ssh1057 社説の読み方〜ユネスコ世界の記憶編 [社説の読み方]
ユネスコ(国連教育科学文化機関)の「世界の記憶」(旧・記憶遺産)に、群馬県の古代石碑群「上野三碑(こうずけさんぴ)」と、江戸時代に朝鮮王朝から日本に派遣された外交使節団「朝鮮通信使」に関する記録が選ばれた。
「世界の記憶」は、歴史的な資料を後世に引き継ぐ趣旨で、2年に1度、各国や民間が申請した資料をもとにユネスコが審査する。日本からは前回までに5件が登録された。次代に残す貴重な記録が、新たに加わったことを歓迎したい。
とくに注目すべきは、日韓の団体の共同申請で初めて認められた朝鮮通信使である。
朝鮮通信使は、豊臣秀吉の朝鮮出兵で断絶した両国の国交を回復するため、朝鮮国王が派遣した使節団だ。1607年にはじまり、約200年で12回を数えた。最大で500人規模の一行は対馬や瀬戸内海、陸路をへて江戸へ入り、朝鮮国王の親書にあたる「国書」を届けた。
今回登録された記録物は330点を超す。外交文書や日記のほか、朝鮮の文人や画師が日本の風景などを題材に筆をふるった漢詩や絵画など。寄港地や沿道で、日本人が行列のもようを描いた絵画も含まれる。
共同申請は韓国の釜山文化財団が5年前、NPO法人・朝鮮通信使縁地連絡協議会(長崎県対馬市)に提案して実現した。協議会にはゆかりの地の自治体や民間団体が加わっている。
だが朝鮮通信使には当初、秀吉の朝鮮出兵で日本に連行された捕虜を連れ戻す目的もあり、韓国では名称が異なる。申請時にどちらの名に合わせるかや、どの記録を対象にするかをめぐり双方で意見の違いもあった。
話しあいを重ねて昨年、4年がかりで共同申請に至った。作業を通して関係者の交流が深まったことも意義深い。
双方が心がけたのが、朝鮮通信使に随行した儒学者の雨森芳洲(あめのもりほうしゅう)が説いた「誠信の交わり」という。芳洲は対馬藩主に宛てた外交指針書「交隣提醒(こうりんていせい)」で、「互いに欺かず、争わず、真実をもって交わる」と説いた。相手を尊重し、対等な立場で接するという先人の教えは、いまの外交や交流にも通用する。
同時に登録が決まった「上野三碑」は飛鳥~奈良時代前期に立てられた。石碑の碑文からは、地元の豪族と朝鮮半島にルーツをもつ渡来系の人々が共存していたことがうかがえる。
朝鮮半島とは、古くから海を越えた交流があった。戦争や侵略の歴史を含め、互いに行き来し、重ねた歴史の記憶を刻み、未来の交流にいかしたい。(2017.11.1.)◆◆
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に、群馬県の古代石碑群「上野(こうずけ)三碑(さんぴ)」と江戸時代の外交資料「朝鮮通信使に関する記録」が登録された。
上野三碑には、漢字や仏教を日本にもたらした渡来人の足跡が刻まれている。朝鮮通信使の記録と共に、日本と大陸文化の交流を物語る貴重な資料だ。登録を歓迎したい。
記憶遺産は、歴史的な資料をきちんと保存し、後世に伝えようという事業だ。国だけでなく、民間が申請することもできる。今回は、慰安婦問題に関する資料も審査されたが登録見送りとなった。
通信使の記録は、日本と韓国の民間団体が共同申請した。5年前に準備を始め、慰安婦問題などで両国関係が悪化する中でも協力を進めた。対等な立場で共通の目標を追求したことは日韓協力のモデルケースになりうる。
江戸時代の通信使は、豊臣秀吉の朝鮮出兵で断絶した日本と朝鮮の国交回復を図るために始まった。
当初は日本に連行された捕虜を朝鮮に連れ戻す使節とされたが、後には将軍の代替わりなどの際に派遣されるようになった。幕末までに計12回を数えた。
登録された300点超の記録物には、通信使が各地で残した漢詩や日本の文人と筆談で交わした会話などが含まれる。江戸時代の日本人にとっては外国文化に直接触れる貴重な機会だった。
歴史を顧みるのは、未来を考えるかがみとするためだ。朝鮮出兵で失われた信頼関係を再び構築した通信使の営みに学ぶべき点は多い。
対朝鮮外交の窓口である対馬藩に仕え、通信使をもてなした儒学者の雨(あめの)森芳(もりほう)洲(しゅう)は「誠信の交わり」を旨とした。「互いに欺かず、争わず、真実をもって交わる」というものだ。
芳洲は一方で、善意だけでは浮ついた理想論にしかならないとも説いた。相手のことをよく知ったうえで誠意ある対応を取ることが、円滑な関係につながるのだ。
現代においても外交の基本は変わらない。歴史や習俗、考え方の違いを踏まえつつ、相手を尊重する姿勢が双方に求められる。特に、摩擦が生じやすい隣国との関係においては重要な点だろう。(2017.11.4)◆◆
朝日クン毎日クンともに朝鮮通信使にフォーカスしています。秀吉の半島侵略で悪化した日韓関係の修復に貢献した通信使の役割だけでなく、共同申請にあたっての努力についても触れています。特に朝日クンは共同申請にこぎつけるまでの苦労をかなり細かく述べています。
両紙の主張は大変に明確。これを期に外交とくに日韓関係を改善していくべしと。
ただし両紙には大きな違いが。朝日クンは発表直後の11月1日にいち早く社説展開しています。報道にとって内容もさることながら「いつ」発表するかは重要事項。ここは朝日クンに軍配が上がります。
一方の読売クンと産経クンはずいぶんと不機嫌そうなトーンです。
◆◆世界の記憶 「慰安婦」の政治利用を止めよ(読売)
国際機関の活動が反日宣伝に一方的に利用される。そんな事態は今後とも許してはならない。
国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)は、日中韓などの市民団体が「世界の記憶」(世界記憶遺産)に申請していた「慰安婦問題の関連資料」の登録見送りを決めた。
政府は、申請は政治的案件であるとして、慎重を期すようユネスコに求めてきた。こうした外交努力が奏功したもので、菅官房長官が「適切な対応だ」とユネスコを評価したのは当然だろう。
2015年には、中国の申請した「南京大虐殺の文書」が登録された。南京事件の犠牲者を「30万人以上」とした史料も含まれる。実証的研究からは過大とされる数字であり、記憶遺産の価値や公平性に疑問符がついた。
国際諮問委員会による審査の過程は非公開である。委員も公文書館の専門家が中心だ。申請資料の信頼性を、別の資料と比較して精査するような姿勢も能力も欠いている、と指摘される。
慰安婦資料には、元慰安婦の証言録や、回想に基づく絵画など、事実確認や検証が十分でないものが少なくない。仮に登録されれば、慰安婦を旧日本軍が性奴隷として組織的に強制連行したかのような曲解が広がる恐れがあった。
ユネスコは先月、ようやく登録制度を改善した。今後、当事者間で見解が異なる案件は、話し合いがまとまるまで審査を保留する。慰安婦資料の登録見送りも、その制度改正を踏まえたのだろう。
米国が先月、政治的偏向や組織改革の停滞を理由に脱退を表明するなど、ユネスコのあり方には各方面から多くの批判がある。
ボコバ事務局長は今月、任期満了で退任する。後任のアズレ前仏文化相の下、公明・公正な制度改革を進めることを期待したい。
看過できないのは、韓国政府が慰安婦資料の登録を支援していることだ。慰安婦問題の解決を確認し、「国連等での非難・批判は控える」とした15年の日韓合意の趣旨に明らかに反している。
民間団体による少女像の設置を「黙認」する段階から一歩踏み出した「意図的」な背信行為だ。
日本関係では今回、群馬県の古代石碑群「上野三碑」、日韓の民間団体が申請した「朝鮮通信使に関する記録」が登録された。
いずれも日本と大陸の歴史的な交流を示す資料で、重要な文書などを保護、活用する本来の目的にふさわしい内容だ。貴重な文化遺産として未来に伝えたい。(2017.11.3.)◆◆
◆◆ユネスコと日本 国益守る主張ためらうな(産経)
国連教育科学文化機関(ユネスコ)は「世界の記憶」(世界記憶遺産)に申請された慰安婦資料の登録を見送った。
資料とは、日中韓を含む8カ国・地域の民間団体などが申請した「日本軍『慰安婦』の声」だ。元慰安婦の証言などが含まれるが、客観的に検証された資料ではない。
日本が官民で審査制度改善を働き掛けた成果である。引き続き、反日宣伝は許さないという断固たる主張を続けるべきだ。
登録申請書では、犠牲者の苦しみや屈辱は「大虐殺に匹敵する戦中の惨劇」などと記されたというが、日本を一方的に非難する際に中国などで使われる常套(じょうとう)句だ。
重要な歴史文書や映像フィルムなどを保存、後世に伝えるというのが制度の趣旨である。日本をおとしめる虚説が「記憶」に刻まれてはたまらない。不登録は当然としても、こうした反日宣伝が横行する事態は、政府の無策が招いたともいえる。
一昨年は中国側が申請した「南京大虐殺文書」が登録され、撤回されないままになっている。
ユネスコは日本の主張を踏まえ2019年の審査から歴史的、政治的対立のある案件で関係者の意見を聞き、対立解消まで保留にする制度を導入する。
一定の改善とはいえるが、今回のケースでも、申請資料の詳しい内容などが分からず対応は後手に回っていた。
申請には元慰安婦を「性奴隷制の被害者」とする日本の複数の団体も参加しているという。あきれたことだが、国際機関で内外の団体が政治的主張を通そうとする動きは当たり前に行われている。
日本の名誉を守るため、政府が事実に基づく明確な発信を行うことが欠かせない。反発を恐れ、腰を引いてきた担当者らの責任は重大である。
慰安婦問題では国連のクマラスワミ報告など事実無根のことに反論しなかったことが、誤解や曲解を世界に広めてきた。
ユネスコの政治的偏向などを理由に米国が脱退を表明し、日本の役割は増している。公正で透明な運営を厳しく迫るべきだ。
国益を踏まえ、堂々と主張できる人材の育成も急務だ。国際機関への短期出向で、波風を立たせず過ごせる人物を送り出していたのでは、利害が激しくぶつかる場で物など言えまい。◆◆
朝日・毎日の二紙は他国への配慮と自国への批判が強すぎずバランスのいい書き方をしていると思います。
また未来志向が見えます。
現物を読んでいますが、使節より読売は慰安婦の件の申請そのものを批判する文です。
気になるのが批判の表現です。
別記事に「固有名詞」にしてしまった問題というのがあります。
仮に使節でなく慰安婦で批判的に書く場合こそ朝日・毎日のように配慮が求められると思えます。原爆記事ではアメリカに配慮できるのだから出来る能力はあるでしょう。
以上の理由からこの件では朝日・毎日がよいと思います。
産経は門前払いにしました。
by ayu15 (2017-11-05 22:57)
あゆさんお久しぶりです。
今回の社説比較は、どこにフォーカスするかで勝敗が決まった感じです。
朝日が11/1に社説展開できたのは、あらかじめ予定稿を用意していたからでしょう。デカい会社だから複数の予定稿を用意しておいたのかも知れませんが、このネタで用意しておいたのであればいい目の付け所をしてると思います。
by shira (2017-11-07 21:50)