SSブログ

ssh387 尖閣問題の語り方〜実戦トレーニングssh386攻略法 [小論実戦トレーニング]

<2010>

 

 ssh始まって以来(?)の大ネタと言える、ssh386の実戦トレーニング今回はその攻略法を。

 まず最初にお断りを。

 小論文は、正解のない問いに対して、論拠をもって自分の意見を述べる事です。

 尖閣諸島でのトラブルを小論文の実戦トレーニングとして取り上げたのは、とりもなおさず、この問題に対する唯一の正解はないということです。

 

<ネットより図書館、Wikiより百科事典>

 実は今回の実戦トレーニングは、ちょっと毛色が違います。というのは、「調べる」ことをしつこく要求しているからです。

 当たり前ですが、小論文入試であれば、問題を見てから「調べる」ことなんかできません。

 今回「調べる」ようにリクエストした一番の理由は、現在が推薦入試準備のシーズンだからです。推薦の場合、志望理由書やレポートで下調べが要求される課題が出されることがよくあります。その辺を意識しての出題です。

 

 さて、こういう面倒な問題の場合、まず知識がないとどうにもなりません。知らない事は調べるしかありません。

 となると、すぐにインターネットで「尖閣諸島」云々と入れて検索することでしょう。

 インターネットは確かに偉大な発明です。Wikipediaも非常に役に立ちます。

 しかし、世の中に万能というものはありません。

 実際、大学の先生方はちょくちょくグチをこぼします。昨今の学生はネット情報を安直にコピペしてくると。ひどい時は、全員が同じ間違い情報をコピペしてくると。

 ネットは、よくも悪くも敷居の低いメディアです。大量の情報が出入りするというメリットと引き換えに、ゴミのような情報もいっぱい流れています。シロウトにはそのへんの区別ができない危険があります。

 実際、Wikipediaの「尖閣諸島問題」と「尖閣諸島中国漁船衝突問題」のページには、大量の但し書き・注意が冒頭に記されています。こういう時のWikipediaはまず使い物になりません。

 今回のような大ネタの場合、調べものにはネットよりも図書館が役立ちます。

 図書館へ行って、百科事典で「尖閣諸島」を調べてみて下さい。そこには事実が淡々と、しかし大量に記されているはずです。

 百科事典は、非常に手間隙をかけて編集されています。校閲も丁寧にされています。情報の良し悪しを判断する眼力に自信がない人にとって、百科事典はネットよりはるかに強力な味方です。

 


 

<事実を意見を峻別せよ、とは>
 現在の学習指導要領、いわゆる「ゆとり教育」では、小学校の国語で「事実と意見を分けて書くこと」が必須の教育内容となっています。これはHIROMIさんのご指摘の通りです(注:コメント消失)。

 ここでいう「意見」というのは、書き手の判断や価値観が反映されたものという意味であって、一般的に言われている「意見」とはちょっと違います。例をあげると、

 

・「○○大学は創立100年を超える歴史ある大学だ。」・・・書き手の判断が含まれていないので、これは事実だけを記した文。

・「○○大学は創立100年を超える名門大学だ。」・・・「名門」というのは書き手の判断なので、これは書き手の意見を含む文。

・「中国漁船が日本の巡視船と衝突した。」・・・事実だけを記した文。

・「中国漁船が不当に領海に侵入した。」・・・「不当」という書き手の意見を含んだ文。

・「女子アナ大集合!」・・・一応、事実だけの文。

・「美人女子アナ大集合!」・・・「美人」は書き手の判断だから意見。

 事実と意見の峻別という場合のカギは形容詞・形容動詞などの用言と、連体詞・副詞などの修飾語です。なぜなら、人間はこれらの言葉を選ぶとき自分の価値観を反映しやすいからです。

 特に気をつけねばならないのは、事実だけを記すべきときに、不要な意見を混ぜてしまうことです。

 

 小論文では、自分自身の主張としての意見は、せいぜい1つしかできません。

 もしあなたが「今回の中国の不当行為は・・・」と書いた場合、すでにそこに「意見」が入っていますから、述べられることは一気に限られてきます。中国側の不当性を、通り一遍に批判したら字数はおしまいでしょう。通り一遍の答案は低評価です。


<オトナは事実と意見が峻別できない、だから話が伝わりにくい>
 ところが困ったことに、世のオトナたちは、事実と意見を峻別するということに非常に無頓着です。特に事実だけの文を作るのがヘタクソ。

 聞き手・読み手の側としては、まず前提となる事実を知りたいものなのですが、冒頭からいきなり意見だらけの、つまり形容詞や修飾語句を山ほど盛り込んだ文を作ってきます。

 意見だらけの文は、とても理解しくいのです。

 その上、意見を次から次へと並べられると、受け手の側は徐々にウンザリしてきます。押しつけがましい印象を受けるんです。

 しゃべる側は意見だらけの文をしゃべり続ける、聞く側は理解もしにくいし徐々にうっとうしくなってくる、するとしゃべる側は「どうしてオレの言うことがわからないんだ」とさらに意見を熱弁する、聞き手はますますウザくなる・・・という険悪な展開は、けっこう経験あるんじゃないでしょうか。

 

 他人のことは言えません。自分だって、油断するとそういう文章を書いてしまうものです。今回の尖閣諸島での問題のような場合は、国民としての感情が絡んできますから、なおさらです。

 そこを、グッとこらえて、事実は事実として記して、意見は絞りこむ。こうしないと、読み手にとってウザいだけの文章になってしまいます。

 小論のゴールは読み手の説得ですから、読み手にウザいと思われたらアウトです。

 

<せめてこれくらいは考えよう>
 この問題に関して、Mammo TVで寺脇研氏が示唆的な指摘をしています(2010-10-10)

◆◆皆さんが小学校以来の総合的な学習の時間で学んできたように、世の中のことは○と×、正義と悪というように単純に分けて(これを二分法といいます)決めつけられるものではありません。さまざまなことを総合的に考えていく必要があります。
 今回のことでいうなら、
 (1)日本の領土である尖閣諸島沖で巡視船にぶつかってきた中国漁船を制止し船長を逮捕するのは適法 
 (2)中国政府が逮捕された自国国民を守ろうとするのは理解できる
 (3)船長釈放を求める目的で交流活動の停止や貿易制限、対抗措置としか思えない日本人の身柄拘束などの行動に出た中国政府のやり方は国際的に見ても過剰
 (4)日本政府が拘束された4人の日本人を守ろうとするのは当然
 (5)両国の対立がエスカレートする一方なのは日本にとっても中国にとっても、ひいては両国の周辺のアジア諸国にとっても困ったこと
 (6)対立がいくらひどくなっても日本は武力に訴えることは憲法上不可能
 (7)中国は武力を使うことは可能だが国際世論がそれを許さないだろうこと ざっと挙げてもこれくらいの要素があります。
 これを総合的に考え判断して、船長釈放という日本政府の決定がなされたのでしょう。だとすれば、それを支持するにしろ批判するにしろ同じように総合的に考えてみた上で意思表明すべきではないでしょうか。
 単純な二分法で、「中国を怒らせるな」と言ったり「平和が大事だからことを穏便に」とうやむやにしようとしたり、あるいは逆に「弱腰外交」と罵ったりする大人たちには、総合的な思考が欠けているようです。皆さんには、そうなってほしくありません。◆◆

 勘違いして欲しくないのですが、寺脇氏の指摘が正解だというのではありません。(1)(7)7つの要素にしても、反論はありうるし、過不足も指摘できます。(私も指摘したいことはあります。)
 にもかかわらず私がこれを引用したのは、とにかく考えるべきポイントを箇条書きで列挙してあるからです。
 つまりこの記事、小論文を書く前のメモとして非常に参考になるのです。

 

<具体的にはどんなことが書けるか>
 さて、ようやくまとめ。

 

 コトは現在進行中の国際問題です。「こうすれば解決する」なんて方策があるはずもありません。

 関係者(日中双方とも)の不法行為や対応の失敗を指摘するのは簡単です。誰の目にもおかしいものはおかしいのですから。

 しかし、そんなことを書いた文章に、読む価値はありません。

 誰もが言うことを、わざわざあなたが言う必要などないからです。

 小論文のような意見文に価値があるのは、それが独自のものだからです。

 仮に意見や結論が大したことがなくても、その論拠に書き手ならではの視点観点がある。そういう文章であれば、存在理由があります。

 前述の寺脇氏の記事にしても、問題点の箇条書き列挙という1点の独自性があったため、私のアンテナに引っかかったのです。

 改めて、ssh386の注意の4番を見てください。

◆◆
 今回の出題は「尖閣諸島問題について述べよ」ではありません。9月以降の一連のトラブルについてあなたが考えたことのうち、800字というごく少ない文字数でまとめられそうな考えを述べなさいということです。従って扱うのは外交問題でなくても、例えば報道の問題や教育問題や世代問題でも構いません。例えばこの事件のあとで起きた身近な出来事についての考察でもいいのです。◆◆

 

 考えてもみてください。こんな大ネタを、たった800字でマトモに論じられる筈ありません。

 私はそういう意図で800字という指定をしたんです。この指定では、論点をうんと絞らなければ絶対にムリです。

 必然的に、外交問題そのものではなく、副次的な小ネタにならざるを得ないのです。

 私の地元に、毎年中国に修学旅行に行っている小規模な私立高校があります。その学校の修学旅行は9月下旬、今回の漁船と巡視船の衝突事件よりも後です。

 中国への修学旅行は全国的に割と盛んらしいのですが、今年は取りやめた学校がかなりあったようです。なぜ?

 そんな中、件の学校は予定通り修学旅行を実施したそうです。ローカルのラジオニュースで知りました。なぜ?

 今回の実戦トレーニングで書ける内容は、例えばこんなことです。


 

nice!(1) 

nice! 1