ssh294 マジックワードに心せよ〜ssh29への追加 [小論文]
<2009>
小論文ネタです。
ちょいと古い記事で恐縮ですが、3年近く前にssh29で「あぶない!思考停止の言葉」という記事を書きました。内容はこんな感じ。
◆◆TVや新聞などのマスメディアの場合、数々の社会問題を扱い、それに対してなにがしかのコメントを出さねばならなりません。だから、TVや新聞では、仕方なく、こんなコメントで片付けて次に行くしかありません「一刻も早い解決が求められます。」「常識として考えられない犯罪と言えます。」「国民に納得のゆく説明が必要と言えます。」「いずれにしても、このような行為が許されるはずはありません。」こういう言葉は、小論文では絶対に使ってはなりません。ええ、絶対です。まとめというのは、「これでおしまい、これ以上は考えないでください」というためのものです。そこで考えるという行為は打ち止めになります。考えることをやめてはいけないのです。◆◆
で、この時、他に挙げた<禁句>は、以下のようなもの。
・常識/当たり前のこと/当然のこと(なぜ当然なの?なぜ常識なの?ホントーに常識?その根拠は?)
・あってはならないこと (つまり、ゼロにできるということ?ホントに?)
・○○に決まっている (ホントに決まってるの?)
・断固たる/確固たる/毅然とした (どういう姿勢?強くでればそれでいいの?)
・愛/思いやり/優しさ(まったく同上)
・努力/必死/死にものぐるい/やる気になればできる(これも同上)
上記のような言葉に限らず、世の中には<決めゼリフ>的なカッチョいい言葉がいっぱいあります。これさえ言えば相手が黙ってくれそうな、そういう言葉。
こういう言葉を「マジックワード」と言います。
もう少し丁寧に定義すると、マジックワードとは、それ以上の考察を停止させてしまう口当たりのいい言葉 です。
上にあげた例以外に、すごくよく目にする危険なマジックワードとしては、次のようなものがあります。
1 伝統・伝統文化
これは保守派や右派だけでなく、高校生もけっこうよく使うマジックワードです。しかしこれは実に危険。はっきり言って危険度maxです。
なぜこの言葉が危険なマジックワードかと言うと、
・伝統という語の定義は非常に幅が広く、あいまいである。
・何を伝統と思うかは、かなり個人的で情緒的な判断である。
・我々が伝統と思っていることは実は歴史が浅いことがある。つまり伝統には勘違いがよくある。(たとえば先祖代々の墓というのは火葬が普及した近代以降の発明品であり、伝統と呼ぶにはかなり歴史が浅い。)
・伝統という言葉は同じ国や環境に育った人間との連帯感を喚起してホンワカとした小幸福感を感じさせる。これが思考を鈍らせ、論文を単なる感想文のレベルに下げやすい。
2 国際化
これもはっきり言って相当危険なマジックワードです。その理由は、
・「国際化時代だから…」の「…」の部分に何を入れてもたいてい文章が通ってしまう。「国際化時代だから外国文化を理解すべし」「国際化時代だから自国の文化を尊重すべし」「国際化時代だから外国語を学ぶべし」「国際化時代だから国語教育を充実させるべし」などなど。正反対の意見に対する理由になってしまうということは、理由になっていないということ。
・国際化の定義はかなりいい加減である。特に日本では国際化=日本人や日本のものが海外(特に英語圏)に進出すること、という一方的な感覚が強い。アジア・南米・アフリカなどから日本に何かを受け入れるという感覚は逆に弱い。
・上と似ているが、日本ではどうしても<国際化=英語=アメリカ>という感覚が強く、アンバランスである。
ところで、「伝統」と「国際化」をどちらもよく口にする人というのがいます。それもかなり大量に。
恐らく当の本人は特に難しいことも考えずに伝統とか国際化とか言っているのでしょうけど、しかし落ち着いて考えてみると、この2つは正反対の概念です。したがって双方を矛盾なく同じように主張するのは非常に困難な行為のはずです。かなり面倒な考察が必要。なのに多くの人が、さしたる葛藤もなく双方を口にできてしまうと。正反対の概念なのに、対立していることに気付かず気持ちよく使えてしまう―これがマジックワードの怖いところです。
さてさて、今回の記事はマジックワードをただ並べるつもりで書き始めたんですけど、これ思ったより重要なアドバイスですな。これはひとつ、腰を据えていくつも記事を書く必要がありそうです。
というわけで、また自分で宿題を作っちゃった。話し合いシリーズだってまだ続きを1つも書いてないってのに。こういうのを自縄自縛というんでしょうな(自爆じゃないよ、自縛だよ)。