ssh230 予定調和 〜 小論キーワード(9) [小論キーワード]
<2008>
予定調和。
使われ始めたのはそんなに最近ではありません。私の学生時代、つまり四半世紀前にはすでに評論で使われていました。
私が最初に予定調和という言葉に出会ったのは、音楽評論のジャンルでした。
某地方都市で貧乏学生の身であった私は、文学部の学生のクセに本もロクに読まず映画もロクに見ず、なけなしのゼニはあらかたレコード(当時CDはまだ普及してなかった)に費やしておりました。で、毎日4~5時間は音楽聴いて過ごしていました。もちろんロクに勉強もせず。
そういう偏った生活をしていたため、音楽評論にはけっこう敏感でした。そこで初めて、予定調和なる言葉を目にしました。
さてさて、小論キーワードとしての「予定調和」。
フツーの国語事典には載ってないんでネットで調べてみましたところ、意外や、もとは哲学用語。
「はてな」にこんな記事があります。(注:リンク有効)
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CD%BD%C4%EA%C4%B4%CF%C2
ちょっと前半は理解がつらいけど、ご心配には及びません。チェックすべきは、以下の部分だけ。
◆◆これが転じて、小説やドラマなどの物語世界において決まった結末が定められ、物語がその結末へ向けて収束する事を予定調和と呼ぶようになったようだ。
ミステリー小説においてはどのような形であれ事件は解決し、恋愛小説においては何らかの恋愛が成就する……というように多くの物語では一定の結末を迎える事が約束されており、何らかの予想可能な結末を迎える事になる。そのような意味から考えれば、物語は広い意味での予定調和の上に成り立っていると言えるだろう。
ただし一般的には、時代劇において悪代官や腹黒商人が、民衆の味方である先の天下の副将軍や退屈な旗本によって懲らしめられるといった予め結末はわかっている物語において、その予定通りの結末が描かれる事を予定調和と呼ぶ事が多い。
またゲームなどにおいては、どんな行動をとったかに関わらず一定の結末へ向かうようなベクトルが定められているものを揶揄する表現として使われる場合もある。◆◆
予定調和という言葉が現在もっともよく使われるのは、最後の2つの段落の部分です。
展開がミエミエ。お決まりのパターン。ヒネリがない。話が出来過ぎ。 — など。
要するに、ストーリーの展開に意外さや面白さがないんですね、先が読めちゃって。
あまりに結末までのプロセスが予定され過ぎている。
そういうものに対しての批判として、予定調和という語が多用されます。
従って「予定調和」という言葉は、主に批判用語と考えて差し支えありません。
物語が予定調和でつまらんというのは割とわかりやすい使い方だと思いますが、予定調和という批判、それ以外の分野でもけっこう出てきます。
この記事を書いている現在、国会が行われているんですが、審議がなれ合いで真剣味に欠ける時なんか、「予定調和の審議」と批判されます。
小論文でも、あまりに優等生的で型にはまった文章を書くと「予定調和の答案」と言われます。
冒頭の渋谷陽一の音楽評論では、産業と化したロックが予定調和的な曲やコンサートしか提供できなくなっているという批判でした。つまりお定まりのパターンから一歩も外へでないことへの批判です。
なぜ予定調和が批判されるかというと、一番の理由は、面白くないからです。これは当然。
でも、他にも理由はあります。
最初っから結末・結論・落としどころがミエミエの展開からは旧知のモノしか出てきません。新しいモノ・新たな工夫・新たな提案が生まれる可能性はひどくいです。
新しい感覚を与えてくれない映画や音楽、
新しい発見のない論文、
新たなものを開拓しようとしない姿勢。
そこには、向上心や前向きな精神はまったくありません。
学校のセンセイ風にいえば、やる気がない。
予定調和が批判される最大の理由は、姿勢が後ろ向きだからです。
<以下オマケ>
ただし、予定調和必ずしも悪ならずです。偉大なるマンネリ、という言い方があります。
ある種のドラマは、予定調和がミエミエでなければ楽しめないです。
実はその昔、『水戸黄門』が予定調和をあえて崩してみたことがありました。
悪者を倒すシーンも、印籠を出すシーンもなし。ご老公、しみじみと旅先の家族にアドバイスなどして去って行きました。
このエピソードは子ども心に覚えてます。私はたまにはこーゆーのも面白いなと思ったんですが、TBSはこのあと相当大変だったそうです。もう、抗議がガンガン。で、もう2度と冒険はしないことにしたそうです。
という話は、後に新聞記事で知ったんですが。
ドラマ・ミュージカル・映画その他でも、ストーリーが予定調和ミエミエであっても、それでただちに批判されるわけではありません。でも、ここから先は創作論になるんで、省略。
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