ssh254 更生の見込みのない責任能力保有者~ssh的死刑制度考 [社会]
<2009>
今回は、死刑に関するお話です。
まず最初に死刑に関して、ほぼ定説になっていることを確認しておきましょう。
1 死刑による犯罪抑止力は立証されていない。
詳しいことはWikipediaでも見ていただくとして、死刑制度と凶悪犯罪発生との間に相関は認められないというのはすでに定説です。言い換えると、
死刑制度があって、凶悪犯罪発生率の低い国があって(例えば日本)、
死刑制度がなくて、凶悪犯罪発生率の高い国があって、
死刑制度があるのに凶悪犯罪の発生率が高い国もあって(例えばアメリカ)、
死刑制度がなくても凶悪犯罪の発生率が低い国もあります。
死刑を廃止したとたんに犯罪発生率が上がったという国はないようです。
とはいえ、 だから死刑が無力だという根拠にはなりません。
理由は他にあるのかもしれませんし、そもそも凶悪犯罪の発生に理由なんかないのかもしれませんし。
とにかく、死刑が凶悪犯罪を防ぐ、という説は今のところ十分な根拠はありません。
ただし、もちろんそれをもってただちに死刑は無力と断言することはできません。
実行された事件は数勘定できますが、実行されなかった事件はそうはいきません。
「発生しなかった事件」のデータ化は不可能です。発生しなかったんですから。
要するに、抑止力があるという根拠はないし、さりとて、まったく抑止力がないという証拠もない(これは出しようがない)ということです。
2 世界の潮流は死刑廃止である
津久井進さんのブログから丸借りします。
(1) 全面的に廃止した国 (法律上、いかなる犯罪に対しても死刑を規定していない国)
アルバニア、アンドラ、アンゴラ、アルメニア、オーストラリア、オーストリア、アゼルバイジャン、ベルギー、ブータン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、カンボジア、カナダ、カボベルデ、コロンビア、コスタリカ、コートジボアール、クロアチア、キプロス、チェコ共和国、デンマーク、ジブチ、ドミニカ共和国、エクアドル、エストニア、フィンランド、フランス、グルジア、ドイツ、ギリシャ、ギニアビサウ、ハイチ、ホンジュラス、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、キリバス、リベリア、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マケドニア(旧ユーゴスラビア)、マルタ、マーシャル諸島、モーリシャス、メキシコ、ミクロネシア(連邦)、モルドバ、モナコ、モンテネグロ、モザンビーク、ナミビア、ネパール、オランダ、ニュージーランド、ニカラグア、ニウエ、ノルウェー、パラウ、パナマ、パラグアイ、フィリピン、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ルワンダ、サモア、サンマリノ、サントメプリンシペ、セネガル、セルビア、セーシェル、スロバキア共和国、スロベニア、ソロモン諸島、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、東チモール、トルコ、トルクメニスタン、ツバル、ウクライナ、英国、ウルグアイ、バヌアツ、バチカン市国、ベネズエラ
(計90ヶ国または地域)
(2) 通常犯罪のみ廃止した国
(軍法下の犯罪や特異な状況における犯罪のような例外的な犯罪にのみ、法律で死刑を規定している国)
アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、チリ、クック諸島、エルサルバドル、フィジー、イスラエル、キルギスタン、ラトビア、ペルー
(計11ヶ国または地域)
(3) 事実上の廃止国
(殺人のような通常の犯罪に対して死刑制度を存置しているが、過去10年間に執行がなされておらず、死刑執行をしない政策または確立した慣例を持っていると思われる国。死刑を適用しないという国際的な公約をしている国も含まれる。)
アルジェリア、ベニン、ブルネイ・ダルサラーム、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国、エリトリア、ガボン、ガンビア、ガーナ、グレナダ、ケニア、ラオス、マダガスカル、マラウィ、モルディブ、マリ、モーリタニア、モロッコ、ビルマ(ミャンマー)、ナウル、ニジェール、パプアニューギニア、ロシア、スリランカ、スリナム、スワジランド、タンザニア、トーゴ、トンガ、チュニジア、ザンビア
(計32ヶ国または地域)
(4) 存置国
(通常の犯罪に対して死刑を存置している国)
アフガニスタン、アンティグアバーブーダ、バハマ、バーレーン、バングラデシュ、バルバドス、ベラルーシ、ベリーズ、ボツワナ、ブルンジ、カメルーン、チャド、中国、コモロ、コンゴ民主共和国、キューバ、ドミニカ、エジプト、赤道ギニア、エチオピア、グアテマラ、ギニア、ガイアナ、インド、インドネシア、イラン、イラク、ジャマイカ、日本、ヨルダン、カザフスタン、朝鮮民主主義人民共和国、大韓民国、クウェート、レバノン、レソト、リビア、マレーシア、モンゴル、ナイジェリア、オマーン、パキスタン、パレスチナ自治政府、カタール、セントクリストファーネビス、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、サウジアラビア、シエラレオネ、シンガポール、ソマリア、スーダン、シリア、台湾、タジキスタン、タイ、トリニダード・トバゴ、ウガンダ、アラブ首長国連邦、米国、ウズベキスタン、ベトナム、イエメン、ジンバブエ
(計64ヶ国または地域)
廃止133 対 存置64 というのが、世界の趨勢です。
もちろん、趨勢=正義ということではありませんが、死刑のある国が少数派であるのが事実です。
さて、ここからが本題。
我が国で最高刑として死刑が適用される犯罪は、全部で17。
1 内乱
2 外患誘致 (他国に日本を武力攻撃させること。これは死刑以外の刑罰がない唯一の犯罪)
3 外患援助 (他国による日本への武力攻撃への加担)
4 現住建造物放火
5 激発物の破裂 (激発物とは火薬やボイラーなどのこと)
6 建造物浸害 (浸害とは水没させるなと水で被害を与えること)
7 汽車電車船舶覆没致死
8 往来危険による汽車転覆等 (信号や踏切などをいじくって列車を転覆させること)
9 水道毒物混入致死
10 殺人
11 強盗致死傷
12 強盗強姦致死傷
13 爆発物不法使用
14 決闘殺人
15 航空機強取等致死 (ハイジャックのこと)
16 航空機墜落致死
17 人質殺害
なお、無限回廊のboroさんによると、現実の死刑判決の98%は強盗殺人と殺人で、7割は強盗殺人だそうです。
もちろん、最高刑が死刑ということですから(2を除く)、これらの犯罪を犯せば直ちに死刑ということではありません。死刑判決が出るのは、通常、極めて悪質で、被告に更生の可能性がないときです。
重罪を犯した、更生の可能性のない人間が、死刑の対象です。
さてさて、ところが。死刑に限らず、刑罰というのは、被告人に責任能力がなければ求められないことになっています。
例えば、小さな子どもには十分な責任能力はありません。そりゃそうでしょう。5歳児が大人と同じ分別や判断力や知識を持ってるはずありません。
仮に大人であっても、十分な責任能力のない人はいます。法律では心神喪失と呼びます。
一番可能性のあるのは、疾病や障害を持っている場合です。脳に障害があるとか、精神面の病気であるとか。例えばアルツハイマーの人に健常者並みの判断力は求められません。
責任能力のない人間に、責任を求めることはできません。
ここに、たいへんな矛盾が生じます。
なぜ?
凶悪犯罪が発生すると、多くの善良な人は、こういいます。「あいつは狂ってる。」
しかし、本当に狂っているのなら、責任能力は問えません。
また、善良な人は、このようにも言います。「あんなやつ、死刑だ。」
しかし、死刑を求めるということは、犯人に責任能力を認めるということです。
挑戦的な言い方をしてみましょう。
「狂っている」ということは、アナタやワタシは狂っていないということでしょう。犯人は、アナタやワタシとは違う人。アナタとは違うんです。(copyright福田康夫センセイ)
「死刑だ」ということは、犯人は責任能力の問える人。狂ってない人。犯人は、アナタやワタシと同じ仲間。アナタとは違わないんです。
犯人がワタシとは違う人間だと思うと、死刑を求めるのは難しくなる。
死刑を求めるのは、ある意味、犯人とワタシは同類の人間だと認めること。
いえ、これはかなり誇張した言い方です。でも、死刑判決に値する人間というのは、責任能力が問えるくらいにはマトモで、しかし更生の見込みがない程度には狂っている。ずいぶんと微妙な存在です。
そんな微妙な存在の人間って、果たしてどれほどいるんでしょうか?