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ssh211 社説の読み方〜アフガン邦人殺害編(2) [社説の読み方]

<2008>

 

 では、無惨な残りの3紙を見て見ましょう。

 

 産經新聞 「アフガン拉致殺害 テロの現実を直視したい」

 

◆◆今回の事件は、テロの現実を直視するよう迫るとともに、「テロとの戦い」、アフガニスタン復興支援、民間ボランティアの現地での活動の進め方などに再考を促すものとなった。

◆◆ 同会の現地代表、中村哲氏(61)は米軍の攻撃、自衛隊の派遣に反対し、タリバンに理解を示すような発言もあった。そんなNGOまで狙われたことが深刻だ。中村氏も記者会見で「治安情勢の認識に甘さがあった」と語った。

◆◆ 武装勢力の活動は7年越しのテロ掃討作戦にもかかわらず、再び活発化し、米軍や北大西洋条約機構(NATO)主体の国際治安支援部隊(ISAF、現在40カ国)の死者が急増、外国人ボランティア襲撃も頻発していた。

 このため、NATOは増派を決め、国際社会は復興支援額を積み増そうとしている。そうした流れの中で、日本だけがインド洋での給油活動から撤退したらどうなるか。戦線離脱とみなされよう。しかも、それは国内の偏狭な政治的思惑が原因とあれば、国際的信用を失うこと必定だ。

 丸腰であるボランティアたちの活動も、治安が確保されなければ続けようがない。伊藤さんの遺志を継ぎ、NGO活動を守るためにも、いまは現地での治安確保、テロとの戦いに全力を再結集するときである。◆◆

 

 

 読売新聞「NGO職員殺害 アフガン安定へ協力を続けよ」

 

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080828-OYT1T00853.htm

◆◆丸腰の民間人の自衛には限界がある。自爆テロや外国人の誘拐が続くアフガンの現状を踏まえれば、安全を優先して一時出国や帰国を検討する時ではないか。

 一方で、日本としては、アフガンの平和と安定を回復する国際社会の共同行動の一翼を担う態勢を堅持する必要がある。

 日本は従来、14・5億ドルのアフガン復興支援と、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を実施してきた。経済支援と人的貢献は、いわば「車の両輪」であり、どちらも欠かすべきではない。 

◆◆アフガンを安定させ、テロを撲滅する戦いは、日本にとって決して人ごとではない。来月召集の臨時国会で、給油活動延長のための新テロ対策特別措置法改正案を成立させることは必須の課題だ。◆◆ 

 

 


 

 日本経済新聞「伊藤和也さんの無念に何を思うか」

 

◆◆アフガニスタンの治安悪化は、国際テロ組織アルカイダやイスラム原理主義勢力タリバンらの勢力回復を意味する。農業指導を通じて復興に協力しようとした伊藤さんたちの行動は、この国がテロリストたちを生み出す温床になるのを防ぐ効果にもつながり、広い意味でのテロとの戦いでもあった。

 アフガニスタンでのテロとの戦いに日本は何ができるのか。政府は海上自衛隊によるインド洋での給油活動によって一定の国際的責任を果たしていると考える。しかし根拠となる給油法は来年1月に期限切れとなる。民主党は活動継続に反対し、与党のなかでも公明党は継続に必ずしも積極的ではない。

◆◆9月に召集される臨時国会では給油法の継続の是非が焦点のひとつとなる。海上での給油活動は、本土での支援活動に比べれば危険度が低いとされ、国際的にも一定の評価を得ている。仮にそれをやめる場合、アフガニスタンでの支援活動に一切加わらない選択をすれば、無責任との国際的批判を浴びる。◆◆

 

 

 以上、3紙の主張をまとめて要約すると、

 「伊藤さんの死を無駄にしないために、給油法を継続せよ。」これだけ。

 給油法継続は、3紙が日頃主張していることです。

 今回の事件を、3紙は自説を補強する論拠として使っています。

 

 死人に口なしとは、よく言ったものです。

 他人の死に対して、生者はいくらでも意味をつけられる。

 どんなにメチャクチャな意味をつけようと、本人は反論することができない。

 こういう行為を「死者を冒涜する」と言います。

 日経は用水路整備が広義のテロ対策であると指摘しているだけマシですが、結論はいっしょ。

 

 3紙とも、決定的にまずいのは、

 「テロとの戦い」こそがアフガンの治安を悪化させた、という指摘を一顧だにしていない点です。

 学生のレポートならまあともかく、新聞社なんですから、世界中に情報網を持ち記者も海外に派遣しているわけで、知らないというならあまりにお粗末、知ってて無視しているのなら犯罪です。

 

 

 私の手元に、中村哲氏の2007年末のインタビューがあります(ロッキングオンジャパン20081月増刊号「サイト」)。その中から一部抜粋します。

 

◆◆(テロ特措法の関係で取材が殺到したことに関して)日本国内でのアフガニスタンについての議論はまあ、小田原評定に近いんじゃないかとは思いますね(笑)。

 というのは、日本にあまり知られてませんけれども、アフガニスタンの首都カブールは反政府陣営にすでに包囲されているんですね。タリバン、あるいはその同盟軍がすでに農村地帯をバックにして首都を包囲しつつあるということさえ知らない。毎日数百名という単位で人が死んでいることも知らない。今、ISAF(国際治安支援部隊)と米軍で5万人の兵力がアフガンに駐留していて、軍事活動がますます活発化しています。選挙も行われ復興も進んでるといわれながら、なんでそんなに軍隊がいるのですか。そのことへの基本的な疑問もなく、「国際社会」との協調だとか「国益」とか、抽象論ばかりが戦わされているので異様な感じがしました。

◆◆(テロ特措法に対しての意見を求められて)これは6年前に私が、それこそ民主党の証人として国会に立った時と全く同じです。有害無益です。本当に早く止めて欲しい。まず、アフガニスタンにとって「反テロ戦争」という名の軍事協力から得られるものはほとんどありませんでした。それどころかかえって民間人の犠牲者を増やし、武装勢力の力が拡大するのを手伝ってしまった。

◆◆かつてはアフガニスタンは、世界でも対日感情の最もいい国の一つだったんですね。その理由の一つは、戦後の日本が軍事的な活動をしなかったということです。それが最近では「米国及び日本を含む同盟国」とひとくくりで呼ばれるようになってきています。「それはテロリストの言うことだ」と言えば日本では説得力を持ちますけれども、アフガニスタン現地では、アルカイダのような国際イスラム主義運動と、民族主義的で土着的なタリバンは本質的に違うものです。そういうタリバンのような人たちの間で評判が悪いというのは、日本の安全性を考えてもかなり危機的です。

◆◆例えば反政府的な武装勢力がいるということで米軍が出動しますが、地上軍だとやられる可能性がある。自分の軍の軍隊で死者を出すと反戦運動が高まる恐れがあるので被害が少なく収められるように空からヘリコプターで攻撃します。そうするとわずか十名足らずの人々を攻撃するのに数十人は巻き込んでしまう。そしてヘリコプターも撃墜されるようになってくると、今度はジェット戦闘機を繰り出して、例えばビル内に反政府的な人がいるというと、ビルそのものを爆撃してしまいます。その中で死ぬのは民間人です。

 アフガンは復讐社会ですから、外国人に対して敵意を抱き攻撃するようになる。だから、一般の農民も外国人の襲撃に加わり始める。

◆◆(今なにをすべきか、何ができるのかという問に対して)まずは、何をしたらいけないかということです。誰も言わないですけど、まず人を殺しちゃいけない。それから政治家や評論家のインチキに乗らない(笑)。

 日本人はせっかちなんですね。急いで「じゃあそれに代わるものとして」と言ってISAFなんかを出してくるからダメになるんで、「我々は軍事プロセスには関与しない」と言うだけでインパクトがある。・・・民生支援なら「民生支援をやります」ということを断固として表明して、しかしちゃんと実情を調査した上で有効な手立てを打ちます。これでいいんですよ。   

 

 要約すると、

・「テロとの戦い」こそがアフガン情勢を悪化させ、武装勢力の台頭を招いた。

・その「テロとの戦い」に日本が同調したために、せっかく良好だったアフガンの対日感情が悪化した

・「テロとの戦い」の最大の犠牲者は民間人である。

・民間人の殺傷を止めるために軍事行動と決別することを表明し、地道に民生支援を続けることが最良の方法である。

 

 よく平和主義を唱える人のことを「おめでたい理想主義者」とか「お花畑の住人」などと揶揄する人がいます。

 しかし、アフガンの現実は、平和主義こそ最高の安全策であることを示しています。

 「軍事力で強行に攻めればテロリストを倒せる」という思い込みこそ、現実離れしたおめでたい楽観なのです。

 そのおめでたい人たちの施策のおかげで、おびただしい民間人が亡くなっているのです。

 

 中村氏の語る現実を読むと、3紙の社説は空疎とか不出来とかいうレベルを通り越して、もはや犯罪的なレベルです。

 産経クンは中村氏のこれまでの言説に触れた上での内容理解はまったくできてないようですが)あの文面ですから、これを機会に中村も叩いてやろうと確信犯なんでしょう。

 産経クンにとって、伊藤さんの死は「絶好のチャンス」だったわけです。

 

 

 前号で朝日クンと毎日クンのダメダメ社説を「マシ」と評したのは

 朝日クンと毎日クンは、伊藤さんの死を知ってただただオロオロしていただけで、

 彼の死を利用しようとしなかっただけずいぶんとマシだったのです。

 

 え?中村哲ひとりのインタビューだけですべてを判断するな?

 彼の言うことが正しいという保証があるのか?

 そう思う方は、自分の目でアフガニスタン情勢を見てくるのがベストでしょうね。

 ただし、「自己責任」でどうぞ。

 

<参考文献>

 ロッキングオンジャパン20081月増刊号「サイト」

 (ロッキングオン社ホームページ http://www.rock-net.jp/index.html

 ペシャワール会公式ホームページ http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/


 

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