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ssh1072 パークスとスイッツァーとバニラエア(1)〜高校生のビミョーな反応 [三題噺]

<2018>


 1つのツイートが原因で長いブログ記事を書くことになってしまいました。

 原因というのはこのツイート。

 このツイートはどういうわけか4ケタのリツイートといいねをいただきました。こういうのを「バズる」と言うんですかね。私はスマートフォン持ってませんのでバズるって感覚よくわかりませんが、まあたくさんの方に共有されること自体は悪い気はしません。けっこう著名な方にもリツイートされましてそれは嬉しかったです。もちろん多くの人の目に留まれば妙な反応が出てくるものですが、まあ予想の範囲内でした。

 予想の範囲外だったのは、とある著名な方からダイレクトメッセージをもらってしまったことです。直接お話を伺いたいと言われてしまいまして。

 メッセージには自分なりに頑張って返信しました。けど十分に伝えられたかどうか。このまま放って置くのはイヤだな、これはきちんとブログ記事にまとめないといかんな、と思いまして。


 本県の高校では高1で担任を持った教員がそのまま高3まで担任を継続するのが通例です。くだんの高校生たちは私の担任する学年で現在高3。私は高1からずっと英語の授業を担当しています。

 彼ら彼女らの反応に初めて「ん?」と思ったのは高1の1学期。コミュニケーション英語Iのテキスト(Pro-Vision)にキャスリン・スイッツァー(Kathrine Switzer)の話が出てきたときのことです。



 スイッツァーは1967年、当時男子しか出場の認められていなかったボストン・マラソンに出場し、途中で主催者が捕まえて排除しようとしたところ同走していた男性が彼女を守って完走。女子マラソンの扉を開いた偉大なランナーとして評価されています。

 と書くと「へえ昔はそんな感じだったんだ」てなもんですが、Pro-Visionのテキストは手加減ないというかけっこうエグい文章になってます。

 まずスイッツァーは出場申請に当たって「K.V.Switzer」という名前を使っていることが書かれています。これはKathrineと書くと女性であることがバレてしまうからでしょう。教科書にはパーカーのフードをすっぽりかぶっている彼女の写真も載っています。スタート前に排除されるのを防ぐためでしょう。

 そして、これが一番有名なエピソードなんですが、レース中に彼女が女性であることが明らかになり、役員の1人(教科書では名前も入っている)が彼女の腕を掴んでゼッケン返せと力ずくで排除しようとします。彼女はBoyfriendとコーチ(もちろん男性)の3人で走ってましたが、このボーイフレンドが役員に体当たりを一発食らわせてふっ飛ばしてます。教科書にははっきり「吹っ飛んだ」と書かれています。そのときの有名な写真もバッチリ載ってます。


 このくだりを授業で読んでいる時、教室に得も言われぬビミョーな空気が漂ったのですね。


 私は生徒たちのビミョーな受け止めの理由がすぐにわかりました。

 「君たち、いくらなんでもそこまでしていいのかなと思ってるんじゃないの?」

 図星でした。


 なぜ私がすぐにピンと来たのかというと、1990年代後半あたりから高校生が尾崎豊を拒絶し始めたからです。

 尾崎は1980年代のティーンエージャーにとって最高のアーティストでした。個人と社会の衝突という普遍的なテーマに真っ向からぶつかり、自らの傷から滴る血のような言葉と音を絞り出す尾崎は、同じ苦しみを持つ若者を大いに励ましました。80年代に担当した生徒には尾崎のファンがたくさんいました。

 その尾崎の作品が1990年代後半あたりから高校生にあまり受け入れられなくなりました。当時これはちょっとした事件で、音楽評論家や教育関係者やその他が分析を試みていましたが、スカッと明解なものはあまりなかったように思います。

 私の肌感覚としては、社会と個人の葛藤で苦しむことは相変わらずあるのだけれど、それを先生やら親やら眼の前の大人にぶつけてもどーにもならんという諦めみたいなもんがあったように思えました。反抗したところで状況は変わらないし自分は処罰を受けるし意味ねーじゃんみたいな感じで。

 実際には生徒の多くがフラストレーションを感じるような状況を放っておいた結果として生徒がトラブルを起こした場合、マトモな学校ならフラストレーションを減らすように自分たちのそれまでを反省して新たな取組を起こすのですけど(そういうことは何度か経験してます)、まあそれでもトラブルを起こした生徒を無罪放免にするわけにはいきません。


 尾崎への拒否反応が起き始めてもう20年も経ってます。今の高校生が「ルール違反」に過敏であっても不思議はありません。

 で、スイッツァーの件にビミョーな反応をした高校生たちが2年後にマーティン・ルーサー・キングJrのお話を読むことになるわけです。(続く)



コメント(2) 

コメント 2

DHIOP

このレベルの人物が高校教師をやってることにびっくりしました。
もうちょっと自分を抑えて客観的に物事を見られるようになってから教職につくべきですね。
by DHIOP (2018-11-18 05:45) 

shira

>tyuuriさん、niceありがとうございます。
>DHIOPさん、ご訪問ありがとうございます。
 びっくりしていただけるとは光栄です。あと4本も熟読していただきさらにびっくりしていただけると幸いです。
by shira (2018-11-18 22:27) 

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