 モチベーションって、どんな意味ですか?

 はい、「動機」ね。

 一般的なお答えです。日常会話なら、それでいいでしょう。

 

 でも、実は、ちょいと違うんです。

 動機は  motive といいます。

 動機を与えるという動詞が motivate

 motivation は、その名詞形。

 つまり、動機を与えること、動機付け>がモチベーションの正確な意味です。

 

 教育畑では、モチベーションは今も昔も最重要課題です。いかにして生徒を動機付けるか?

 要するに、いかにしてやる気にさせるか、これが教育畑の課題たるモチベーションです。


 


 ご存じのように、英語の喜怒哀楽など感情や心情に関する動詞は、あらかたが<物が人に~をさせる>という意味です。だから人間が主語だと受動態になります。

 

 surprise: 物が人を驚かせる The news surprised me. = I was surprised at the news.

 disappoint: がっかりさせる The result of the test disappointed us. = We were disapppointed...

 interest: 興味を持たせる I am interested in literature.

 motivate: 動機を与える He was motivated to study harder.

 

 基本的には、外界からの刺激が人間の思考や感情を揺り動かす、という感覚です。モチベーションも従って、本来は他者や外界から人間への刺激です。

 

 ただ、モチベーションというのは、常に外界からの刺激とは限りません。自分で自分を動機付けるということが現実によくあります。

 「あと30分頑張ったらお茶にしよう」なんてのは、一種のモチベーションです。自分で自分に動機付けを働きかけているわけです。

 

 さて、人間を動機付けるモノには、実はいろんなものがあります。以下がすべてではありませんが、まず外界からのモチベーションとしては、

1 成功に対して与えられる利益

2 失敗に対して与えられる罰や不利益

3 周囲の人間の叱咤激励や反応

4 種々の圧力

 

 一方、自分で自分に与えるモチベーションとしては、

5 プライド

6 欲求

7 喜びや快感

8 恐怖心

 

 話が複雑になるといけないので、勉強関係のモチベーションに絞らせてもらいますが、

1 成功に対して与えられる利益

 一言でいえばごほうびです。○○高校に合格したらiPodを買ってあげようなんてのが最も典型的ですが、いい大学→いい会社→いい人生という図式もこれです。現在もっとも一般的なモチベーションでしょう。

 

2 失敗に対して与えられる罰や不利益

 1が飴ならこちらはムチ。テストで何点以下なら小遣いを減らすとかお説教が待ってるとか。1の裏返しとでもいいますか。これも大変にポピュラーです。

 

3 周囲の人間の叱咤激励や反応

 大人が案外気づいていないのがこれ。子どもは親や周囲の人間が喜んでくれることが大好きです。逆に親が悲しむのは見たくないものです。行動が伴うかどうかは別にして、おおむねそういうものです。親や先生が喜んでくれるとか、悲しませたくないとかいうモチベーションは、想像以上に多くの生徒が持っています。ただし常に行動が伴うわけではありません。

 

4 種々の圧力

 3に近いのですが、周囲からの有形無形のプレッシャーによって勉強するという動機付けもよくあります。ウチの嫁サンによると、私んとこの子ども達は「先生の子どもなんだから勉強ができるはず」というプレッシャーを感じているらしいです。

 4の中でいっとう厄介なのが親類縁者の重圧。親兄弟や従兄弟姉妹がヘンにデキがいいと(高学歴とか)かなりつらいことになります。親類縁者のプレッシャーで潰れてしまった生徒もいるくらいで。

 

 さて、ここからは自らが与えるモチベーション。

5 プライド

 これは非常に強力なモチベーションです。自分がこうなるなんてプライドが許さないという時、人はムキになって頑張ります。

 うんと卑近な例を挙げると、今までバカにしていたヤツにテストで負けたなんてのは猛烈にプライドを傷つけます。で、必ず頑張ります。従いまして、あまりデキの良くなかった生徒が大変身して急上昇すると、プライドを傷つけられた生徒がリベンジに燃えて、学年全体が勉強するなんて楽しい展開にもなります。

 

6 欲求

 1~5に比べるとぐっと高尚なモチベーションで、ズバリ、学びたいという欲求です。

 誰しも子どもの頃は好奇心の固まりで、しつこく「ねえどうして?」と聞いて親を困らせたりしています。程度の差はあれ、人は未知のものに好奇心を持っています。この好奇心が学術的な方向にうまく向いていると、人は自らの欲求によって学びます。

 そもそも科学は人間の知的好奇心の産物であるわけですから、これはある意味もっとも正統なモチベーションです。

 

7 喜びや快感

 6と少々かぶりますが、人は何かを学ぶことに快感を覚えます。もちろん個人差はものすごくありますけど、新しいことを知るのがことごとく不快という人はいないでしょう。

 もうちょっと違う喜び快感としては、例えばssh273「自分は天才ではないと判った時がスタート」で書いたように、努力が日常になるとけっこうな快感と覚えるようになります。

 

8 恐怖心

 これは2や4や6とも関わってきますが、要するに勉強しないと怖いということです。

 鈴木重子のまだデビュー後間もないころのインタビューを読んだことがあります。当時、彼女が注目された一番の理由は東大法学部出身のジャズシンガーという物珍しさにあったようで、私が読んだインタビューも学歴部分にかなりの部分が割かれていました。で、彼女の勉強のモチベーションがまさにこの8番の恐怖心であったというんです。置いて行かれるのが怖い、勉強しないことが怖い、その恐怖心に追い立てられるがままに勉強して、東大に合格した。彼女にとって勉強は恐怖との闘いでしかありませんでした。今でこそ東大出身のタレントはゴマンといますが、当時は東大にまで行ってわざわざ歌手になるというのは破天荒な選択でした。しかし恐怖心だけで勉強してきた鈴木重子にとって、勉強と関係ない職業を選んだのはごく自然なことでした。

 

 

 ここからは余談です。

 昨今の学力低下論議の中で、学力よりも子どもたちの学習意欲低下こそが深刻だという指摘があります。

 私は学力低下という意見には懐疑的ですが、意欲低下はあるかもしれないと思います。

 

 本来、学習意欲というのは、5・6・7のような前向きな内なるモチベーションによってもたらされるものです。外からの動機付けは短期的には有効ですが、継続性が弱いです。

 で、今こうやって1~8のモチベーションを書いていて、ふと「6と7は鼻で笑われちゃうかもしれないなー」と思ったんです。あまりにきれいごとじゃないか、そんなんでやる気が出れば苦労しないぜと。誰にもツッコまれないうちにふとそう思ったということは、私自身にもそういう感覚があるということです。

 

 学習意欲低下というのが本当に進行しているのだとすれば、恐らくその最大の理由はこの感覚にあるのだと私は思います。つまり、本来の意欲というものを実現不可能な絵に描いた餅だと決めつけて、安易に外からの即物的なモチベーションに頼ったと。大衆消費社会で半世紀以上やってきているうちに、オトナの方がごほうびで釣ることしかできなくなってしまったと。というより、オトナからして学生時代は1や2のモチベーションだけでやってきていて、学ぶ楽しみなんて実は全然感じていなかったのかも。

 

 「学ぶってことはさあ、実はなかなか楽しいことなんだよ。」

 

 学力低下とやらに対するクスリは、こういうメッセージをオトナが子どもに伝えることなのかもしれません。もちろん口先だけじゃダメ。オトナが自ら楽しく学んでいる姿を見せないと。つーても各家庭でそれをやるのはしんどいので、一番手っ取り早しのは学校の先生が楽しそうに学問を語ったり研究をしたりする姿を見せること。

 そういう点では、教育改革で学校の先生に仕事を増やして汲々とさせるなんてのは最低の施策です。

 

ー追記ー

 当然ですけど、モチベーションは他者から与えられるよりも、自分で自分に与えられる方がいいに決まってます。記事でも述べたように、最も理想的なモチベーションは6・7・8のようなものです。

 このように自らが自らに動機付けできるようになることを動機が内在化するといいまして、これは教育者にとってもスポーツ指導者にとっても経営者にとっても生徒や選手や社員に最も求めたい状態です。

 内在化についてはこちらをご覧下さい。

 ssh192 内在化 ~ 小論キーワード(1) 


 

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