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ssh324 1Q84と読売日本とトヨタ主義人民共和国(2) [三題噺]

<2010>

 

 同じ時間空間を共有しているようでいて、実はお互い違う世界に住んでいる。というオバQ84じゃなくて『1Q84 』的世界を、村上春樹よりはるか前に私に提示してくれたのがえのきどいちろう氏でした。

 10年ばかり前のことです。当時私は自動車雑誌『NAVI』を定期購読していました。(NAVI』、先日休刊になったんですね。淋しいことです。)そこにえのきど氏がエッセイを連載していました。自動車雑誌なのに自動車とあまり関係ない話ばっかりでしたが、面白くて毎回欠かさず読んでました。

 

 で、ある月のエッセイの題名が「読売日本」。

 話のきっかけは読売日本交響楽団の名前を見て、はて、この読売日本ってどういう意味かいな?と思ったと。もちろんこれ、読売新聞と日本テレビのオーケストラのことなんですが、このエッセイはそこから一気に1Q84的世界に突入します。

 読売日本という国が本当にある、というお話に。

 

 えのきど氏は北海道日本ハムファイターズの熱烈なファンです。正確にはファイターズが東京を本拠地にしていたころからのファン。

 北海道に移る以前、ファイターズは東京読売巨人軍つまりジャイアンツと本拠地球場を共用していました。昔のパ・リーグはホントに人気なくて、観客も少なけりゃTV放映も全然ない。

 ファイターズのロッカールームはジャイアンツのそれの奥にあったそうです。しかしまー、いやらしいことしますな。

 

 今でこそジャイアンツ人気はずいぶん下火になりましたが、かつては「野球は巨人」というのがほとんど社会常識でした。何せ、TVでは優勝争いと全く関係のない巨人戦だけが中継されていたんですから。他チームの優勝が決まっていても、巨人の消化試合が中継された。今じゃ信じられませんよね。

 だから、巨人以外のチームのファンであるというのは、奇妙なことと理解されていました。


 

 かくいう私は近鉄バファローズのファンでした(過去形なのは、チームが消滅してしまったから)。で、当時それを人に言うと必ず、「なんで近鉄ファンなの?」と聞かれるのでした。巨人ファンに「なんで巨人ファンなの?」とは誰も聞かないんですが。

 巨人ファンおよび野球に無頓着な人たちに何の悪気もなくても、私はそこはかとなくアウトサイダー気分。

 

 さて、えのきど氏。「読売日本」という言葉を見ているうちに、読売日本という日本国が本当にあるのではないかと思い始めます。そして、自分のようなファイターズファンは読売日本国の国民ではないのだろうと考えます。

 

◆◆◆例えば今年のセ・リーグは巨人と中日の優勝争いが白熱しているけれど、こういう言い方は僕のような非読売日本国民の発想であって、読売日本では「巨人が優勝するか・しないか」が白熱しているのである。◆◆◆

 

 そうか、国が違うのか。

 読売日本では、プロ野球というのは12球団のリーグ戦ではないんですね。読売日本にはチームは2種類しかない。巨人と、巨人じゃないチームの2種類。

 巨人-中日戦の中継があったとして、試合結果に「中日の勝ち」はない。あるのは「巨人の勝ち」と「巨人の負け」だけ。

 と、みんながみんなそこまで思っているわけじゃないでしょうけど(読売日本にも愛国心に満ち溢れる国民とそうでない国民がいるでしょうから)、まあ感覚的にはそんな風。

 

 読売日本国からすると、パ・リーグのファンというのは本当にアウトサイダーというか、ズバリ外国人なわけです。幸い使用言語は同じ日本語だからコミュニケーション上のトラブルはないけど、いかんせん文化が違う。

 読売日本人=フツーの日本人が何の悪気もなく私に「なんで近鉄ファンなの?」と聞いてきた理由も、こうなるとすごくよく理解できます。あれは日本人が外国人に向かって「納豆食べられる?」と聞くのと同じ、異文化理解のための質問だったのですな。

 う~ん、そういうことなら不機嫌な顔なんかしないで、丁寧に説明してあげるべきだったな。せっかく外つ国の異文化を理解しようとしてくれていたんだから。

 

 

 同じ時空間に生きているようでいて、その実、精神的には住んでいる世界が違う。

 まあプロ野球くらいなら目くじら立てなくてもいいでしょうけど、これがもうちょっと大げさな話になってくると、異文化理解とか軽いことを言ってもいられなくなってきます。

 

 ここから、『NAVI』つながりでクルマ界の(私にとっての)異国にトリップします。

 その国の名前は、トヨタ主義人民共和国


 

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