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ssh687 社説の読み方〜沖縄県知事選編(2)辺野古移設再考2紙+αの社説  [社説の読み方]

<2014>

 

 それでは、読売・産経・日経と対極の主張をする2紙の社説を見てみましょう。

 

 まずは朝日クン。この日の社説は単一展開、すなわち通常の倍の紙幅を充てるリキの入れようです。(引用文中の太字はすべてshiraによります)

◆◆沖縄県知事選辺野古移設は白紙に戻せ

 沖縄県知事選で、新顔の翁長雄志(おながたけし)氏(64)が現職の仲井真弘多(なかいまひろかず)氏(75)らを大差で破り当選した。「これ以上の基地負担には耐えられない」という県民の声が翁長氏を押し上げた。

 最大の争点は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設の是非だった。1月の名護市長選、9月の同市議選に続き、知事選も移設反対派が制したことで、地元の民意は定まったと言える。

 「沖縄に寄り添う」と繰り返してきた安倍政権である。辺野古への移設計画は白紙に戻すしかない。

「保革」超えた動き

 政権側は辺野古移設を「過去の問題」として、知事選での争点化を避けようとした。

 だが、翁長氏は「あらゆる手法を駆使して辺野古に新基地をつくらせない」と主張。仲井真氏は「一日も早い普天間飛行場の危険除去には、辺野古移設が具体的で現実的な方策」と応じた。民意は翁長氏についた

 県民にとって、今回の知事選には特別な意味があった。

 普天間飛行場の海兵隊は、山梨県や岐阜県の基地から、米軍政下の沖縄に移ってきた。米軍は「銃剣とブルドーザー」と呼ばれる強権的手段で住民の土地を奪い、基地を建設した。

 そして、国土の0・6%の沖縄に、全国の米軍専用施設の74%が集中する不公平

 「基地は県民が認めてできたわけではない。今回、辺野古移設を受け入れれば、初めて自ら基地建設を認めることになる。それでいいのか」。県内にはそんな問題意識が渦巻く。

 それは「本土」への抜きがたい不信であるとともに、「自己決定権」の問題でもある。自分たちが暮らす土地や海、空をどう使うのか、決める権利は本来、我々にこそある、と。

 前那覇市長で保守系の翁長氏は「イデオロギーでなく沖縄のアイデンティティーを大切に」と訴え、保守の一部と革新との大同団結を実現した。とかく「保革」という対立構図でとらえられがちだった沖縄の政治に起きた新しい動きだ。


 

公約違反に「ノー」

 96年に日米両政府が普天間返還に合意し、移設先として辺野古が浮上して18年。この間ずっと沖縄では、辺野古移設が政治対立の焦点となってきた。

 転機は2009年、「最低でも県外」と訴えた民主党の鳩山政権の登場だった。迷走の末、辺野古移設に逆戻りしたものの、「県外移設」に傾いた県民感情は収まらない。

 辺野古容認派の仲井真氏も、前回10年の知事選では「県外」を求め、再選された。

 以来、自民、公明を含めた沖縄の主要政党が辺野古移設反対で一致。「オール沖縄」と呼ばれる状況が生まれた。

 ところが、自民が政権に復帰すると、激しい巻き返しが始まる。党本部の圧力で、党国会議員団、党県連が、辺野古容認に再転換。仲井真氏も昨年末、埋め立てを承認した。

 今回有権者が突きつけたのは、本土の政権に屈して公約を覆した地元政治家に対する「ノー」だったとも言える。

 政府がこの夏、ものものしい警備のなか、辺野古のボーリング調査を強行したことも、県民の怒りを増幅させた。

 政府が打ち出す基地負担軽減策も、県民には「選挙対策か」と空々しく映っただろう。

唯一の選択肢か

 なぜ、日本政府は沖縄に基地負担を強い続けるのか。

 最近は、中国の海洋進出や尖閣諸島の問題があるからだと言われる。だがそれは、米海兵隊の恒久的な基地を沖縄につくる理由になるのだろうか。

 尖閣周辺の対応は海上保安庁が基本だ。万が一の場合でも、少なくとも海兵隊が沖縄の基地に張り付いている必要はない。

 日米両政府は「辺野古が唯一の選択肢」と強調するが、米国の専門家の間では代替策も模索されている。フィリピンや豪州に海兵隊を巡回配備し、ハワイやグアム、日本本土も含め地域全体で抑止力を保つ考え方だ。

 米ハーバード大のジョセフ・ナイ教授は「中国の弾道ミサイルの発達で沖縄の米軍基地は脆弱(ぜいじゃく)になった」と指摘する。沖縄だけに基地を集める発想はかえって危ういという意見だ。

 「辺野古移設か、普天間の固定化か」。第三の道となる代替策を無視して二者択一を迫る政府の手法は、適切ではない。

 しかし、政権内に辺野古移設を見直す気配はない。新知事となる翁長氏に、沖縄への一括交付金の削減で対抗するという声すら聞こえてくる。

 明白になった沖縄の民意をないがしろにすれば、本土との亀裂はさらに深まる。地元の理解を失って、安定した安全保障政策が成り立つはずもない。

 知事選を経て、普天間問題は新たな段階に入った。二者択一の思考停止から抜け出す好機だろう。政府は米国との協議を急ぎ、代替策を探るべきだ。◆◆

 

 残る1紙は毎日クン。こちらもリキの入った一本展開です。

◆◆社説:辺野古移設に審判 白紙に戻して再交渉を

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する地元の民意はもう後戻りしないだろう。沖縄県知事選で、翁長雄志(おなが・たけし)前那覇市長が3選を目指す仲井真弘多(ひろかず)知事らを破り初当選した。1月の名護市長選に引き続き、またも移設反対派が、安倍政権の全面支援を受けた推進派を退けたことになる。

 辺野古移設を最大の争点にした選挙でこれだけ明確な民意が示された以上、政府が移設を推進することは、政治的にも道義的にも不可能だろう。政府は移設計画を白紙に戻し、米政府と再交渉すべきだ。

本土と沖縄に深刻な溝

 翁長氏の勝利は、過去の知事選に比べてもとりわけ重い意味を持つ。

 沖縄の知事選で初めて保革対決が崩れ、翁長氏が「沖縄対本土」という対立構図を強調する中で勝利したからだ。翁長氏は沖縄保守政界の重鎮だ。保守系地方議員の一部や共産、社民両党など革新政党が支援して保革共闘ができ、自民党などの推薦を受けた仲井真氏に勝った。

 翁長氏の公約「新基地建設反対」の合言葉は、「オール沖縄」「イデオロギーよりアイデンティティー」だった。そこには次のような意味が込められている。

 <日米安保体制は理解するが、日本の安全保障は日本全体で負担してほしい。国土面積の0.6%しかない沖縄に在日米軍専用施設の74%が集中しているのは理不尽で、沖縄への構造的差別ではないか。

 沖縄は基地経済がないと立ちゆかないという見方は誤りで、基地関連収入が県経済に占める割合は現在では5%に減った。基地は今や沖縄経済発展の最大の阻害要因だ。

 基地をはさんで左右や保革に分かれたり、基地か経済かの二者択一を迫ったりするのは、旧態依然の古い発想だ。基地問題はもうイデオロギーではない。沖縄のアイデンティティーの問題であり、沖縄の将来は自分たちの手で決める>

 翁長氏の勝利は、日本政府と本土の一人一人に根本的な疑問を突きつける。なぜ沖縄の現状に無理解で無関心なのか。なぜ沖縄の民意に真剣に向き合わないのか。それは民主主義にもとるのではないか、と。

 政府が今回の選挙結果を無視し、移設を強行すれば、本土と沖縄の溝はますます深まり、亀裂が決定的になりかねない。沖縄が不当に差別されているという感情を抱えたまま、過重な基地負担を引き受けられるものではない。この矛盾は日米安保体制を確実に不安定化させるだろう

 安全保障は国の専管事項だが、それは地元の意向を勘案しなくていいという意味ではない。地元をはじめ国民全体の理解がなければ安全保障政策など成り立たない。今回のように国の方針と地元の民意が対立した場合、政府は両者の溝を埋める努力をすべきだが、責任を十分に果たしてこなかった

 それどころか翁長氏の勝利を後押ししたのは、安倍政権の普天間問題の進め方に対する沖縄の人々の激しい怒りだった。仲井真氏は前回知事選では県外移設を公約して再選された。だが昨年末、仲井真氏は政府の経済振興策などを評価し公約に反する形で辺野古埋め立てを承認した。この過程で振興策というカネさえ積めば沖縄を懐柔できると考えているかのような政府のやり方に、沖縄の人々は誇りを傷つけられた

米国内にも計画に異論

 ここまで問題がこじれた以上、現行の移設計画に固執するのは現実的ではない。政府は今夏、辺野古沿岸部の埋め立てに向けた海底ボーリング調査を開始し、選挙結果にかかわらず移設を推進する方針を示しているが、調査を中止すべきだ。

 ただし、辺野古の白紙化を普天間の固定化につなげてはならない。この問題の原点は、「世界一危険な基地」といわれる普天間の一日も早い危険性除去にある。安倍政権は今後も沖縄と約束した「普天間の5年以内の運用停止」をはじめとする基地負担軽減策を進めるべきだ。沖縄振興策も毎年3000億円台の予算を確保するという約束を違えて減額することがあってはならない。

 普天間返還合意から18年。日本と合意を重ねてきた米国との再交渉に持ち込むのは容易ではなかろう。それでも沖縄の民意がもたらす深刻な影響を日米両政府が共有すれば、おのずと協議は新たな段階に移っていくはずだ。

 日米両政府の合意は辺野古移設を「唯一の解決策」としているが、米議会には辺野古は非現実的だとして異なる意見があり、マケイン上院議員らが米軍嘉手納基地に統合する案を提案したこともある

 ジョセフ・ナイ元米国防次官補は今夏、沖縄の米軍基地の脆弱(ぜいじゃく)性を指摘し、在日米軍の配備見直しを求めた。米国でも異論が出ているのだ。

 日米安保体制が日本とアジア地域の安定に果たす役割は大きい。中国の軍備拡張や海洋進出、北朝鮮情勢を考えれば、在日米軍の抑止力は維持する必要がある。

 日米安保体制を安定的に運用していくという大きな目的のためにも、日本政府は沖縄との摩擦を放置せず、米政府に再交渉を求めて問題解決を図るべきだ。◆◆

 

 さて、朝日クンと毎日クンの社説中には、ssh686で指摘した辺野古移設推進組の論拠に対する反論がいくつか発見できます。

  • 普天間問題に対しては辺野古移設が唯一の現実的解決策である⇒辺野古移設は非現実的だという指摘がアメリカ国内にもある。(両紙)
  • 沖縄は地理的に重要な軍事拠点であり、代替が効かない⇒沖縄に基地を集中することはかえって脆弱性を高める。(両紙)・沖縄の海兵隊は本土から移転した部分が多く含まれており、元来から沖縄が重要だったわけではない。(朝日)
  • 新知事に辺野古埋立承認を覆す権限はない⇒前知事は辺野古移設反対を唱えて当選したのであり、埋立承認は民意に基づかない。(両紙)
  • 辺野古移設反対は沖縄の経済振興にマイナスである。⇒結局は金目という姿勢が沖縄県民を侮辱している(両紙)・基地こそが沖縄経済の障害である。振興策は基地問題と切り離して実行せねばならない。(毎日)
  • 辺野古移設の停滞は中国の脅威への対応上マイナスである⇒尖閣諸島の警備は海上保安庁の仕事である。防衛力が必要としても沖縄に海兵隊を常駐させる必要はない。(朝日)
  • 沖縄県は日本政府と対立せず、辺野古移設に向けて対話を持つべきである⇒沖縄と政府の対立をもたらしているのは政府の姿勢である。政府が沖縄の民意を反故にすれば対立はさらに深まる。政府こそアメリカ政府と交渉し代替案を探るべきである。(両紙)

 さらに、以下の部分は推進派が全く触れていない部分です。

  • 辺野古反対は沖縄の民意である。民意を尊重すべきである。(両紙)
  • 沖縄基地問題は、沖縄の自己決定権とアイデンティティーの問題である。(両紙)
  • 沖縄は基地問題で本土と差別されている。(両紙)
  • 沖縄の尊厳を傷つけることは許されない。(毎日)

 辺野古移設の是非を抜きにして、純粋に意見文として評価すると、辺野古再考派の2紙の方が優れていると言えます。推進派の3紙は論拠の立て方が甘い。この問題はもうずいぶんと議論されてきているのですから、再考派の論拠として予想されるものを検証して反論しておくくらいの用意はしておかなきゃいけないでしょう。特に、3紙とも日ごろよく使っている「民意」をまるっきり無視しているのはまずい。産経クンは川内原発再稼働について「再稼働は民意だ」って社説を書いたばっかりなんですけどね。

 まあそもそも3紙とも、紙幅の使い方からしてリキが入ってない。新たな論拠が思いつかなかったんでしょうか。

 

 というわけで、意見文としては、今回は朝日クンと毎日クンの勝ちです。

 

 

 プラスアルファとして、地元紙代表で琉球新報の社説も見てみましょう。こういうことがすぐできるのはネット時代のありがたさです。

◆◆<社説>新知事に翁長氏 辺野古移設阻止を 尊厳回復に歴史的意義 

 新たな基地は造らせないとの民意は揺るがない。県知事選で、そのことがあらためて証明された。

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設反対を掲げた前那覇市長の翁長雄志氏(64)が、政府と共に移設を進める現職の仲井真弘多氏(75)らを破り初当選した。

 約10万票の大差は、県民が「沖縄のことは沖縄が決める」との自己決定権を行使し、辺野古移設拒否を政府に突き付けたことを意味する。

 翁長氏には、政府の強硬姿勢を突き崩して移設問題など基地問題に終止符を打つことに全力で取り組むことを期待したい。

民意尊重は当然

 在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄に新たな米軍基地の強権的な押し付けを認めることは、県民自ら尊厳を否定するに等しい今知事選は1968年の主席公選を勝ち取った住民運動同様に、沖縄の尊厳と誇りを回復できるかも問われた。

 仲井真知事の辺野古移設工事埋め立て承認で、沖縄の尊厳と誇りを傷つけられたと感じた県民は少なくない。保守分裂選挙となったことがそれを物語っている。失われかけた尊厳を県民自らの意志で取り戻した選択は歴史的にも大きな意義を持つ。

 一方、政府は選挙結果にかかわらず、辺野古移設を進めると明言しているが、民主主義国家として許されない。埋め立て承認で地元の了解が得られたと受け止めているようだが、それも間違いだ。

 仲井真知事は前回知事選で県外移設を訴えて当選した。県民は辺野古移設推進にその後転じた仲井真知事を支持したわけではない。つまり地元の大半は了解などしていないのである。

 政府は辺野古移設の是非を最大の争点とした知事選で示された民意を真摯(しんし)に受け止め、辺野古移設を断念すべきだ。それこそが安倍政権の言う「沖縄に寄り添う」ことを具現化することになる。

 米政府も民主主義に立脚すれば、民意の重みを無視できないはずだ。

 ことし1月の名護市長選では移設阻止を掲げた稲嶺進市長が再選された。にもかかわらず、政府は移設工事を強行着手した。新基地建設工事を既成事実化し、県民に無力感を植え付けることを狙ったことは明らかである。

 だが、県民がなえることはなかった。新基地建設反対の意志をさらに強固なものにするきっかけにもなった。多くの県民が基地の県内たらい回し拒否に票を投じたことが何よりの証しだ。

県民支援が必要

 東村高江では住民の反対を無視し、新たな米軍ヘリパッドの建設計画が進められている。翁長氏はオスプレイ配備に反対する立場からヘリパッド建設に反対している。建設断念に追い込んでほしい。県内全41市町村長が署名した「建白書」の求めるオスプレイ配備撤回の実現にも知事として力を注いでもらいたい。

 基地問題の解決はこれからが正念場である。辺野古移設など米軍基地の過重負担を強いる政府の厚い壁を突き破るためには、県民世論の後押しが欠かせない。「建白書」の精神に立ち返り、さらに幅広いオール沖縄で基地問題解決を訴え、翁長氏を支援する態勢の再構築も求められる。

 基地問題以外にも解決しなければならない課題は多い。

 翁長氏はアジア経済戦略構想の策定による自立経済の発展や正規雇用の拡大、4年後までの認可保育所の待機児童ゼロ、子ども医療費の無償化などさまざまな施策を通して県民生活を豊かにすることを打ち出している。

 那覇市長を14年務めた翁長氏の行政手腕、さらには那覇市議と県議で培った政治力、行動力を生かし、公約を実現するよう期待したい。県民は平和と豊かさの実感を望んでいる。県民の負託に応え、沖縄の将来も見据え、リーダーシップを発揮してほしい。◆◆

 

 さすが地元紙、中央紙とは全然問題意識が違います。

 論点の中心は「自己決定権」「沖縄の尊厳」「埋立承認は民意ではない」。そこから、辺野古断念こそが政権の方針に沿っているとしています。「建白書」の存在については、中央5紙はどれも触れていません。

 

 実は私が一番「さすが地元紙」と思ったのは、終わりから2段落目の部分です。

 当たり前の話ですが、沖縄県が抱えている問題は、基地問題と経済問題だけじゃありません。県民には日々の暮らしがあるわけで、新知事はその問題にも対処しないといけない。基地問題でどんなに日米両政府とやりあえても、日常生活面が改善されなければ、それこそ「民意」はついてきてくれません。


 辺野古問題では意見の割れた中央紙ですが、沖縄の人々の生活ということについては、どれも関心はそれほど高くありません。それはすなわち、私も含めた本土の人間にとっての沖縄への関心の反映なのでしょう。

 差別は、する側には差別しているという意識がありません。される側こそが意識できるものです。

 「沖縄差別」とは大げさだとか偏向しているとか戦略的な言い回しだとか思っているうちは、まだまだなんでしょう。


 

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