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ssh547 「プレゼンする力」をプレゼンする力(4)〜柳井正のプレゼン力  [小論文]

<2012>

 

 ssh543に始まったプレゼンする力をプレゼンする力シリーズ、いよいよ最終回。

 3人目は飛ぶ鳥を落とす勢いのスーパービジネスマン、柳内正。冒頭から鼻息荒いです。

 

 ◆◆ユニクロが世界一を目指す原点は、私が生まれ育った山口県宇部市にあります。宇部は炭坑の街でした。主力産業が衰退し、人口は減っていった。従業員の住宅がなくなり、友人は家族と一緒にいなくなった。主産業の衰退は悲惨です。

 その風景がいま、よぎります。日本経済がいい時代は海外進出は片手間でよかった。でも、これからは国内だけでは生き残れません。***

 グローバル人材に求められるのは、人種、文化、宗教を問わずコミュニケーションができる能力です。***

 今、海外で活躍する日本人が少ないのは、プレゼンができず、リーダーシップを発揮出来ないからではないですか。

 我々は年2回、グループ全社員三千人が参加する「コンベンション」を開いています。海外の事業所、店舗の人間も参加します。経営方針を伝える場でもあるのですが、役員と社員の意見交換、討議の場も設けています。意見交換では、やはり外国人社員の発言が目立つ。最近、ようやく日本人も主張するようになりました。***

 企業活動が外国に出なければ生き残れないと変わったのだから、教育も変わらなければならない。横並び教育は、世界最悪です。競争させなければいけない。音楽でも、趣味でも競争させる。競うことによって他人とは違うことを考え、相手に伝え、実践するようになる。

 座って知識を習得するだけでなく、学んだ知識から判断力、理解力を養い、それを語り、実行する教育に変えるべきです。

 今の教育は、子どもや学生を社会と隔離してしまっている。子どもの頃から外国人と接する機会を作る。教室の外や生活、生き方を教える。そんな教育に早く変えなければ、国際社会から取り残されてしまう。このままでは二等国、三等国に成り下がってしまいます。◆◆

 

 

 この柳井のプレゼン、みなさんの採点はどうでしたでしょうか?

 さすがに歯切れがいいですね。ビシビシと断言して畳み掛ける話術は、さすが世界屈指のビジネスマンです。こういうスピード感あればこそグローバル競争にも連戦連勝なんでしょう。自社の「コンベンション」でプレゼン教育をしているというのも、口先だけじゃないぞということで立派です。ビジネス畑の人にとっては、かなり共感できる内容かもしれません。

 

 その柳井のプレゼン、私の採点は0点です


 

 0点の最大の理由は、テーマを外していること

  • 今、海外で活躍する日本人が少ないのは、プレゼンができず、リーダーシップを発揮できないからではないですか。
  • 最近、ようやく日本人も主張するようになってきました
  • 競うことによって他人とは違うことを考え、相手に伝え、実践するようになる。
  • 学んだ知識から判断力、理解力を養い、それを語り、実行する教育に変えるべきです。

 「プレゼンする力」がテーマであるのに、柳井はプレゼンについて上記4ヶ所の下線部でしか触れていないのです。テーマ=「お題」についてロクに述べていないのではプレゼンの体をなしていない。この時点で80点マイナスです。

 確かに鷲田・山田もプレゼンのhow toは述べていない。しかしこれは2人が「プレゼンの前にやることがある」という主張を述べたからです。鷲田と山田はテーマを掘り下げています。

 一方、柳井はプレゼンの必要性を自明のものとして捉えている。自分だけでなく、誰もにとって「当然必要なもの」と思っている。だからプレゼンとは何なのか?という問いがアタマに無い。テーマの掘り下げが全くありません。

 

 とは言え、これだけなら0点にはなりません。まだ20点残ってます。

 なのに、その残りわずかな点数を、終盤の教育批判で完全にパアにしちゃってます。

 終盤の部分は、柳井が日頃述べていることです。ここぞとばかり「自説を展開」したんですね。

 プレゼンは限られた時間の中で自分の意見を伝えるもの。テーマを絞り込むのは基本中の基本です。なのについ、自説を展開してしまった。これで50点ほどマイナスです。

 テーマを欲張ると、ほころびも増えます。柳井は競争させることが個性やプレゼン力や実戦力を育てるとしていますが、その理由はどこにも述べられていない。

 限られたプレゼンの中にたくさんの話題を詰め込んで失敗する典型的な例です。

 

 

 すでに130点を減点されてマイナス30点並の0点となってしまった柳井のプレゼンですが、実は減点対象はまだあるんです。

 そしてこれこそが最大の欠陥。

 

 ユニクロはコンベンションという機会を定期的に持ち、討議や意見交換を行っている。それが功を奏したようで、最近では日本人の意見発信も増えている、と。

 今ユニクロで働いている日本人は、「変わらなければならない」と柳井が批判している現在の「横並び教育」を受けてきているはずです。

 ということは、横並び教育を受けた日本人であっても、ユニクロのような会社で研修すれば、自己主張できるグローバルな人材になれるということになります。

 なれば、教育を変える必要なんてねーじゃん

 この論理矛盾は痛いですねえ。聞き手にツッコミを許すようじゃプレゼンとしては失格です。ここでさらに70点減点。

 

 というわけで、本当はマイナス100点なんですが、下限は0点ということで柳井のプレゼンは0点です。

 

 

 え?オマエはビジネス嫌いだから柳井にカラいんだろう?引用のカットが怪しい?

 はいはい、その疑いはごもっとも。何せ日頃からsshはビジネスマインドを嫌ってますから。

 でもね。引用に際してのカットは、むしろ親切心だったのですよ。

 実は第2段落と第3段落の間の***部分には、ユニクロが現在いかに業績も規模もデカいかという話が2段落ほど展開していたのです。

 ここを残しておくと、本題と関係ない自慢話を展開したということでマイナス70点、自らの原点と述べている山口県がユニクロの発展でどのようになったのかが述べられていないということでマイナス30点と、さらに100点マイナスされてしまうのです。

 

 

 とはいえ、このままでは世界屈指のビジネス王があまりにお気の毒。

 そこでsshより、よりよいプレゼン力を身につけるためのアドバイスを差し上げましょう。

 今回のテーマであれば、ユニクロ社内でいかに社員のプレゼン力を鍛錬しているかという部分にテーマを絞るのがベストでしょうね。

 「横並び教育」を受けてきた日本人社員であっても、我が社のプログラムの下で頑張れば、こんなにプレゼン力が身に付く。日本の学校でユニクロほど優れた教育はできないかもしれないが、少なくともこういうことならすぐできるはずだ。教育界よ、我に習えてなふうに主張すれば、会社自慢をしながら教育批判もできて、しかもプレゼン力というテーマを掘り下げることができたはずです。具体的な取り組みは論拠として強力ですし。

 今後プレゼンをするときは、「テーマの絞り込み」を意識するようにしてください。大丈夫、あなたならすぐに上手になりますよ。


 「プレゼンする力」をプレゼンする力は、これにて終了です。


 ところで、ユニクロの躍進で山口県宇部市の衰退した「風景」は改善されたんですか?


 

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