ssh276 やっぱりヘンだよ、トヨタの扱い [マスコミュニケーション論]
<2009>
◆◆トヨタの「プリウス」初の首位に…5月の販売台数
トヨタ自動車のハイブリッド車(HV)「プリウス」の5月の販売台数が1万台を超え、車名別新車販売台数(軽自動車を除く)で初の首位になる見通しとなったことが3日、分かった。 最低価格を前モデルより約30万円安い205万円にした新型車を5月18日に売り出し、販売台数が急増した。4月に始まった環境対応車の購入者に対する優遇税制(エコカー減税)も追い風になったようだ。新型車の受注台数は、すでに13万台を突破しているという。
4月に1万481台が売れ、HVとして初の月別首位となったホンダの「インサイト」は、プリウスに抜かれたものの5月も販売台数が9000台前後になったとみられる。トヨタ、ホンダのHV2車種がトップ3以内に入る見通しだ。
国内の新車販売は不振続きだが、低燃費で、価格も手ごろになってきたHVに人気が集中する傾向が強まっている。
5月の車名別新車販売台数は4日に、日本自動車販売協会連合会が発表する。(2009年6月3日15時01分 読売新聞)◆◆
ええ、日本自動車販売協会連合会(自販連)のホームページは毎月チェックしてますよ。クルマ好きですから。
4月はびっくりしましたねえ。インサイトが販売トップとは。
で、5月はプリウスがトップ。いよいよハイブリッド時代到来か?
と、思ったアナタ、ちょい待ち。上のニュース、ちょっとヘンだと思いませんか?
ssh226で、私はマスメディア各社のトヨタに対しての扱いを記事にしました。
この記事は昨年11月の、いわゆる<トヨタショック>のころのものです。
実はその前月、トヨタは国内販売でトップ10のうち8つまでを占めていました。やせた国内市場とはいえ独り勝ち状態。特に、それまで数カ月に渡って1位を独走していたホンダ・フィットから久々にカローラが首位奪回した、まさに快挙の月でした。
私がssh226で指摘した疑念は、以下の3点。
1 なぜトヨタショック報道は純利益や売上高でなく、営業益のマイナスで発表をしたのか?(トヨタ絶好調の時は純利益1兆円と報じられたのに)
2 こんなに日本国内でクルマが売れているのにピンチだというなら、トヨタにとって日本市場はどーでもいい市場ということにならないか?
3 08年10月のカローラ首位奪回、トップ10中8つを独占の喜ばしいニュースは報じられないのか?
で、1と2についてはいくつかコメントをいただきまして、
1についてはそもそもこういう報道は営業利益でやるのが筋であると。純利益ってのは本来報道で使うような指標じゃないようです。(だったらあの純利益1兆円ってのは何だったんでしょ?とは思いますが。)
2についても、国内市場がうんと縮小しているのだから当然じゃいと。これもまあそうでしょうね。
しかし、3については私の疑念が当たっていました。
天木直人氏がトヨタ批判の記事をブログで公開したら、すかさず脅迫メールが来たそうです。
トヨタは日本企業で飛び抜けて広告費の多い企業であり、それゆえトヨタ批判は大手メディアは絶対できない。どうしてもトヨタの顔色を伺うことになる。
事実、カローラ首位奪回の喜ばしいニュースは、とうとう報じられませんでした。(それまでは「カローラ首位」なんてのがよくニュースになっていたんです。クルマに興味ない人は知らないでしょーけど。)
そして、今回。まだ自販連の正式発表がないのに、新型プリウス首位の大ニュース。
どう考えても、アンバランスじゃないっすか?
ついでに、アンバランスといえば、何でエコカー減税が、新型プリウス発売時期とぴったり合っているんでしょーか?いくら何でも、タイミングが良すぎませんか?
まあでも、プリウス大ヒットは実にめでたいことです。これでトヨタもV字回復、ばんざーい!
いや待てよ。国内市場で無敵だった08年にトヨタは赤字転落したんだっけ。
トヨタにとって、国内市場は大した収入にならないんでしたっけ。
じゃあ、我々日本人がいくら頑張ってプリウスを買っても、トヨタには焼け石に水じゃん。
そもそもプリウスは、インサイトに対抗するために予定価格をうんと下げたと報道されてます。これが事実なら、儲けも薄いでしょう。
メディア報道を信用するなら、プリウスがどんなに国内市場でヒットしても、トヨタショックは回復しないことになります。
さあ、どうなる、トヨタ?
<蛇足ながら>
トヨタネタはけっこう反応があるんですが、どーも私の狙いを読み取ってもらえないんですよ。本記事で私が主張しているのは<メディアの反応がおかしい>ということであって、トヨタの戦略やらクルマを非難してるんんじゃありません。だからこの記事はメディア批判です。まあ確かに私はトヨタ嫌いで、それ故こーゆー記事も書けたんですけど、トヨタそのものへのイヤミは別の機会に記事化します。
しっかし、記事の狙いをライター自ら明示するなんて、な~んか自分でもヤボなことやってるなあと思いますけどね。それをやっちゃあ・・・つー感じです。
<6月4日付記>
本日自販連が発表したトップ10(登録台数)は以下の通り。(軽除く)
1 プリウス(トヨタ) 10915台
2 フィット(ホンダ) 8859
3 インサイト(ホンダ)8183
4 ヴィッツ(トヨタ)6619
5 ウィッシュ(トヨタ)6428
6 パッソ(トヨタ) 5914
7 カローラ(トヨタ)5290
8 キューブ(日産)4420
9 セレナ(日産)4392
10 ノート(日産)4310
な、なんと、あのカローラが7位!信じられん。
5月にトヨタカローラ店がプリウスばっかり重点的に営業したのがミエミエです。
日本では自動車税のシステムがヘンテコなので(一度払うと途中で手放しても払い戻されない)、クルマは年度末に買うのが一番税制上有利です。ディーラーもそれをあてこんで決算セールやります。だから、一番売れるのは3月で、4~5月は一番売れません。
ということを頭においていただいた上で、トヨタショック前月の08年10月のランキングをもう一度御覧下さい。
1 カローラ(トヨタ) 12,446台
2 フィット(ホンダ)12,188台
3 ヴィッツ(トヨタ) 9,851台
4 フリード(ホンダ) 8,037台
5 プリウス(トヨタ) 6,341
6 パッソ (トヨタ)6,205台
7 ヴェルファイア(トヨタ) 6,190台
8 ヴォクシー(トヨタ)5,162台
9 エスティマ(トヨタ) 4,572台
10 ラクティス(トヨタ) 4,264台
10月と5月というハンデを差し引いても、トヨタの国内販売は08年10月の方がはるかにいいですよ。
それに比べて2009年5月のトヨタ、全然よくないです。トップ10のうちわずか5車。先月のトヨタは、プリウス以外は他社に相当食われています。
先月もっとも健闘したのは、実は日産です。
日産はここのところ、トップ10にせいぜい1車か2車しか入れられない状態でした。しかし先月、日産は一気に3車をトップ10にぶち込みました。うち1車は大降りなミニバンのセレナ。けっこうな高価格車です。ちなみに11位も日産車です(ティーダ 4084台)。
メディアがプリウスとインサイトのことばっか取り上げている間に、日産の技術陣は目立たないながら地道な燃費向上技術を次々に投入し、各車の実用燃費性能を向上させていました。ハイブリッドみたいな大仕掛けじゃないからコストも低い。市場は日産の地味な努力にきちんと応えていたんです。5月のMVPは日産です。
いやあ、これはちょっと心配になってきたなあ、トヨタのこれからが。
こんな見え透いた販売強化策で1位だけを取って、トータルではトヨタショック以前よりもライバルにやられてる。
横綱相撲を取らない横綱。衰えの徴候かしら?