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ssh621 社説の読み方〜体感治安と風評被害編 [社説の読み方]

<2013>

 

 本年度の警察白書が発表されました。

 それによると、日本の犯罪は減少の一途。いや~、実に結構なことです。暗いニュースが多い中、めでたい話です。株価と違って犯罪は右肩下がりに減ってくれればこんないいことはありません。

 あの東京オリンピック招致委員会だって「日本は治安がいい」をセールスポイントにしてます。日本の治安の良さは国際的にアピールすべき事実なのです。

 

 今回、警察白書ネタを社説展開したのは読売クンと日経クンの2紙のみ。そりゃそうでしょうね。いいことをネタにするのはブン屋さんの苦手分野でしょう。内容はほとんど同じでした。

 しかしその内容は、ssh的には看過できないものがあります。今回は読売クンを俎上に載せて、その問題点を指摘しておきたいと思います。

 

 まずは警察白書の社説。

 

◆◆警察白書 犯罪抑止は迅速な対応から(86日付・読売社説)

 犯罪の摘発は警察の重要な責務だ。併せて、犯罪の未然防止に全力を挙げることが治安を守る上で欠かせない。

 刑法犯は減少の一途である。昨年の認知件数は138万件で、ピークだった2002年の半数にも満たない。防犯カメラや警報装置の普及で、空き巣や車上荒らしなどの窃盗が減ったのが大きな要因だ。

 ところが、内閣府の世論調査では、8割の人が「治安は悪化した」と回答したという。今年の警察白書は、犯罪件数の減少と国民意識の食い違いについて、「子供、女性、高齢者」が被害者となる事件が目立つため、と分析している。統計を見る限り、もっともな指摘である。

 子供に対しては虐待が絶えない。児童虐待の摘発は昨年、472件で最多となった。被害者のほとんどが女性である家庭内暴力(DV)の認知件数は約4万4000件、ストーカーは約2万件に上り、いずれも最多である。高齢者は、振り込め詐欺や悪質商法の標的になっている。

 警察が迅速に動けば、これらの被害の深刻化を防ぐことができるだろう。犯罪抑止力を警察全体として高めることが肝要だ。手段の一つとして、白書は全国の警察署にある相談窓口の強化を打ち出した。窓口を地域の安全を探るアンテナとして使い、犯罪防止に努める試みだ。多種多様な相談に対処できる担当者を育成するという。教育委員会や児童相談所、消費生活センターなど、関係機関との緊密な連携もうたっている。

 長崎県西海市のストーカー殺人事件では、被害者側からの度重なる相談に適切に対応せず、最悪の事態を招いた。白書が「刑罰や法令に抵触しない場合でも、必要に応じて相手側への指導・警告を行う」と改めて強調したのは、こうした失態からの教訓と言えるだろう。身に危険を感じている人の訴えに、真摯に耳を傾けることが何より重要である。

 相談業務を充実させるには課題もある。恒常的な人手不足の中、どれほどの警察官を投入できるのか。電話相談用の全国統一番号を周知するなど、効率的な相談対応に努めてもらいたい。寄せられた深刻な相談内容については、都道府県警本部や各署で情報を共有することが必要だ。

 不祥事が続く警察の信頼回復のためには、迅速な対応で住民の安全を守ることが求められる。◆◆


 

 単独の意見文としては、大きな破綻はありません。そこはさすがに高給取りの新聞社員です。

 論旨を一言でまとめれば「体感治安の悪化は重大な問題である」。その根拠は、子ども・女性・高齢者が被害者となる事件が目立つためである。

 ここの分析には疑問がありますねえ。

 

 というのは、子ども・女性・老人が被害者となる事件のデータそのものが、新しく始まったものばかりだからです。

 児童虐待という言葉はかつて日本にはありませんでした。この言葉が市民権を得て、関係部署がちゃんと働き始めたから通報も摘発も増えたというのが現実じゃないですかね。DVなんてもっと新しい言葉です。かつてなら父ちゃんが乱暴な人という程度で片付けられていたものが、ちゃんと摘発されるようになった。事件の数が増えたかどうかは何とも言えません。振り込め詐欺や悪質商法についてはデータすら書かれていないのでまったく論拠になりません。

 

 まあそれでも、「実際の件数よりも国民の感情をこそ大切にせよ」という意見そのものは、決して悪くはないと思うんですよ。

 次のような意見を、同じ新聞の同じ社説がのべてなけりゃ、の話ですが。

 

◆◆原発汚染水対策 東電だけに任せておけない(727日付・読売社説)

 東京電力福島第一原子力発電所の敷地から、汚染水が海に漏れ出していることがわかった。

 漏れた放射能の量はわずかで、検出濃度は、高くても国の基準値の30分の1ほどだ。汚染水も、原発の港湾施設内にとどまるという。それでも海洋汚染による風評被害を懸念する声が、福島県の漁業関係者を中心に広がっている。漏出を食い止めるため、東電は全力を挙げてもらいたい。

 対策として、東電は、岸壁周辺の地盤を薬液で固めるという。漏出源と疑われる岸壁近くの溝内の汚染水もくみ出す方針だ。作業を急がねばならない。

 心もとないのは、今回の問題を巡る東電の一連の対応である。最初に漏出が疑われたのは5月末だった。ところが、確認作業に手間取り、関係機関への報告や公表までに1か月余りを要した。

 東電が設けた有識者らの監視委員会が26日、リスク管理の甘さを指摘し、技術力の向上を求めたのはもっともと言えよう。福島第一原発の汚染水問題の深刻さを考えると、今の体制で着実に進むのか、疑問を拭えない。

 東電は、原子炉に冷却水を注ぎ続けている。建屋の地下には、破損部などから地下水も流入し、その結果、1日に400トンもの汚染水が増え続けている。原発敷地内のタンクに貯まった汚染水は、すでに40万トン近い。タンクは最大80万トンまで増設可能というが、いずれ満杯になる。地下水流入を減らし、汚染水を増やさないことが大切だ。

 東電は、地下水を原子炉への流入前にくみ上げ、海に流す方針を決めている。だが、地元の漁業関係者らの了解が得られない。政府も、東電に協力し、説得にあたるべきだ。地下水流入を防ぐ抜本策として東電は、水を遮る壁を地下に設けることも計画している。有力な手段となるだろう。

 課題は、大量に貯まった汚染水の処理である。浄化すれば貯水時のリスクが減る。開発中の浄水装置の本格稼働が欠かせない。原子力規制委員会は、浄化した水も、いずれ海に流さざるを得ないとの見解を示している。その安全性について理解を得るため、規制委には、専門的立場から説明することが求められる。

 汚染水対策を疎かにしては、福島第一原発の廃炉は進まない。政府は、東電との連携を強化し、資金や技術などで必要な支援策を講じてもらいたい。◆◆

 

 太字部分で述べられているのは、「汚染水の海洋投棄に対する不安には説明と説得で対応せよ」です。

 

 体感治安は重視して真摯に対応すべし。放射能への不安は説明と説得で納得してもらうべし。

 

 何すか、それ?

 風評被害が説明で納得してもらえるなら、体感治安も「治安は改善しています。恐れることはありません。治安の悪化は単なる風評です」と説明して納得してもらうべきじゃないんすか?そうなれば、監視カメラも極刑支持論も「風評被害」ということになります。

 

 

 二枚舌はいけませんよ、読売クン。閻魔様にベロを引っこ抜かれますぜ。


 

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