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ssh370 研究が成果を出すか否かは、事前に見極めなければならない  [科学と技術]

<2010>

 

 某月某日、2年生向け進路講演会に潜入した私。

 講師はアメリカで癌の研究最前線に身を置く研究者の先生。

 わけあって途中から潜り込んだところ、実にいい話題の真っ最中でした。


 「高校の勉強や受験問題だと、最初から一つの正解が想定してありますね。だから頑張って解けば必ず正解にたどり着ける。しかし学校の外の世界には一つの正解なんてものはありません。」

 

 ええ、そうですとも。よくぞ言って下さいました、先生。私もssh278 問題とは何かという問題(3)~現実の問題に正解がない理由 という記事を書きました。

 

 「特に研究の世界というのは、一つの正解なんかない。いや、それどころか、その研究の先に、そもそも答えがあるのかないのかすらわからないんです。どんなに実験を繰り返し研究を続けても、まったく答えが出る可能性がないということもあるんです。」

 

 はいはい、そうですよね。ssh337 研究開発は、成功する保証のない失敗の連続で私もそんなことを書きました。

 ・・・と、実に嬉しい展開をしていると喜んだ次の瞬間、私の目が点になります。

 

 「だから、その研究の先には答えがあるのかどうかを見極める力を身につけなければなりません。答えの出ないような研究をどんなに続けてもダメですから、答えが出るのかどうかを見極めなければなりません。」

 

 !!!!!!!

 な、何だって?


 

 だって、どー考えたって不思議じゃないですか?

 これから研究するんですよ。まだスタートしてないんですよ。

 なのになぜ、その先に答えが出るか出ないかを見極められるんですか?

 しかも、その見極める力は身につけられるって言うんですよ。どうやって?

 

 という私の疑問をよそに、先生の話はこれから進路選択をする高校生へのアドバイスに移りました。

 講演は予定より早めに終了、質疑応答の時間となりました。とはいえ、いつものこととはいえ、挙手する生徒は皆無。

 この機を逃したら二度とチャンスはないと思った私、厚かましいのは承知の上で、生徒を差し置いて挙手。

 

 「すみません!先生、一つ伺いたいんです!

 「あの~、先生は研究は正解のない世界だとおっしゃいましたよね。確かに研究が実を結ぶかどうかはやってみないとわからないと思うんですが、なのに先生は、先に答えがあるかどうかを見極めねばならない、その力を身につけねばならないともおっしゃいましたよね。

 「え~とですね、どうして、まだ進んでいない研究なのに、その先に答えがありそうかどうかがわかるんですか?それと、どうやったらそれを見極める力ってつくんですか?

 

 先生のお答。

 

 「それはですね、学生時代に様々な実験や研究の手伝いなどをやっていくうちに、徐々に身に付いてくるものなんです。研究をする上での基本的な身構えを学んだり、様々なことを経験したりとか、そういったことをやっていると、アテがありそうかどうかというようなことは見えるようになるんです。うまく言えないんですが、経験的に学ぶ勘みたいなものでしょうか。」

 

 私「経験的な勘ですか。直感みたいなものですよね。え~そうすると、例えば失敗体験なんてのが生きてくることもあるわけですか?」

 

 先生「そうですね。失敗体験を繰り返すことも有益な経験です。」

 

 私「あの、こういうお話が出てくるという事は、そういう見極めができない研究者もいるということですよね?そういう人に何か特徴ってありますか?つまりどういう面でマズいのかなと。」

 

 先生「ははは。まあ確かに、若い研究者の中には『何でわざわざそっちを選んじゃうの?』みたいなひどい選択をする人っていうはいますね。まあ特徴と言われても難しいんですが、一つには『木を見て森を見ず』ってのはありますね。研究をしているうちに、ある細部にとらわれてしまって、全体を見る事を怠ってしまう。そうすると研究はヘンな方向に行っちゃう。」

 

 

 講演終了後、急にかつて受験問題集の英文で読んだ話を思い出しました。いや、もしかしたら大学の先生の話だったかな?まあどっちでもいいや。

 研究者が何かの理論や仮説を打ち出すとき、実は一番最初に、直感的に結論がイメージされる。そして、その結論をバックアップするのに必要な実験や論考や調査やデータ収集が行われ、それによってキッチリ証明された時に、その理論なり仮説なりは発表されると。

 

 落ち着いて考えてみれば、研究とか開発とか調査とかいうのは、どんなことをどんな方向でやればいいのか、その選択が無限にあります。一つ方向性が狂えば、欲しい結果には永久にたどり着けません。

 どんな実験や研究をするのか?それは「こっちの方角に向かって歩けばゴールにたどり着けるはずだ」というものがないと始められません。


 ssh337で紹介したエジソンの白熱灯開発の実験にしても、エジソン本人は「必ず答えが見つかるはずだ」という気持ちを持って失敗を繰り返していたのでしょう。

 ただし。「なぜ答えが見つかるはずだと言えるのですか?」と聞かれても、エジソンはあまり大したことは言ってくれないかもしれません。

 だって直感ですから。


 

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