SSブログ

ssh672 常識が読解力を阻害する [リテラシー・思考力]

<2014>

 

 某業者の小論文研究会に行ってきました。

 ここの研究会は手加減なしのハイレベルな内容で、毎回ためになります。

 

 小論文を書くためにもっとも重要なスキルは読解力です。

 他人の書いた意見文の論旨が読み取れること。これが不可欠です。

 他人の意見が読み取れなければ、自分の意見をまとめて文面にすることはできません。

 ネットの三文コメントは他人の意見がマトモに読み取れないがゆえに、メチャクチャな文面になっています。

 小論の極意は読みにあります。

 

 さて、今回の研究会によりますと、昨今の小論文入試ではますます読解部分の配点が高まっているのだそうです。

 かつては読解3:小論7くらいだったものが、最近では5:5かそれ以上になっていると。

 講師によると要因は2つ。

 1つは、テーマとなる現代社会の問題が簡単に答えを出せないものばかりになってきたため。格差・グローバル社会・世代間格差・教育格差・原発問題・震災復興・外交問題など、ジャーナリズムにだってそう簡単に意見を述べられないものばかり。

 もう1つは、受験生の読解力不足。意見が立てられないにしても、まずは筆者の主張をきちんと読み取ることができれば戦いようがあるのですけど、課題文の論旨がそもそも読み取れないというケースが増えているらしいんです。


 標準的な高校生は、小説・物語・エッセイよりも、論説文の方が苦手みたいです。

 意見文は論説文の一種ですから、案外と手強いのかも知れません。

 ただ、講師の分析がちょっと面白かった。

 課題文が読めない最大の原因は、常識だと言うんです。


 

 小論文の課題文は、ほとんどが意見文です。作家やジャーナリストなど、ものを書くプロが自分の意見をバンと主張した文章です。

 意見文の論旨とは、もちろん筆者の意見です。

 しかし、意見文の最大の見せ場は、論拠です

 

 なぜ私は原発再稼働を支持するのか。どういう根拠で私は集団的自衛権行使に賛成なのか。

 読み手に納得してもらうために、有能な筆者・誠実な書き手は、多大な精力を論拠に費やします。

 それは論理であったり、データであったり、聞き取り調査であったり、資料であったり、具体例であったりします。

 

 プロの書き手は、誰でも思いつくような論拠は使いません。そんなものは仕事じゃない。

 プロの仕事は、他の誰もが用いないような、筆者独自の論拠を立てて書かれています。

 それはすなわち、常識的な話や一般論が語られる可能性はないということです。

 常識や一般論に囚われてしまう生徒は、筆者独自の視点から語られる文章が消化できないらしいんです。


 ここから先は私の考察。

 国語力の低下という話は、メディアでもたまに取り上げられます。歴史がどーの英語力がこーのという話題の10分の1くらいの確率ですかね。

 で、そういう時の論点はいつも語彙力であり漢字力であり文学鑑賞能力であり「美しい日本語」です。

 sshはかねがねそういう論点を批判してきています。

 そんなものよりも、文章の内容を正しく理解する読解力の方がはるかに重要というのがsshの主張です。

 もちろん小中学校だって、語句調べや漢字ドリルや読書感想文や作文ばっかりやらせているわけじゃありません。教科書には論説文もちゃんと載っているし、高校入試には小説と論説文が必ず入っています。論説文の読解力はマストです。

 

 ただ、ここにちょっとした落とし穴があります。

 小中学校で扱う教材は、あまり常識はずれで刺激的なものは選べない。道徳的に問題のないものだけが選ばれている。ある程度アタマの良い中学生だと、国語のテストは道徳的判断でだいたい正解が選べてしまうんです。

 私の経験だと、中学まで国語の成績がよく、作文も上手で、生活面もきちんとしている優等生的な生徒(女子に多い)ほど、意見文の読み取りは弱いように思えます。

 

 ところが、高校生になると、かなり常識からぶっ飛んだ内容のものが出て来る。

 今回の研究会で紹介された小論文入試問題にも、若い世代ほど投票数をたくさん持たせるべきだという課題文がありました。法の下の平等や一票の格差という常識からすれば、かなり挑戦的な内容です。

 常識・良識に思考を縛られて、道徳律で正解を見つけるクセをつけてしまった生徒には、まったく消化できない可能性大です。

 

 若者に常識だの良識だの道徳だのをしっかり教えろという声は、今でもけっこう強いです。言ってるご本人たちが青春時代に非道の限りを尽くしてきた団塊世代であるのが腹立たしいやらあきれるやらですが。政府も政府で、社会科の教科書には政府見解を明記しろとか言ってます。

 こういう方向性が進むと、生徒の読解力はますます低下する可能性があります。

 

 常識を持つことはもちろん必要です。

 しかし、常識に支配されると知性は働くのをやめてしまいます。

 なぜか?

 常識の行き付く先は、善悪だからです。ヒーローと悪者しかいない、子ども番組の世界です。

 知性を働かせるためには、思考を常識から解き放たないといけません。

 

 常識は読解を阻害します。 


 

nice!(1) 

nice! 1