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ssh295 夏のドラマは高校汲事 [教育問題]

<2009>

 

 今年はなんだか夏っぽくない陽気の夏でした。

 夏のドラマと言えば高校野球ですね。大人気であります。今年も全国大会(甲子園)は大盛況のうちに終了しました。

 しかしねえ、この「夏のドラマ」ってのが、実につらいんですよ。関係者には。

 

 

 その昔、春と秋同様に夏も地区大会を経て県大会という段取りでした。だから大会は常に近隣の球場で土日に行われていて、応援に行くのもラクでした。

 ところが私が高校に入学した年から、夏だけはいきなり全県統一の予選になりました。めったに対戦できない遠方のチームと戦えるというメリットもありましたが、会場はどこになるかわかりません。しかも全県統一のため、日程にも余裕がなくなり、初戦から平日=授業日にやることになってしまいました。

 私、高校野球の応援は昔から大好きでして、高校時代は行ける試合は全部応援に行きました。そんな中で、夏だけは授業日に遠方でやるため行けずじまい。な~んか私は「機会を奪われた」という不服感を感じてました。(実は当時わが母校野球部は公式戦10連敗中という県内有数の弱小チームでして、応援に行けるチャンスは初戦しかなかったんです。)

 

 時は流れて、私は高校の先生になります。初任校で私を待っていたのは、野球部の下っ端顧問というお役目。

 

 


 

 学校に限らないでしょうけど、敬遠される仕事というのは、若いモンか転任者が充てられます。新人なんてのは一番貧乏クジを引く役目です。

 ま、それはそれでいいんですよ。公務員は今でも基本的に終身雇用ですから「若いときの苦労は買ってでもしなさい」と言えるんですよ。これがいつリストラされるかわからない世界だと、若い時にさんざん苦労したあげくにポイされるという冷酷非常なことが(かなり頻繁に)ありますから、貧乏クジは本当に貧乏クジです。と、これは脱線。

 

 で、実際に高校野球の世界に、つまりドラマとやらの舞台裏に潜り込んでみると、これがなかなか大変な世界なんですよ。何が大変って、対外的なお仕事がすごく多いんですよ。

 

 まず遠征が多い。練習試合ってどっちかのチーム(または両方)が移動します。何十名もの生徒が移動するのはそれだけで大仕事です。

 今年、大分で野球部のバス事故という悲劇がありましたが、たぶん全国のチームがああいう危険と隣り合わせのはずです。(TVニュースではシートベルトが不備だったのどうのと非難めいたことを言ってましたが、んなもん付いてなくたって不思議ないです。グラウンドに金のなる木が生えてるわけじゃなし、野球部のバスなんてたいてい中古の、それも1030年モノ。)運転だって、運転手を雇えるような金持ちチームはごく少数。たいていは顧問の先生か、保護者やOBのボランティアです。

 これは野球じゃないけど、全国優勝もしたある公立高校のバレー部の監督さん、生徒引率のバスは自分で運転してました。

 

 遠征以外の対外的なお仕事というと、後援会や保護者会などの組織との交渉など。

 とにかく野球はゼニがかかります。球技の中では一番かかるんじゃないでしょうか。道具や会場使用だけでもかなりexpensiveなのに、遠征だの合宿だの大会だのとやってりゃ、あっという間に福沢諭吉が団体で出て行きます。だから保護者負担はもちろん、いろんな人からお金を寄付してもらわないといけない。

 私の地域では寄付金集めは6月が多いようです。芳名帳を作ってあっちこっちにお願いに出向くのは、たいてい部長とか副部長とか呼ばれる顧問の先生のお仕事です。

 

 対外的という点で忘れちゃならないのがメディアへの対応。

 メディアにとって高校野球(特に夏の大会)は注目度抜群の超優良ソフトです。その注目度は時として、たとえばナントカ王子なんて人気者が出現すると、オリンピックすらしのぎます。こんなハイクオリティな素材をただ中継するだけではいかにももったいない。シーズンが近付くとやたらと取材があります。

 取材と言えばカッコいいですが、甲子園は遠きにありて想うものである大多数の高校にいちいち記者やカメラマンは来ません。来るのは記入用紙だけ。ここに先方のリクエストに従って自チームの戦力分析やらマネージャー(正式には記録員と呼ぶ)の一言やらを書いて期日までにお送りするわけです。たまにちょっとチームが強いと記者とカメラが来ることもありますが、これはこれで対応が面倒っちいです。

 

 遠征やら寄付金集めやらメディア対応やらをこなして、何とか本番の大会にこぎつけると、これがまたえれえお仕事なんですわ。

 大会参加の手続きとか、選手の移動や宿泊先の手配なんてのもありますが、それはまあ何の競技でもいっしょ。野球が大変なのは、大会運営と応援。

 

 高校野球を観戦に行くと、あちこちで高校生が大会補助員をやってます。駐車場整理、入口のモギリ、スタンドに飛び込んだファウルボールの回収、グラウンドボーイなど。あれもちろんみんな野球部員です。たいていベンチに入れない1年坊主。大会期間中にこの補助員をきっちり手配せねばなりません。しかも手配するだけではダメ。すべてを未成年に任せるわけにはいきませんから、部長先生は自ら駐車場や球場に詰めねばなりません。真夏の炎天下の駐車場整理は年寄りにはこたえます。中には素直に言うこときかないお客もいたりして体温もヒートアップします。なかなか不健康なお仕事です。

 補助員と言えば、球場のアナウンス係も各校に動員がかかります。これはなぜか昔から女生徒の仕事。なぜ野球部員ではいかんのか知りませんが、女子マネージャーは試合がありますから動員できません。やむなく放送委員に頼み込みます。家が遠いと送り迎えしてあげることもあります。

 

 応援の手配も大仕事です。参加人数を確認し、バスを必要台数手配する。しかもこれが一発で済まない。勝てばすぐに次の試合だけど、勝ってからじゃ手配が間に合わないから、あらかじめ先手を打っておく。つーても大したチームでもないのに準決勝や決勝まで仮押さえなんて不可能です。応援バスの手配にはチーム力と組合せの分析が不可欠です。それでも予想より早く負けたらすぐにキャンセルの電話をせにゃなりません。株取引にも似た「読み」の必要な世界です。その厄介なお仕事にさらに追い打ちをかけるのがお天気。野球ってのは天気悪いと順延になるんで、予約の変更が必要になります。気象予報士の資格があると便利かも知れません。

 

 誰が応援に行くのかを決めるのも頭の痛い仕事です。何せ夏の大会は平日に実施されます。一般の生徒は授業日です。そうおいそれと授業を休ませるわけにはいきませんが、かといって全然無視というわけにもいきません。また悪いことに、夏の大会は地区予選なしのいきなり全県規模で行われます。初戦の会場が何十キロも離れた球場ということもちょくちょくあります。

 従いまして、何回戦から、どのくらいの規模の応援団を球場に派遣するか、ということを、あらかじめ計画しておかねばなりません。計画立案して校内の了承をもらうのは野球部顧問のお仕事です。

 

 その昔、応援団の引率で球場に行ったときに、どこぞのオッサンに「やあアンタ先生かい。どうして○○高校(私の当時の勤務校)の応援はこんなに生徒が少ないんだよ?」と言われたことがありまして、私はムッとして「今日は授業日です」と答えました。答えましたけど、オッサンは納得しない様子でブツブツ言いながら去って行きました。

 

 

 他にもまだまだいっぱいあるんですけど、もうキリがないからやめます。

 

 私はこの記事で高野連を非難する意図はさらさらないんです。いや、もちろん彼らにはもうちょっと考えて欲しいことはありますよ。でも高野連を断罪してすむような簡単な問題じゃないです。朝日新聞とNHKにはさらにもっとずーっと言いたいことがありますけど、それはカット。

 

 私がこの記事を書いた理由はただ一つ。

 高校野球って、選手以外の関係者もそーとーに大変なのよ、と、そのことをちょっとだけ知ってほしいと、それだけです。

 

P.S. 実はこの記事は7月15日、つまり県大会の最中に書きはじめたものです。書きはじめてそのまま一気に公開するつもりだったんですが、野球に関係してなくても7月って忙しいんですよ、とにかく。で、未完成のまま長らく放っぽらかしていた下書きを、全国大会も終わって、もう秋季大会が始まった今頃になってようやく完成させました。) 


 

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