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ssh543 「プレゼンする力」をプレゼンする力(1) [小論文]

<2012>

 

 710日付朝日新聞オピニオン欄にいいネタがありました。

 この日のテーマは「プレゼンする力」。同紙はここのところ特集していたネタです。

 この日のオピニオン欄は、プレゼンする力はどこから来るのかということについて、3人の著名人にインタビューしています。

 

 あるテーマについて複数の異なる意見を掲載するのは朝日の得意技。中央他紙はこういう太っ腹な紙面は作りません。自製の記事はかなりお粗末な朝日クンですが、巨大掲示板としての自紙の機能にはまだまだ自覚的なようです。

 

 今回掲載されたのは鷲田清一・山田ズーニー・柳井正(敬称略)のインタビュー。

 これらはどれも「プレゼンする力」という問に対しての、各自の意見とその根拠です。

 言い換えれば、これらのインタビューそのものがプレゼンです。

 そこで、ssh的な企画を立てました。

 題して、「プレゼンする力」をプレゼンする力。

 「プレゼンする力」というお題をもらったお三方のプレゼンを読んで、その力量を採点しちゃいましょう、ということであります。

 

 

 まずは、お三方のプレゼンをご紹介。どれもちょいと長いので、私の判断であちこち略してあります。で、いちいち前略とか中略とか書くのも面倒なので、略した部分には***をいれてあります。

 

 では、参りましょう。

 トップバッターは阪大総長時代「ワッシー」と学生に親しまれていた(と教え子に聞きました)、現大谷大学教授の鷲田清一。

 

 ◆◆***プレゼンが広がっている理由は三つ。一つは、国際社会で日本人は自分を表明してこなかった、経済も落ち目、だからここでポジティブにという流れ。二つ目は、市民たるもの、意見をきちっと表明し社会を変えていこうという「新しい公共」の動き。三つ目は、国から地域までのムラ社会の崩壊。***

 「プレゼン」にいい思い出はない。大阪大の総長のとき、国から競争的資金をとるのに、何度もプレゼンをさせられた。皆いいことばかり言う。けれど、研究なんてそんなにうまくいくものではない。だから僕は「実は難しい問題があって」などと逆に芝居を打つ。テクニック、だましっこの世界です。

 それを教育でモデルにしたら最悪です。***一方に、勝ち負けを追求する戦略家。他方には、自分を高く売りつけるゲームがしんどくて、おりる子。どちらも学ぶ意欲は限りなくゼロに近づいていくでしょ。

 ゼミの研究発表や遠足の感想まで「プレゼン」と言わなくていい。商品を売らんかなの市場論理の言葉ですから。ただ「リポート」と呼べばいい。***

 自分がどう考えてるか、他人からどう思われてるか不明なまま、いいことも悪いことも率直に口にし、言葉をざらざらとこすり合わせる。そうしているうちに、新しい言葉が立ち上がる。

 出前で400回ほどやってきた「哲学カフェ」もそう。初対面の人たちがいきなり問題の立て方から議論を始め、具体的な例に沿って語るなかで、言葉の感触というものが人によって想像以上に違うことに気付く。

 言葉は世界を読み取る網のようなものです。もやもやしてる問題に言葉を与えることで、そういうことだったのか、と腑に落ち、見晴らしがよくなる。そんな確かな言葉を見つけられればいい。口べたでもいいんです。◆◆


 

 2本目はsshにもちょくちょく(無断で)登場の、最近は慶應大始め多くの大学・高校で講義にワークショップに活躍中の山田ズーニー。

 

 ◆◆***プレゼンは、思いを形にして外に通じさせる行為だと考えます。最も伝えたいことは多くの場合、形がありません。それを受け手が見える形にして届けることです。思いを言葉にし、まず自分、次に自分以外の1人、最後は他者や社会に通じさせる。それがゴールです。

 「本当の思いがわからない」「集団からはじかれたくなくて、思いを出すのが怖い」「実感と離れた、優等生的なことを言わないといけないんじゃないか」という人が多い。

 話し方の技術の前に、腹から本当に思っていることを取り出すことが大切です。そうしないと、プレゼンは学生にとって実感とかけ離れた、伝える喜びのないものになってしまいます。

 思いを見つけるための道具は「問い」です。いきなり「なぜその会社や学校に入りたいか」という大きな問いには答えられない。身近な体験の中から、小さな問いを立てて答え、その答えにまた問いを立てる。それを丁寧に繰り返します。***

 大切なのは、正直であること。正直さと勇気はセット。勇気なくできるプレゼンに、大して面白いものはない。

 生まれながらにプレゼンの才能がある人がいると思うのは、幻想です。小さい勇気と正直さを日々積み重ねた人が、ここ一番で前に出られる。***

 学生や社会人は、プレゼン力を求めている。でも、彼らが求めるものはこの5年で「言うことが伝わらないので鍛えたい」から「自分の本心を探したい」に変わりました。

 技術を仕入れるほど上っ面の場はうまく言えるけれど、本心で通じ合えた満足感がない。深い考えを伝え、もう一段高いところで人が言葉で通じ合おうとしている。日本人は進化しているぞ、って思います。◆◆

 

 

 ラストは、教育現場以外の代表ということでしょうか、日本で最も著名なビジネスマンの一人、ユニクロことファーストリレイリング社長の柳井正。

 

 ◆◆ユニクロが世界一を目指す原点は、私が生まれ育った山口県宇部市にあります。宇部は炭坑の街でした。主力産業が衰退し、人口は減っていった。従業員の住宅がなくなり、友人は家族と一緒にいなくなった。主産業の衰退は悲惨です。

 その風景がいま、よぎります。日本経済がいい時代は海外進出は片手間でよかった。でも、これからは国内だけでは生き残れません。***

 グローバル人材に求められるのは、人種、文化、宗教を問わずコミュニケーションができる能力です。***

 今、海外で活躍する日本人が少ないのは、プレゼンができず、リーダーシップを発揮出来ないからではないですか。

 我々は年2回、グループ全社員三千人が参加する「コンベンション」を開いています。海外の事業所、店舗の人間も参加します。経営方針を伝える場でもあるのですが、役員と社員の意見交換、討議の場も設けています。意見交換では、やはり外国人社員の発言が目立つ。最近、ようやく日本人も主張するようになりました。***

 企業活動が外国に出なければ生き残れないと変わったのだから、教育も変わらなければならない。横並び教育は、世界最悪です。競争させなければいけない。音楽でも、趣味でも競争させる。競うことによって他人とは違うことを考え、相手に伝え、実践するようになる。

 座って知識を習得するだけでなく、学んだ知識から判断力、理解力を養い、それを語り、実行する教育に変えるべきです。

 今の教育は、子どもや学生を社会と隔離してしまっている。子どもの頃から外国人と接する機会を作る。教室の外や生活、生き方を教える。そんな教育に早く変えなければ、国際社会から取り残されてしまう。このままでは二等国、三等国に成り下がってしまいます。◆◆

 

 

 さて、3人のプレゼンの評価やいかに?

 みなさんもぜひ気楽に採点してみてください。

 なお、プレゼンの採点方法は

  1. そのプレゼンのいいところ、評価出来る部分、気に入った部分を挙げる
  2. そのプレゼンの気に入らない部分、改善した方がいい点を指摘する
  3. その上で、順位を付ける

 というのが手っ取り早いです。

 

 解答解説は次号以降ということで。


 

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