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ssh508 業者の添削がイマイチな理由 [小論文]

<2012>

 

 小論文は、学習指導要領に定められた教科科目ではありません。小論文の勉強をどんなにやっても、単位にはならない。

 だから、小論文教諭というのは、どこにもいないわけです。数学教諭とか体育講師とかいう立場とはまったく異なります。私の公的な位置づけは英語教諭です。小論文はあくまで余技というか、オマケ扱い。予備校や、ごく一部の恵まれた私立学校でもない限り、小論文指導が専門という先生は学校にはいません。

 だから、学校での小論指導は、現場の教員が一肌脱がないと始まりません。国語や数学や英語や体育やその他諸々の先生たちが、わざわざ研修して指導のスキルを磨いてくれることで、ようやく小論指導は始まります。

 そういう先生たちのいない学校では、小論入試を受ける生徒たちはとても困っています。気の毒なことです。

 

 

 困っている人が多いというシチュエーションは、ビジネス的には大チャンスです。

 公立高校には、あっちこっちの業者が小論文教材の売り込みにジャンジャカやってきます。私のところにもナントカ書店とかカントカコーポレーションとかがちょくちょくやってきます。

 教材はテキストであったり、テストであったり、講演会であったり、模試であったり、その他色々。

 

 実は私もわりと数年前までは、業者の教材を使っていました。

 3年生なら受験に必要な人間だけを相手にすりゃいいのですが、12年生の場合、学年全員に一斉に何かを書かせます。

 今の勤務校はひと学年に320名の生徒がいる大所帯の学校です。こういう場合、とにかく書かせて送付してしまえば、あとは業者さんが添削&評価してくれるというのは、大変にありがたいのです。もちろん有料ですけど、110002000円くらいですから、教材としてはまあリーズナブルです。

 

 

 でも。

 業者の添削は、概してあんまり良くないんですよ。


 

 ssh506でも触れましたが、業者の添削は、わりとツボを外しています。枝葉ばかりチェックしている。

 受験生たる3年生なら、細かいことを指摘してもらってもいいんですけど、高校12年生の場合、状況は全然違ってきます。

 12年生は、小論に関してはビギナーです。ビギナーに必要なのは、細かい部分の訂正ではありません。それ以前の部分こそ重要です。

 

 ssh130「添削しなくても小論文指導はできる」という記事を私は書いています。この記事の眼目は、小論指導は必ずしも添削という形をとる必要はなく、書いた本人と面談ができるのであれば、面談で指導した方が有効だということでした。

 私が小論の個別指導をする時の、もっともよくあるパターンは、こんな感じ。

  1.  最初~3本目くらいまでの原稿は、修正のしようのない低レベルのものが来る。私はまったく添削せず、ヒントやアドバイスを原稿用紙の裏面に書きながら面談する。この時期は、小論の基本や、課題文読解の基本を中心に指導する。
  2. 46本目になると、ぼちぼち「修正すればよくなる」というレベルになってくる。ここで初めて赤ペンで添削を一部入れる。生徒には「添削が入ったということは、それだけレベルが上がったということだよ」と伝える。
  3. もう少し上手になってきたら、初めて点数を入れる。点数は40%とか60%とか百分率で入れる。ここで初めて「評価に値するレベルになったね」とほめてあげる。
  4. あとはひたすら研鑽あるのみ。   添削を始める前の方が、ずっと大変だし、そっちの方が勝負なんです。


 業者の添削がイマイチなのは、いくつか理由があります。

 

 一つには、いきなり添削してしまうこと。ビジネスである以上、「こんな答案、添削に値しませんわ」と拒絶するわけにはいきません。まったくどうしようもない答案でも、お仕事として添削しなくてはならない。 

 二つ目は、すべて採点しなくてはならないこと。これもビジネスだから仕方ないのですが、ビギナーの書いた答案だと、採点対象外のものがいっぱいあります。でも、ゼニをもらっている以上、0点をつけて返すわけにもいかない。しゃーないから、原稿用紙が正しく使えているかとか、誤字脱字はないかとか、枝葉の部分まで点数化してあります。すると、視点観点は鋭いのに、言葉遣いやら何やら細かい部分に難のある答案は評価が下がり、逆に陳腐な作文・感想文レベルのものであっても、字がきれいで文面が丁寧であれば点数が高くなってしまいます。

 三つ目は、添削者のスキルの問題。添削は手間のかかる仕事です。一方、ビジネスには納期ってものがあります。大量の答案を添削するには、何はともあれ添削者の頭数が必要です。とにかく人数を集めないといけない。恐らく多くの添削教材はバイトや請負や派遣に頼っているはず。

 ところが、小論の添削にはある程度のスキルすなわち技能が必要です。誰にでもできる仕事じゃない。そんなスキルのある人間をたくさん集めることなんかできるのか?まあ、不可能でしょう。

 添削のバイトをやったことのある方。採用に際して添削のスキルを厳しくテストされてパスしましたか?やってないでしょ。そんなことしたら人数が集まりません。

 業者の添削には「なんじゃこりゃ?」という添削が目立ちます。赤ペンの字はとてもきれいで読みやすいのですけど、内容はどーもなー・・・という感じのものが多い。

 やっている当人たちに、あまり罪はありません。きっとマニュアルに従ってこなしているのでしょう。でも、これじゃ高校生のためにはなりません。

 吉岡友治氏の主催するVocabowも添削中心の小論指導プログラムですが、とにかくスキルのあるスタッフを確保することが何よりも重要だと氏が述べています。いい添削者はきちんとした待遇でないと確保できない。だからどうしても受講料も高くなってしまうのだそうです。


 そんなわけでここ数年、私は業者の教材はまったく使っていません。問題も答案用紙もすべて自製。添削も3年の個別指導以外ではやりません。

 私がよくやるのは、

  • 担任の先生に好き嫌い中心にABC3段階で評価してもらう。担任さんは特に気に入ったものにA、特にひどいと思うものにCをつけ、あとの大半はBとする。1枚あたり1分くらいで判断してもらう。
  • 他の生徒の書いた答案を読んでいい点・よくない点を指摘する「相互評価」。お互いの名前は伏せる。
  • 面白い答案を進路だよりなどで全員に紹介して読ませる。

 ビギナーのうちは、他人の書いたものを読んで「へえ」と思ってもらうのが一番有効です。

 このやり方のほとんど唯一の欠点は、統括者(つまり私)がけっこうな労力を求められるということです。

 でも、私ゃいいんですよ。好きですから。


 

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