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ssh375 貸した奨学金は、ホントに返らない〜ssh321&371の余白 [教育問題]

<2010>

 

◆◆奨学金返還訴訟 大幅な制度改革を求めたい

 日本学生支援機構が大学生らに貸与した奨学金の返還を求め2009年度中に起こした訴訟が4233件に上った。
 04年度58件、05年度266件、06年度547件、07年度1407件と増え続け、08年度は1504件。そこから、いきなり4千件を飛び越えてしまった。
 延滞債権がじわじわと膨らんでいる。支援機構はこのような法的措置の強化をはじめ、あらゆる回収策を総動員する構えだ。
 全国銀行個人信用情報センターに加盟し、返還が滞っている個人について情報(氏名や勤務先、貸与額)などの登録も進めている。
 これによって、クレジットカードや住宅ローンを利用できなくなることもあるという。

■返したいが返せない■
 奨学金の原資は国からの借入金や回収金などによって賄われている。支援機構は国から繰り返し回収努力を求められてきた。
 返せるのに返そうとしない人がいるのは確かだ。ただ、返したいけれど返せない若者も多い。それは支援機構が実施した調査からもうかがえる。
 民主党は昨年の総選挙を前に政策集で「給付型の奨学金の検討」をはじめとする大幅な制度改革を掲げた。今まさにそれが求められている。
 日本学生支援機構が公表した事業報告書によると、今年3月末の時点で、返還が必要な262万7千人のうち33万6千人が滞納しており、その総額は797億円に上っている。
 問題になっているのは「一般に回収率が低く、解消が難しい」といわれる延滞3カ月以上の「リスク管理債権」だ。延滞1年以上が7割を占め、10年以上も1割あるという。これを何とかしようと、法的措置が強化された。

■親の年金で返還例も■
 督促を重ねても返済に応じない延滞1年以上の借り手の一部に、まず支払い督促申し立て予告書を発送。簡易裁判所に支払い督促を申し立て、先方から異議申し立てがあれば訴訟に移行―というのが大まかな流れだ。
 良くも悪くも金融機関並みになったといえる。
 以前に支援機構が延滞6カ月以上について理由を調査したところ、最も多かったのは「本人の低所得」で40・8%。「親の経済困難」37・3%、「本人の失業・無職」19・8%と続いた。
 親の年金で奨学金を返している例もあったという。
 事情があれば返還を猶予する制度はある。
 無利子奨学金を拡充する方針も打ち出されたが、その程度では追いつきそうにない。もちろん、給付型の奨学金制度を導入すれば解決する話でもない。
 難しい課題だが、低所得者であるがゆえに学べないという状況にならないよう、高等教育を支える仕組みを考えていかなければならない (2010年9月10日 宮崎日日新聞社説)◆◆


 

 この件についての私の意見はすでにssh321ssh371で述べています。いますけど繰り返します。

 

1 貸与奨学金を借りるのは経済的に就学困難な学生=貧乏人の子どもである。彼ら彼女らの返済能力は低く、回収率は必然的に低くなる。よって貸した奨学金は返らない可能性が高い。

2 かつて日本の貸与奨学金システムがうまく回っていたのは、

 ()免除職や特別奨学金などの実質上の給付システムがあった

 ()現在に比べ学費が非常に安かった

 ()経済状況がよく、就職に困らなかった

 ()終身雇用制が一般的であったため、長期にわたって奨学金を返還することが計算できた

といった要素があったからである。現在は上記4点とも失われており、奨学生からの返還が計算できなくなった。

3 以上の理由により、奨学の理念を堅持するなら奨学金は給付システムなど採算性のないシステムにならざるを得ない。貸与システムで採算を求めるなら単なる教育ローンとして奨学の理念は捨てざるを得ない。

 

 

 さて、冒頭の記事を見ると、日本学生支援機構は奨学金を教育ローンとして運営する方向に舵を切ろうとしているようです。

 もちろん私はこの方向にはまったく賛同できません。奨学金は奨学のためのゼニでなければなりません。

 

 ただ、学生支援機構を一方的に非難する気にもなれないです。

 日本学生支援機構は、小泉改革の中で独立法人化されました。独立法人である以上、採算が取れなければ破綻してしまいます。利潤を求める必要はなくても、破綻しない程度には何とかゼニを工面しないといけない。

 たぶん支援機構の職員も借金取りみたいなマネはしたくはないのだと思います。でもそうしないと組織そのものが壊れてしまう。そうなるともう奨学金は出せません。仕方なく法的手段に訴えているのだと、そう思いたいです。

 この辺の事情は大学入試センターも同じです。だからセンターはやたらと各大学にセンター試験の利用を求めるし、年2回受験システムを提案しているのも、要はその方が受験者が増えて経営にプラスだからです。


 そもそも奨学金を運営する組織をビジネスの論理が支配する独立法人に任せるということ自体がメチャクチャな話だったんです。

 貸与奨学金は貧乏人の子どもに無担保でカネを貸すハイリスクローリターンの融資です。採算なんかハナっから取れっこないのです。

 まったく愚策をやってくれたもんです。小泉内閣の関係者と彼の支持者は私財を投じて給付奨学金の基金をただちに立ち上げていただきたい。それでも全然足りないけど、いささかの罪滅ぼしにはなるでしょう。


 なお冒頭の社説ですが、終わりの方が気に入りませんね。この問題は全然難しくないです。

 1つやるべきことは、貧乏人にも教育権を保証するのなら(しなきゃ憲法違反だ)、教育にまつわる私費負担を下げること。

 政権交代のおかげで公立高校の授業料は無償になりました。これは大きな前進。

 今後は大学の学費低減、給付奨学金の拡大、学生への優遇措置(アパートや定期券を割引くなど)などを考えていくことが必要です。

 あと1つは、貧乏そのものの撲滅。仕事さえちゃんとあれば、貸与奨学金は返ります。

 一番やるべきは労働の流動化とか呼ばれる派遣や請負のシステムを見直すことでしょう。きちんと教育を終えた人にはきちんとした仕事をきちんとした年数与えることです。

 

 一言で言えば、小泉改革路線の否定ですね。

 ものごと、やり過ぎたら反省して戻らなきゃ。


 

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