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ssh738 集団的自衛権の行使事例 [社会]

<2015>

 

 安保関連11法案の国会審議が会期の大幅延長のもと行われています。この間、世論は反対方向に大きく傾斜。天下無敵だった安倍政権の支持率も右肩下がり。地方紙の世論調査ではすでに危険水域と言われる20%台に落ち込んでいます。

 それにしても。集団的自衛権の定義について、政権とそのサポーターからはロクな説明がありません。毎度おんなじ隣家の火事の喩えで「国民の理解」が深まるはずもなし。ご本人がああいう理解しかできてないんですかね。

 

 今回の記事では、改めて集団的自衛権と個別的自衛権と集団安全保障の定義を確認して、実際に集団的自衛権が行使された例を挙げてみることにします。

 

 

 まずはその定義。閣議決定が行われた昨年7月にアップしたssh670「集団的自衛権は要らない」より引用します。ネタ元はiMacの辞書機能の記述。

 

◆◆自衛権は、個別も集団も、国連憲章51条で認められているとされています。

 個別的自衛権は、武力攻撃を受けた国が、必要かつ相当な限度で防衛のため武力に訴える権利。

 集団的自衛権は、ある国が武力攻撃を受けた場合、これと密接な関係にある他国が共同して防衛にあたる権利。

 (ついでに集団安全保障とは、武力行使をしないことを約束した複数の国々(例えば国連加盟国)の中から、約束に反して平和を乱す武力行動を始めた国が出た場合、他国が共同して(武力行使も含めて)その状況を抑えるという仕組みです。)◆◆

 

 

 ssh670にも書きましたが、政府が主張しているケースは、すべて個別的自衛権で対応可能か、もともとあり得ないものです。

 昨年やたらと使われた米軍艦に日本の民間人が乗っているというイラストについては、米艦と自衛隊艦がいっしょに動いているのだから、米艦への攻撃は自衛隊艦への攻撃と同等とみなして個別的自衛権を発動すればいいし、そもそも民間人、特に幼子や母親は真っ先に国外退去させる対象で、米軍が来るまで残っているなんてのは相当マヌケな話です。

 参院でやたらと喧伝される中国の脅威など、まさに個別的自衛権の対象です。中国が日本に侵略や武力行使を行ってきたら、当然個別的自衛権で反撃します。同時に、日本の米軍基地も攻撃を受けたと見なして自衛権を発動します。中国がそういう自殺行為に出る可能性は、まあ限りなくゼロに近いでしょう。ホルムズ海峡の機雷云々にしても、政府が心配するようなケースに至ることはまず考えられません。川内原発が桜島の噴火でトラブる可能性の方が1000倍以上高いでしょう。

 

 

 それでは、第二次大戦以降、集団的自衛権として武力行使された事例を挙げてみましょう。

 国の武力行使が集団的自衛権の行使として、つまり国連憲章に違反しないと認められるかどうかはかなり微妙なケースが多いのですが、ここでは日刊ゲンダイで挙げられた、元参議院議員平野貞夫が衆院調査局の報告書を参考に作成したリストを使います。平野が挙げているのは全部で14(Wikipediaはずっと少なく5件のみ)。ネタ元はこの国会図書館の文書のようです。


 

 

  • ハンガリー動乱におけるソ連によるハンガリー政府支援(1956)・・・第2次大戦後ソ連陣営であるワルシャワ条約機構の一員であったハンガリー人民共和国(当時)で発生した民衆の蜂起に対し、ソ連が派兵。ソ連はハンガリー側の要請による集団的自衛権の行使と主張したが、国連はソ連軍撤退要求の決議を採択。要は民主化に対する弾圧。
  • アメリカによるレバノン政府に対する支援(1958)・・・政情不安となったレバノンに国連安保理がレバノン監視団を送ることを決定。しかし状況がさらに悪化、アメリカは安保理決議の否決にも関わらずレバノンに直接武力介入を行った。
  • イギリスによるヨルダンに対する支援(1958)・・・上記の件との協調行為でヨルダンにイギリスが武力介入した。米英ともレバノン・ヨルダンからの要請による集団的自衛権行使と主張したが国連総会で却下。この2件は冷戦や中東での利権を求めての武力行使と評価されている。
  • イギリスによる南アラビア連邦に対する支援(1962)・・・独立機運の高まる中東において、イギリス統治下にあった港湾都市アデンを中心としたアラビア半島南部にイギリスが「南アラビア連邦」を設立し、これに対して反英闘争が激化。イギリスは南アラビア連邦からの要請による集団的自衛権行使と主張して軍隊を派遣したが、国連は避難決議を行い、イギリスは撤退。旧植民地利権のための武力行使。
  • アメリカによる南ベトナムに対する支援(1964)・・・ご存知ベトナム戦争。アメリカが名目としてはトンキン湾事件に対する自衛権行使と南ベトナム政府(当時)からの要請による集団的自衛権行使として、第二次大戦を超える武力を投入。オーストラリア・ニュージーランド・タイ・フィリピン・韓国も派兵している。後にトンキン湾事件は柳条湖事件と同じく自作自演であったこと、ベトナムの共産圏化を阻止するためのものであることが暴露されている。冷戦の代理戦争の中でも最悪のもの。
  • ソ連によるチェコスロバキア政府に対する支援(1968)・・・「プラハの春」に対するソ連の軍事介入。「人間の顔をした社会主義」を標榜するチェコスロバキア政府に対し、ソ連軍を中心とするワルシャワ条約機構軍が侵攻。ソ連はチェコスロバキア側の要請による集団的自衛権行使と主張しようとしたが、国連で軍事介入の非難決議がなされ、民主化への弾圧という評価がなされている。
  • キューバによるアンゴラ解放人民運動に対する支援(1975)・・・ポルトガルの植民地だったアンゴラで二次大戦後に独立を求めた内戦が勃発。これが冷戦の代理戦争となり、キューバとソ連が支援するアンゴラ解放人民運動・南アフリカとアメリカが支援するアンゴラ全面独立民族同盟・ザイールとフランスが支援するアンゴラ国民解放戦線の大規模な内戦となった。キューバは集団的自衛権行使という名目で直接武力介入している。冷戦の一部。
  • フランスによるチャド政府に対する支援(1976~)・・・元フランス領チャド(1958年独立)で大統領の専制に対し1965年に反政府ゲリラ戦が勃発。75年には軍事クーデターにより暫定政府が発足するも、80年から内戦状態となる。この間、リビア・ザイール・フランスが派兵し、アメリカが武器供与。83年にチャドの求めで開かれた安保理で、フランスはこの武力介入をチャドとの協力協定の規定に基づく合法的な集団的自衛権の発動と主張した。内乱の一貫。
  • ソ連によるアフガニスタン政府に対する支援(アフガン侵攻)(1979)・・・1978年アフガニスタンで軍事クーデターが勃発、軍事政権はソ連と友好関係を結ぶ。しかしそれに反抗する勢力による抵抗が起き、79年ソ連軍がアフガニスタンを侵攻し国内を制圧。安保理ではソ連・アフガニスタンともにこの侵攻を合法的な集団的自衛権行使であると主張。これを遺憾とする決議はソ連の拒否権により否決された。冷戦と内乱によるもの。なおこの時、反政府勢力にアメリカから武器供与が行われ、その武器が後にタリバンの手で反米運動に活用される皮肉な巡り合わせとなる。
  • アメリカによるホンジュラス政府に対する支援(1981)・・・ホンジュラスの隣国ニカラグアで親米のソモサ独裁政権が倒れ新たな反米政権が発足。これを警戒したアメリががホンジュラスに軍事基地を建設し軍事力を強化し緊張が高まった。安保理でアメリカとホンジュラスは合法的な集団的自衛権行使と主張。冷戦の一部。
  • 米英などによるペルシャ湾地域への兵力展開(湾岸戦争)(1990)・・・1990年、イラクがクウェートに侵攻。安保理は直ちにイラクへの非難決議を行い、従わないイラクに対し4日後にクウェートの個別的および集団的自衛権の確認を決議。これに基づきアメリカ・イギリスが派兵。例示の中では珍しい、国連決議に基づく事態収拾のための派兵で、集団安全保障に近い。
  • ロシアによるタジキスタン政府に対する支援(1991)・・・1991年ソ連崩壊により独立したタジキスタンで内戦が激化、イスラム勢力・民主勢力がアフガニスタンに逃れ、これらが戦闘集団を形成しタジキスタン政府軍と駐留ロシア軍を攻撃。ロシアはタジキスタン政府の要請による集団激自衛権行使として軍事支援を行った。内乱の一貫。
  • ジンバブエ・アンゴラ・ナミビアによるコンゴ民主共和国に対する支援(1997)・・・ウガンダからの軍事支援を受けたザイールの反政府勢力が1997年に政権打倒に成功し国名をコンゴ民主共和国と改名。しかし翌年以降ウガンダの反政府勢力からの侵攻を受け、ジンバブエ・アンゴラ・ナミビアがコンゴ政府からの要求に基づき集団的自衛権を行使し派兵することを声明した。内乱の一貫。
  • 英・仏・豪などによるアメリカに対する支援(アフガン戦争)(2001)・・・いわゆる9.11テロがアフガニスタンのタリバン政権に支援されたアルカイダによるものとして、アメリカ・イギリス・フランス・カナダ・ドイツ・オランダ・オーストラリアがアフガニスタンに派兵。アメリカが個別的自衛権行使、他国が集団的自衛権を行使したことになる。これも珍しく国連決議に基づく事態収拾のための武力行使で、集団安全保障に近い

 

 いかがでしょうか。 

 派兵した国は「集団的自衛権の行使」と主張はするけれど、それが認められるケースは実に稀です。

 というか、誰がどう見ても利権や勢力のための武力闘争ばっかり。自衛権という名前であっても、「自衛」っぽい武力行使はごく少数です。特にベトナム戦争やアフガン侵攻なんか、どう見たって平和維持のための自衛じゃないっすよね。


 リストを見て気付くことがもう一つ。

 集団的自衛権の行使ってのは、ほとんどが大国が小国のトラブルに対して行うものばかりです。唯一の例外がアフガン戦争、これはアメリカをイギリスその他のアメリカより小さな国がバックアップしています。

 こういう「最もよくある」集団的自衛権の行使は、日本にとってはほとんど考えられないものです。日本よりも軍事的に弱い国で、この国がトラブったら日本がヤバい、という国はまず思いつきません。

 

 日本が集団的自衛権を発動すべき相手として思い当たるのは、アメリカくらいのものでしょう。

 過去のケースからすれば、日本が集団的自衛権行使するのは、アフガン戦争のようなケースくらいしか考えられません。つまり、アメリカの戦争に日本が付き合うこと。

 安保法案反対派の主張の中に「アメリカの戦争に加担する」というのがありますが、確かに過去のケースを見る限り、その可能性が最も高く、それ以外の可能性はまず考えられません。反対派もただ感情的に叫んでいるじゃないんですね。


 

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