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ssh421 出願指導は何を根拠に行われるのか [志望理由・進路選択]

<2011>

 

 今年も、昨年も、この時期は国公立大学の出願指導で大忙しでした。

 とはいえ、この「出願指導」というのが、ある程度の年代の人にはさっぱりわからないんじゃないかという懸念はあります。「大学受験なんて、自分で受けたい所を受けるもんじゃないの?」という指摘は、あって当然です。

 確かに、かつてはそうでした。また、地区や学校によっては、今でもそうです。

 しかし、現在では、受け持っている生徒にとってベストと思える選択ができるようにアドバイスするのは、学校(予備校もそうでしょう)の重要な仕事です。

 そこまでする必要があるのか?というご意見については、断腸の思いでスルーさせていただきまして、ここでは私たちがどんなことを考えて出願指導をしているのかを書いてみます。

 

 私たち(私だけじゃなくて、同僚さんや似たような立場の人をひっくるめて「私たち」と呼ばせていただきます)が出願指導をする際、考慮するのは以下のようなこと。

1 定期考査や成績評定など、学校内の成績データ・・・これは当然です。かつてはこれが最も信頼できるデータでした。

2 模試などの業者データ・・・どんなに批判されようとも、今やこれがなければにっちもさっちも行きません。

3 センターリサーチの判定・・・最も重要。これなくして国公立大学の出願はできません。

4 配点・・・センター試験と個別試験の配点。例えばセンターの得点が不足気味なら、個別試験の配点が高い方が逆転には有利。

5 個別試験の科目・・・科目が多いか少ないか。その科目はその生徒の得意科目か否か。実技はあるか。面接はあるか。などなど。

6 教科担当者の意見・・・国公立の個別試験は2月ですが、業者の記述模試は11月までに終了しています。その後の生徒の伸びはあるのか?出願から試験までにさらなる伸びは期待できるのか?その生徒に記述試験に対応できる力はあるのか?これらは長くその生徒を見てきた教科担当者の感触が一番信頼できる情報源です。

7 併願・・・国公立後期や私立に割と可能性の高い併願先があって、しかもそこへの進学もOKという場合は、国公立前期はバクチに出ることが可能です。一方、そういう併願先が見当たらない時は、前期から堅く行く必要があります。

8 浪人の可否・・・浪人ができない生徒の場合、とにかく最終的な行き先をきちんと決めさせるような出願が必要になります。浪人OKならそのへんは緩やかにやれます。ただし、安易に浪人を考えている場合は親子ともどもあれこれお話しをする必要があります。

9 生徒のキャラ・・・石橋を叩いてもなかなか渡らないようなタイプと、何回失敗してもあっけらかんと前を向いて行けるタイプとでは、作戦はおのずと変わってきます。ここいらへんは面談の様子でだいたい見えてきます。

10 憧れや思い入れ・・・私の個人的なやり方かも知れませんが、一か八かのバクチに出ることを許すのは、その第一志望に強い憧れや思い入れがある時だけです。火事場の馬鹿力みたいなものは、そういう時にしか生まれません。また、極端な話、受験だけでもしないと後々グジグジと後悔する可能性がある場合は、気持ちの区切りをつけるという意味で、敢えてムダな受験をさせることもあります。


 

11 大学卒業後のこと・・・小中学校の先生に絶対なりたいという人は、浪人してでもきちんとした教育学部の大学に行くことを勧めます。看護師志望なら、大学のネームバリューは二の次だとはっきり伝えます。製薬会社に入りたいなら、薬学部以外に理学部や工学部や農学部で化学を学べばいいと教えます。

12 地理・・・高校生ってのはたいてい日本の地理をよく知らないんです。「東北地方は寒くてイヤだ」と言えば、平均気温のデータを見せます。「遠くてイヤだ」と言えば、日本地図と交通路線図を見せて判断させます。基本的には、理系はイナカでも国公立を勧めます。文系は中身によりますが、例えば日本史や仏教が好きなら関西、特に京都と奈良を勧めます。

13 大学のキャラ・・・例えば英語好きでヨーロッパの文化が好きな場合は、ミッション系の大学をチェックすることを勧めます。亜熱帯の動物や植物が好きなら琉球大学は狙い目ですし、山が好きなら信州大学は要チェックです。韓国が好きなら福岡の大学は近くていいでしょう。ついでに、大学のネームバリューというのは主に首都圏の文系人間が品定めしているものであって、いたっていい加減なものだということも教えます。東京工業大学や東京理科大学なんて超名門なんですが、文系にゃカンケーない大学だから話題にならないんですな。一橋大学と実に対照的。

14 家庭事情・・・経済的にどうしても浪人はできないとか、家から出したくないとか、親御さんの意見は無視するわけにはいきません。ただ、中には「いやお父さんお母さん、それはちょっと・・・」という場合もあるので、そういう時は一応の説得はします。ムリはできませんが。可能なら、プラスアルファの情報(特待生制度)のことも説明します。

15 ウォームアップ・・・先方には大変失礼なことではありますが、本命受験前の「練習試合」として敢えてどこかの大学の受験を勧めるということもあります。練習試合の相手としてベストなのは、本命と同じ教科科目で、しかもなるべく出題傾向が似ているところ。終ってみれば練習試合のつもりだった大学に進学するということもあったりしますから、ただ失礼なだけじゃないんですよ。

16 身の程を知る・・・最近あまり会ってないのですが、以前はまったく合格するアテのない大学ばかり選んで受験する生徒もいました。もしそれがただの身の程知らずである場合は、身の程を知るために敢えてその生徒が小馬鹿にしている大学の受験を強く求めることもあります。まあ大抵受かりません。チャチなプライドが傷ついてザマーミロです。超難関なんか何回落ちても全然プライドが傷つきませんから、目が覚めないんです。

17 次へのステップ・・・16とも似てるんですが、最低でも◯◯大学に受からなければ浪人する、と言っている生徒に、敢えて◯◯より下のランクを受験させることがあります。最大の理由は現在の自分の力を確認して自信をつけさせること。だから医学部志望者に薬学部や理学部を受験させることもあります。「私は△△大学に合格するところまでは来ていた」という自信、何より1校でも合格したという自信が、浪人したときのエネルギーになります。

18 バクチに出る価値・・・いわゆる難関国公立大学(旧帝大など)については、私はかなりのバクチでも受験を勧めます。それだけの価値があると思います。私大は併願が可能だから対象外。一方、ブロック大学と呼ばれる国立大学(筑波・千葉・横浜国立・金沢など)については、学部にもよりますが、あまりこだわらせません(千葉の看護と園芸はバクチに出る価値があると思います)

19 その他・・・面談中の本人のしぐさや表情から、生徒のホンネが見えてくることも多いのです。そういうのは重要な情報源です。

 

 まあとにかく、生徒の人生を左右する責任の思い仕事ですんで、相当あれこれ考えながら指導してはいるんですよ。

 ただし。

 最後の判断はこちらではしません。必ず本人が保護者と話し合って決めるように言います。

 「最後は自分で決めた」というのが、覚悟につながりますから。


 

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