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ssh378 善意で奨学生を追いつめるな〜ssh375の余白 [教育問題]

<2010>

 

◆◆世話になった奨学金返還しよう(2010年9月14日 朝日新聞「声」欄)

 「奨学金滞納2600億円超す」(3日朝刊)を読んだ。高校在学中に日本育英会より奨学金を受けた立場から一言申し上げたい。

 当時、両親が離婚した直後で、母の反対を押し切り高校に入学した。毎月「1千円」と記入して書類を出し、千円札を受け取り、学校の事務室ですぐ「月謝」と書かれた袋に入れ替えて納めたのを覚えている。(中略)

 高校卒業後、夜間の専門学校に入学。各種学校は「奨学金返還猶予」は無理と事務の人に言われたが、それでも書類を提出すると猶予された。昼間働きながら、少ない給料から返還金をためた。2年後、資格を得て幼稚園の先生になれた。借りた奨学金全額を一括返還し、その年の暮れ、育英会より「報奨金」3千円を頂いた。頭の下がる思いをした。

 奨学金を滞納している皆さん。生活が苦しい人もいるでしょうが、少なからずお世話になった奨学金です。どうか返還に努めてください。◆◆(投稿者は66歳の主婦 氏名は省略)

 

 善意ある文章です。苦境の中で大変な努力を経験したことも伺えます。

 しかし。

 こういう善意と努力経験こそが、現在本当の苦境にある人々を追いつめているのです。


 

 貸与奨学金の返還滞納問題についての私の見解をssh375らの引用から三たび繰り返します。

 

1 貸与奨学金を借りるのは経済的に就学困難な学生=貧乏人の子どもである。彼ら彼女らの返済能力は低く、回収率は必然的に低くなる。よって貸した奨学金は返らない可能性が高い。

2 かつて日本の貸与奨学金システムがうまく回っていたのは、

 ()免除職や特別奨学金などの実質上の給付システムがあった

 ()現在に比べ学費が非常に安かった

 ()経済状況がよく、就職に困らなかった

 ()終身雇用制が一般的であったため、長期にわたって奨学金を返還することが計算できた

といった要素があったからである。現在は上記4点とも失われており、奨学生からの返還が計算できなくなった。

3 以上の理由により、奨学の理念を堅持するなら奨学金は給付システムなど採算性のないシステムにならざるを得ない。貸与システムで採算を求めるなら単なる教育ローンとして奨学の理念は捨てざるを得ない。

 

 

 冒頭の投稿者は、厳しい家庭環境で自らの意思で高校に進学し、月々1000円の授業料を奨学金で支払い(就学旅行などは辞退したそうです)、苦学の末夜間の専門学校に進み、昼間の仕事からこつこつと返還金を貯め、卒業と同時に幼稚園教諭に就職し、貯めたお金で貸与奨学金を一括返還しました。

 立派です。

 

 しかし。

 現在は、高校の必要経費を払うこと自体が(授業料の無償化があっても)困難であり、夜間の専門学校に就職できても昼間の仕事を探すこと自体が困難であり、その仕事を探せてもそこからこつこつお金を貯めること自体が困難であり、専門学校卒業後に就職口を見つけること自体が困難であり、就職できてもそこで何年間も働き続けること辞退が困難なのです(終身雇用じゃないから)

 20109月現在、高卒の有効求人倍率は0.67倍。派遣だろうが請負だろうが(高校に送られてくる求人票の多くは派遣業者から)とにかく選ばずに就職したとしても、3人に1人は就職できません。

 

 善意や努力だけで、借りた奨学金は返還できないのです。

 

 投書者は、きっと本当に努力家で善良な人なのでしょう。

 しかしというべきか、だからというべきか、投書者の意図とは正反対に、この投書は奨学生にマイナスのメッセージを発しています。

 自分はこんなに頑張った。だから君たちも頑張れ。

 時代背景も状況の変化も考慮せず、ただ自分がうまくやれたことだけを根拠に(あるいは事実誤認を背景に)、今の若者に無限の努力を求める。

 団塊世代の典型的な若者叩きです。この投書もこの構図をそのままなぞっています。これがこの投書者の限界です。

 

 「声」欄の担当者はどういう意図をもってこの投書を掲載しようと判断したんでしょうか?

 私には掲載を見送るべき内容だと思えるのですが。


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