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ssh493 社説の読み方〜フクイチ収束宣言編 [社説の読み方]

<2011>

 

 1216日、野田首相が福島第一原子力発電所(以下フクイチ)の事故の収束を宣言しました。

 あ~良かった、と心底安心したという方、いらっしゃいますか?まさかいないですよね。

 今回の社説の読み方は、そんな「おいおい、収束なんか宣言しちゃっていいのかよ?」という事故収束宣言に関して。

 では参りましょう。トップバッターはsshのアイドル産経クン。

 

◆◆冷温停止状態 長期戦への覚悟を新たに

 福島第1原子力発電所の事故について、野田佳彦首相は原子炉が「冷温停止状態」に達したとして、事故の収束に向けた工程表の第2ステップの完了を宣言した。大震災で大破した原子炉が、初期の危険な状態から脱したことを意味する大きな節目である。

 来年1月を当初の達成目標としていた第2ステップが、現場関係者らの努力で年内に実現したことを評価したい。放射線による犠牲者を1人も出さずに、重大事故後の原発を安定化させたことは、チェルノブイリ事故と比較しても特筆に値する。

 ただし、冷温停止状態になったことで事故との戦いが一気に終結に近づくわけではない。廃炉までには最長で40年という長い時間を要する。世界に前例のない複数炉の事故を安全かつ確実に処理することは日本の責務だ。政府や関係自治体、周辺住民と国民がそれぞれの立場で、長期戦に取り組む覚悟を新たにすることが必要だ。

 冷温停止は、原子炉圧力容器底部の温度が100度以下に保たれ、放射性物質の新たな放出が抑制・管理されている状態を指す。本来は正常な原子炉の安定状態を指す概念だ。

 福島第1原発の場合は、大津波による全電源喪失で炉心溶融を起こし圧力容器の底に穴が開いた。損傷に伴う発熱は抑えられたとはいえ、正確な状態すらまだ把握されていないのが現状だ。冷温停止に「状態」の2文字が付け加えられているのは、このためだ。

 野田首相は「廃炉と被災者の生活再建に一丸となって取り組む」としており、政府は事故に伴って設定した警戒区域、計画的避難区域の見直しを本格化させる。

 低レベル放射線の健康影響を検討してきた内閣府の作業部会は、避難区域設定基準とした年間20ミリシーベルトを「適切」とする見解をまとめた。避難住民の帰宅や除染作業も年間20ミリシーベルト以下が目安となる。

 除染に伴う廃棄物をどこでどう処理するかなど、難しい課題は山積している。原発周辺の沿岸地域は瓦礫(がれき)撤去が他の被災地に比べて大幅に遅れている。住民が元の暮らしを取り戻せるよう、迅速なインフラ整備が必要だ。

 風評被害などが被災者の生活再建を妨げることは、今後はあってはならない。政府や東京電力には国内と世界に向けての適正な情報発信が求められる。◆◆

 

 産経クン、収束宣言を評価しております。日頃民主党政権を親の仇のごとく攻撃しているわりには優しいことです。

 この社説で一つほめておきたいのは、「冷温停止状態」というのが「冷温停止」とは異なるものだということを指摘していること。冷温停止状態という用語はそもそも原子力工学には存在しないということまで指摘すればもっと良かったです。

 しかし、例によって雑な部分もちらほら。

 第2段落で「放射線による犠牲者を一人も出さずに」とありますが、フクイチではすでに3人の作業員が亡くなっています。うち一人は急性白血病による死亡です。東電は被曝によるものではないと否定していますけど、相当眉唾じゃないですかね。

 それと、第5段落に「津波による全電源喪失」とありますけど、これもちょっと東電チックでメディアっぽくない。

 フクイチが使っているGE社のマークIという原子炉は、構造的にかなり地震に弱くなってます。津波以前に原子炉の配管が地震で壊れた可能性がかなり高いという指摘がなされています。

 で、この社説の終盤は、ほとんど何も言っていないのと同じです。小論初心者がよくやる、字数をかせぐための「聞いたようなことの羅列」です。

 後半に行くに従って間延びした感じですが、いつものケッサクな産経クンからすると、わりと努力賞です。


 

 2番手は毎日クン。

 

◆◆冷温停止宣言 収束の正念場これから

 世界に類のない重大事故発生から9カ月。政府が冷温停止状態を宣言したことで東京電力福島第1原発の事故対策が大きな節目を迎えた。

 原子炉の安定した制御は人々が待ち望んできたものだ。しかし、その実態は危ういバランスの上に乗ったものであり、本当の収束からはほど遠い。

 一方で、周辺住民の生活の立て直しは待ったなしの危機的状況にある。政府は、今回の政治的な宣言を機に、事故の真の収束と地域の復興の両方に、新たな覚悟を持って臨んでもらいたい。

 原子炉の状態は事故当初に比べれば確かに落ち着いている。しかし、冷温停止は健全な炉の停止状態を示すものだ。3基の炉心が溶融した重大事故の収束をこの言葉で測ろうとすること自体に大きな疑問がある。

 むしろ、今後、爆発現象や再臨界などの恐れがなくなったのかどうかを丁寧に説明すべきではないか。

 シミュレーションによると燃料は溶けて格納容器内に落下し床のコンクリートを侵食している。東電は落下した燃料も水で冷やされているとの見方を示しているが、推測に過ぎない。今後、燃料の正確な状態を把握していく努力がいる。

 原子炉建屋を覆うカバーもまだ1号機にしか設置されていない。他の原子炉への設置も急ぐべきだ。循環注水冷却系も急ごしらえのままで、汚染水の漏えいには十分な注意を払う必要がある。

 汚染水の処理にも不安がある。原子炉建屋には大量の地下水が流れこみ汚染水の増加につながっている。できるだけ早く手を打つべきだ。

 原発の安定を保つさまざまな設備について東電は3年程度の安全確保の方策も示している。国もお墨付きを与えているが、二重三重の安全装置が一気に吹き飛んだのが今回の原発事故である。二の舞いとならないよう対策には念を入れてほしい。

 今回の宣言を踏まえ、政府は近く警戒区域と計画的避難区域を3区域に再編するとみられる。線量の低い地域でも住民の帰還には除染や健康管理の徹底が大前提となるが、それだけではすまない。

 農業を営む人が多い地域だけに、生活基盤の立て直しとセットでなければ帰還は難しい。野田佳彦首相は土地の買い上げにも言及しているが、長期に帰還が困難な地域にどう対処していくかは政治がかつて直面したことの無い難題となる。

 政府は来年の通常国会に福島の復興に向けた特別措置法案を提出する。住民の声を最大限に尊重しつつ、福島の復興を長期的視点で具体化する。まだ終わりの見えない事故収束に向けた国の重い責務である。◆◆

 

 記事の前半は収束宣言に対する疑問の指摘です。この部分は具体的で悪くないです。ただ、どれも「注意を払う必要がある」とか「できるだけ早く手を打つべきだ」とか、けっこう言いっぱなしな印象は受けます。

 後半については、産経クンとけっこう似てます。つまり聞いたようなことの羅列。

 毎日クンは、ひたすら懐疑的というだけで終わっています。今回はずいぶんと思い切り悪し。

 

 

 3番手は日経クン。  

 

◆◆「冷温停止状態」でも課題残る事故の収束

 福島第1原子力発電所の原子炉は落ち着いてきたにしても、「事故は収束した」と言えるのか。住民や作業員の安全確保を考えても政府の判断には疑問が残る。

 野田佳彦首相は16日、原子炉が冷えて安定する「冷温停止状態」になったとし、政府と東京電力がつくった工程表の第2段階(ステップ2)の終了を宣言した。来年1月までとした目標期間内の達成で、首相は「大きな不安要因を解消できた」と成果を強調した。

 事故発生から9カ月。原子炉に注水して冷やす作業がひとまず奏功し、新たな爆発などの危険はかなり小さくなった。現場の作業員や自衛隊、消防など関係者の努力には頭が下がる思いだ。

 しかし「冷温停止状態」の判断をめぐって専門家には疑問の声がある。政府・東電は原子炉の底の温度が、目標とする100度以下で安定したことを根拠とした。だが、溶けた燃料を直接測る手立てはなく、靴の上から足の形をなぞるようなものだ。本当に「停止」と断定できるのか、内外の研究機関などの評価も仰ぐべきだ。

 放射性物質を含んだ汚染水はたびたび漏れている。建屋をカバーで覆う工事も3、4号機はこれからで、微量ながらも大気への飛散が続いている。外部への漏れを完全に抑え込んだ段階で、事故収束を宣言するのが筋ではないか。

 首相が会見で述べたように、冷温停止後も長く厳しい闘いが続く。炉心溶融を起こした燃料を取り出せるのか。熱を出し続ける燃料をこれから何年間、冷やし続けなければならないのか。技術的な見通しは、まだ立たない。

 政府・東電は最長40年かけて福島原発を廃炉にする工程表づくりを始めた。廃炉の工程に移る前に、仮設の注水装置を頑丈に造り直すなど、事故を確実に収束させるステップが大事だ。

 政治的な意味で事故にひと区切りつけたいのなら、住民にもっと配慮が要る。政府は事故直後に決めた緊急の避難区域を近く見直す方針だが、それにあわせて避難住民の生活再建策を示すべきだ。

 原発周辺の除染は汚染土の置き場の確保などで壁に突き当たっている。除染がどの程度まで進めば帰れるのか。戻れない住民が出てくるのなら、移住先を選び、就業・就学など生活再建を支援する手立てが不可欠だ。◆◆

 

 日経クンは毎日クンよりも踏み込んだ記述をしています。こちらは「この宣言はあまり評価できない」というスタンスです。

 評価できるのが終わりから2段落目の「政治的な意味で事故にひと区切りつけないのなら」からの部分。事故処理そのものがまだまだやることがいっぱいある今の状況で収束を「宣言」する理由は、政治的な狙いによるものであろうというのは妥当な指摘だと思います。で、それにしても不足があると。

 

 

 次行ってみよう。4番手は朝日クン

 

◆◆原発事故ー「収束」宣言は早すぎる 

 事故の本当の収束は、むしろこれからが正念場になる。

 野田首相がきのう、記者会見で福島第一原発事故の「収束」を内外に宣言した。

 周辺の人々が避難生活を強いられていることや、本格的な除染などの課題が山積していることに触れ、事故炉に絞った「収束」だと強調した。

 だが、そうだとしても、この時点で「収束」という言葉を用いたことは早すぎる。

 いまは、急ごしらえの装置で水を循環させて炉の温度をなんとか抑えているだけだ。事故炉の中心部は直接、見られない。中のようすは、計測器の数値で推測するしかない。

 これでは、発生時からの危機的状況を脱したとは言えても、「事故の収束」だと胸を張る根拠は乏しい。

 そもそも、今回は炉が「冷温停止状態」になったと発表するとみられていた。首相が、この年内達成に努めることを国際社会に公言していたからだ。

 だが、それは事故収束に向けた工程表のステップ2の完了にすぎない。あくまで途中経過であり、過大にみてはいけない。

 「冷温停止状態」という見立てそのものにも、さまざまな議論がある。

 政府の定義では、圧力容器底部の温度が100度以下になり、大気への放射能漏れも大幅に抑えられたことをいう。

 だが、東京電力が先月公表した1号機の解析結果で、圧力容器の底が抜け、ほとんどの燃料が容器外へ落ち、格納容器を傷つけたらしいとわかっている。

 いまなお混沌(こんとん)とした炉内で、再臨界の恐れはないのか。巨大な地震に耐えられるのか。こうした懸念をぬぐい去ったとき、初めて「収束」といえる。

 敷地内の作業員らが日夜、危険な仕事を続けたことで、事故処理が進んだのは紛れもない事実だ。その結果、安定した冷却が続いているのなら、そのことを過不足なく説明すればよい。そのうえで「少しずつ前へ進もう」というメッセージを発信すれば十分なはずだ。

 「収束」という踏み込んだ表現で安全性をアピールし、風評被害の防止につなげたいという判断があったのかもしれない。しかし、問題は実態であり、言葉で取り繕うことは、かえって内外の信を失いかねない。

 いま政府がすべきは、原発の状況をにらみながら、きめ細かく周辺地域の除染をしつつ、人々の生活再建策を積極的に進めることだ。

 国民を惑わせることなく、厳しい現実をそのまま伝え、国民とともに事態の打開を図る。それが首相の仕事だ。◆◆

 

 これまでの3本に比べ、朝日クンの文面はさらに踏み込んだものになっています。

 朝日クンのスタンスは「収束を宣言すべきではない」。文章全体も、そのことに絞った物になっています。

 で、テーマが絞られているので、その他のことにはあまり触れていません。それが社説としてどうなのかは私にはよくわかりませんけど、小論文のお手本としては、ここまでの4本ではこれがベストです。

 

 

 5本目行きましょう。しんがり(一番最後という意味です。漢字だと「殿」と書きます)は読売クン。

 

◆◆「事故収束」宣言 完全封じ込めに全力を挙げよ

 野田首相が、東京電力福島第一原子力発電所の「事故収束」を宣言した。発生から9か月、ようやく応急措置を終えたということだろう。

 新段階への移行を国内外に発信する意義は大きい。

 壊れた炉心は、冷却水を浄化しながら循環注水し、100度以下の冷温停止の状態に維持している。多量の放射性物質が漏れ出す可能性は小さいという。

 だが、首相が「原発事故との戦いがすべて終わったわけではない」と言う通り、課題は多い。

 汚染地域の除染、住民の健康管理、賠償の三つを首相が挙げたのも妥当な認識だ。「力こぶを入れて解決を急ぐ」との決意を実行に移してもらいたい。

 政府は今後、原発周辺などに設けた住民の避難地域を再編する。住民が安心して故郷へ戻れる体制を早急に築きたい。

 原案では、放射能汚染の程度ごとに避難地域を三つに区分する。このうち年間に浴びる放射線量が最大でも20ミリ・シーベルトの地域は、電気や水道などが復旧すれば帰宅できる「解除準備区域」とした。

 さらに20~50ミリ・シーベルトは「居住制限区域」、50ミリ・シーベルト超は「長期帰還困難区域」に指定する。

 政府は、除染の取り組みと同時に、汚染状況を踏まえ、地元自治体と協議しつつ、区域指定を急がねばならない。

 帰宅の可否を「20ミリ・シーベルト」で分けたのは、これを下回れば発がんリスクは十分低い、との判断からだ。他の発がん要因としては、例えば肥満も、200~500ミリ・シーベルトの被ばくリスクに相当する。

 細野原発相が設けた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の議論で得られた知見を踏まえている。

 政府は、この「20ミリ・シーベルト」についても、除染により1~2年で10、さらに5、1ミリ・シーベルト以下へと段階を踏んで軽減させる方針だ。時間をかけて環境を修復するという、現実を踏まえた対応だろう。

 今後は、原発の廃止という30~40年に及ぶ難事業への取り組みが本格化するが、壊れた原発内に残る使用済み核燃料の取り出し、炉心や施設の解体などには高度な技術が要る。

 原子炉内の状況把握も、放射能汚染がひどく難航している。

 すでに、炉心の冷却などで出た汚染水の保管場所が来春までに満杯になる、と懸念されている。対策の見通しは立っていない。

 政府、東電は、長期の安全維持に一層気を引き締めるべきだ。◆◆

 

 読売クンの主張は、産経クンとほぼ同じです。つまり「事故収束宣言は正しい」。

 読売クンと産経クンの違いは、読売クンは話をぼやかすというか、薄味で食わせるテクニックが達者だということです。

 今回の社説も、「ようやく応急処置を終えた」「課題は多い」「対策の見通しは立っていない」「一層気を引き締めるべきだ」といった、100%応援の提灯記事のように感じさせないような、譲歩っぽいフレーズがあちこちにちりばめられています。

 しかしその実、この社説では政府の対応はどれも妥当なものだと評価しています。「妥当」という当たり障りのない言葉を選ぶあたりも読売クンの大人なところですねえ。つまりは「政府は正しいぞ」と言ってるんですが。

 そういうわけで、今回野田首相に一番のエールを送っているは読売クンです。

 

 

 今回の社説5本は、スタンスはそこそこ分かれているのに、面白くない文面が目立ちます。遠慮しながら書いているという感じ。

 思うに、読売クンは原発推進を強く主張したいけれど、世論を気にして遠慮している。

 毎日クンは原発に懐疑的だけど、原理力ムラの力学を警戒している。

 産経クンは事故収束をうんと評価したいのに、それは宿敵の野田民主党にエールを送ることになっちゃうので、困っている。

 その点、ポイントを絞った朝日クンと日経クンはお利口さんです。

 

 小論文として採点すると、今回はこんな感じ。

 1位:朝日クン  2位:日経クン  3位:産経クン  4位:毎日クン  5位:読売クン

 

 

 なおsshは反原発の立場であることを、死刑反対と同時に宣言しております。理由は政治にも司法にも行政にもメディアにも経済にも、死刑や原子力のような両刃の剣を扱うだけの分別がないから。詳細はこちらをご覧ください。

 ssh478 sshは我が国の死刑と原発に反対です



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