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ssh542 文系秀才の憂鬱(2) [教育問題]

<2012>


 


 秀才のプライドをもっとも端的に担保してくれるのが学歴。


 しかし学歴自慢はイヤミを伴う。だからプライドはあるのに自慢がしにくい。


 これが文系秀才の憂鬱その1でした。(ssh537 文系秀才の憂鬱(1))




 もちろん、文系じゃなくたって、理系だって学歴自慢をしたければ同じような逡巡はあるでしょう。


 ただ、理系秀才は研究開発などの現場に行くことが多い。現場は現場での能が第一、学歴にはさほど神通力はありません。


 対する文系秀才は、官公庁や企業の総合職のような仕事に就く。専門知識や現場での能じゃなくて、デスクワークが「できる」ことが珍重される世界。学歴の神通力はけっこうある。「◯◯さんって仕事できるよねえ。え、××大学出身なの?やっぱりねえ。」なんてね。


 


 でも、学歴自慢への逡巡というのは、文系秀才の憂鬱の最大の要因ではありません。


 文系秀才を憂鬱にさせるもっと大きな要因は、理系の科目をやり切っていないという後ろめたさです。


 


 今も昔も、文系は理系よりもやることが少ない。


 私は高校で社会は日本史・日本史・倫理社会・政治経済の4科目を学びました。理科は生物・物理・化学のI分野が全員必修。共通一次試験は理系も文系も5教科7科目というキマリで、理科2科目社会2科目が全員必須でした。


 そんな負担のキツかった共通一次時代であっても、やはり文系は理系より負担は軽かった。共通一次は数学も理科もI分野まで。理系のみなさんは2次試験や私大入試のために数学のIIBIII、理科のII分野を必死にやっていました。


 


 その共通一次試験が始まる前、つまり国立大学が一期校二期校だったころ、大半の高校では理系も文系も2年生までほとんど同一のカリキュラムで学んでいました。理系でも日本史・世界史・地理を学ぶし(全部です)、文系でも物理・化学・生物・地学を学ぶ(これも全部やる)


 そんな時代でも、やはり文系は理科のII分野はやらないし、数学IIIもやらなかった。


 一期二期時代の国立大学入試科目は各大学が独自に決めていましたが、文系で5教科とか6科目と求められることは希少。「共通一次世代」と違って、文系なら国英社だけの「私大型受験」で、結構な国立大学に合格できたのが一期二期世代です。


 


 

 私大入試となると、文系は今も昔も3科目が主流です。数学や理科がてんでダメでも、英国社がすごくデキれば早慶上智も夢じゃない。(理系は英数理の勝負で、しかも数学と理科はIIIIIまでやらなきゃいけない。理系の私大は学費も高いし、文系に比べて旨味が少ない。)

 純粋に大学のネームバリューだけを求めるなら、文系の方が断然トクです。

 ま、科目負担が軽いということは、高い得点率が要求されるということですから、トクではあってもラクではないですが、やる科目が少なくて済むというのは間違いありません。

 

 

 最近は「生徒の適性と志望に応じた学習」を保証する学校が多いです。ニーズに応えるということでしょうか。

 文系志望なら、理数系をあまり叩き込んでもムダ。私の勤務校でも、数学はIIBまで全員必修ですが、文系生は化学も物理もやりません。(学習指導要領の改訂により来年から変更)

 ましてや東京とその近郊に住んでいる文系志望者の場合、自宅から通えるところにいい私大がいっぱいあるのだから、苦労して国立型の勉強をして遠くの国立大学に赴くのは(医学部でもない限り)バカ丸出しです。

 東大・一橋・東京学芸・東京外語あたりにチャンスがないのなら、とっとと私大型に切り替えて英国社を必死でやるのが賢いやり方というものでしょう。

 

 

 文系秀才は、理数科目を全部やってはいない。今も昔もやっていない。

 一期二期時代の文系秀才は、理科は4科目履修しているが、受験ではそれらは全く使っていない。

 共通一次世代の文系秀才は、数学Iと理科2科目を受験している分いささかマシですが、それでも数学IIIも理科IIも履修していない。

 今日の文系秀才は、数学IIICはもちろん、物理化学は履修すらしていない。

 首都圏の私大専願生なら、さらに数学も生物地学も1年以上前にやめて、すっかり忘れている。

 推薦で大学に進んだ人の場合、理数科目は完全に頭から抜けているでしょう。

 

 

 自分自身は高学力だと自負している。それを担保する高学歴もある。

 なのに、フツーの理系なら知っている理数分野のことは、よくわからないか、苦手か、学んだことすらない。

 アタマの良さが自慢なのに、知性にアキレス腱がある。理数分野にコンプレックスがある。

 これが、文系秀才の憂鬱その2です。

 

 このコンプレックスは、彼ら彼女らが組織の上層に行った時に、けっこう厄介です。

 企業でも自治体でも官庁でも、総合職・管理職は、科学技術にまつわることまでが管理統括の対象となります。

 自分ではよくわからない分野のことを、あれこれ管理統括しなければならない。

 ここで謙虚に現場のエンジニアや研究者に耳を傾けて勉強し直せばいいんですけど、文系秀才はプライドだけは高いもので、「二流大学」と見下している現場の人間の進言に素直に耳を傾けられない。

 また逆に、東大とか東工大とか京大なんか出身の理系秀才が相手だと、ロクに考えずに何でも受け入れちゃう。

 みなさんの会社にも、そういう厄介な「文系秀才の成れの果て」はいませんか?

 

 

 ところで。

 日本国東京都には、全国から選りすぐりの文系秀才「だけ」が集うという大学があります。

 それは国立大学法人一橋大学。

 法学部と経済学部と商学部と社会学部という社会科学系の学部だけから成り立つ超難関名門大学です。

 ある意味、一橋こそが「文系秀才の憂鬱」をもっとも具現している大学ではないかと思います。

 その話はまたいずれ。


 

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