ssh684 社説の読み方〜捏造だという捏造編 [社説の読み方]
<2014>
◆◆首相の発言 「捏造」は看過できない (2014年11月1日 朝日新聞社説)
NHKやネットで中継されている国会で、首相が特定の新聞社の報道を取り上げ、「捏造(ねつぞう)」だと決めつける。
いったいどこの国の話かと思わせる答弁が続いている。
おととい(注:10月30日)の朝刊で朝日新聞は、安倍首相と自民党議員との昼食会の模様を報じた。
その席で、民主党の枝野幹事長の政治資金収支報告書に収入の不記載が見つかったことが話題になった。政治とカネをめぐる野党の追及について、安倍氏がこれで「撃ち方やめ」になればと語ったという内容だ。
その枝野幹事長が衆院予算委で事実関係をただすと、首相はこう答えた。
「きょうの朝日新聞ですかね。これは捏造です」
驚くべき答弁である。なぜなら、毎日、読売、日経、産経の各紙や共同通信も「撃ち方やめ」を首相の発言として同じように伝えていたからだ。枝野氏も、朝日の報道に限って質問したわけではない。
首相は「私が言ったかどうか問い合わせがないまま、言ってもいない発言が出ているので大変驚いた」と述べた。
だが、各紙の報道は、昼食会に出席した首相の側近議員による記者団への説明に基づいている。この議員の事実誤認であるなら、そう指摘すればいいではないか。実際、この議員は後に「『撃ち方やめ』は自分の言葉だった」と説明を修正した。
首相はまた、「朝日新聞は安倍政権を倒すことを社是としているとかつて主筆がしゃべったということだ」とも語った。
それが朝日新聞だけを名指しした理由なのか。
権力監視は民主主義国の新聞として当然の姿勢だ。それでも時の政権打倒を「社是」とするなどばかげているし、主筆がしゃべったというのも、それこそ事実誤認の伝聞だろう。
朝日新聞は慰安婦問題や福島第一原発事故の吉田調書について一部の記事を取り消し、その経緯を検証している最中だ。だが、それと政権に対する報道姿勢とは別の話である。
メディアを選別し、自身に批判的な新聞に粗雑なレッテルを貼る。好悪の感情むき出しの安倍氏の言動は、すべての国民を代表すべき政治指導者の発言とはとても思えない。
予算委で安倍氏は、閣僚の不祥事を追及する野党議員に対し、「公共の電波を使ってイメージ操作をするのはおかしい」と反論した。
では、問いたい。「イメージ操作」をしようとしているのはどちらなのか。◆◆
コトの発端は、10月30日に中央5紙すべてと共同通信および共同通信から配信を受けた多くの地方紙が、太字のような報道をしたということ。
それそのものは、自衛隊の戦車にミリタリールックで乗り込んではしゃいでみせた晋三坊ちゃまらしい発言であります。
ところがそれに対して、坊ちゃまが太字のようなことを言ったのですね。それも国会答弁で。
その後、「側近」とやらが、あの発言は首相本人のものではないと弁明した。それでコトは終わるのかと思いきや、坊ちゃまは自身の発言を撤回も訂正もせず、もちろん謝罪なぞせず開き直ったのですな。
その辺の経緯は次の文面に詳しいです。
◆◆首相の「捏造」発言 冷静さを欠いている (2014年11月02日 毎日新聞社説)
一国の首相の口からこんな発言が軽々しく飛び出すことに驚く。
安倍晋三首相が朝日新聞を名指しして、その報道を「捏造(ねつぞう)だ」と国会の場で断じた。だが、捏造とは事実の誤認ではなく、ありもしない事実を、あるかのようにつくり上げることを指す。果たして今回の報道がそれに当たるかどうか、首相は頭を冷やして考え直した方がいい。
経過はこうだ。首相は先月29日昼、側近議員らと食事した。終了後、出席者の一人が報道陣に対し、首相はその席で政治資金問題に関し「(与野党ともに)『撃ち方やめ』になればいい」と語った、と説明した。これを受け、朝日のみならず毎日、読売、産経、日経など報道各社が、その発言を翌日朝刊で報じた。
ところが首相は30、31両日の国会答弁で朝日の記事だけを指して「私は言っていない。火がないところに火をおこすのは捏造だ」などと批判し続けた。一方、当初、報道陣に首相発言を説明した出席者はその後、「発言者は私だった。私が『これで撃ち方やめですね』と発言し、首相は『そうだね』と同意しただけだ」と修正した。つまり発端は側近らのミスだったということになる。
首相は「発言を本人に確かめるのは当然」と言う。その通りである。ただし現在、首相と担当記者との質疑の場は実際には首相側の都合で時折設定されているに過ぎない。首相がそう言うのなら、小泉純一郎首相時代のように1日2度、定期的にインタビューの場を設けてはどうか。
首相はかねて朝日新聞を「敵」だと見なしているようで、今回の記事も「最初に批判ありきだ」と言いたいようだ。「安倍政権を倒すことを社是としていると、かつて朝日の主筆がしゃべったということだ」とも国会で発言している。だが、朝日側はその事実はないと否定しており、首相がどれだけ裏付けを取って語っているかも不明である。
あるいは慰安婦報道や東京電力福島第1原発事故の「吉田調書」報道問題で揺れる朝日を、「捏造」との言葉で批判すれば拍手してくれる人が多いと考えているのだろうか。
いずれにしても今回、報道に至る経過を首相が精査したうえで語っているようには見えない。「私は語っていない」と報道各社に修正を求めれば済む話だったと考える。
従来、批判に耳を傾けるより、相手を攻撃することに力を注ぎがちな首相だ。特に最近は政治とカネの問題が収束せず、いら立っているようでもある。しかし、ムキになって報道批判をしている首相を見ていると、これで内政、外交のさまざまな課題に対し、冷静な判断ができるだろうかと心配になるほどだ。◆◆
これ、どう考えても、晋三坊ちゃまのエラーですね。
ところが。
先月来、朝日新聞に対して謝罪せよだの何だのとゴーゴーの非難をかましていた読売・産経・日経からは、この件に対する社説展開がまだありません。
これは一体どういうことなのでしょうか。
過ちはただちに訂正し検証し謝罪せよと言い続けていた、あの矛先は、政権には向けられないのでしょうか。
コトは朝日新聞の問題じゃないでしょう。自分たちも同じ報道をしているのです。全く同じ報道をしたのに、1紙だけが捏造と非難されている。そのことに対して、黙っているというのはどういう神経なんでしょうか。
ssh681 政権やメディアを見習うと小論入試で落ちる で、私は政権とメディアが一貫性に欠けることを真っ先に指摘しました。一貫性のない姿勢は説得力がなく、読み手を説得するのが使命である小論文では絶対にやってはならないことであると。
そういう悪い見本が、また一つ増えてしまったようです。
他者の誤りに訂正と謝罪を執拗に要求しておきながら、自らの誤りには訂正も謝罪もせず開き直る首相。
他紙の誤りに訂正と謝罪を執拗に要求しておきながら、首相にはそれををまったく求めないメディア。
もしかしたら、明日以降、読売・日経・産経の3紙も社説展開をするのかもしれません。
しかし、私の評価はもう定まっています。
ジャーナリズムにとって、何を言うかだけでなく、「いつ」言うのか、「どこで」言うのかも極めて重要です。
大勢が定まってから後出しジャンケンよろしく威勢のいいことを言ったところで無価値です。
社説で述べるのと、ベタ記事や外注記事で扱うのではまったく覚悟が違います。
11月3日時点で社説展開していないようでは、この問題に関しては試合放棄です。