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ssh559 社説の読み方〜脱・世論、脱・民意編 [社説の読み方]

<2012>

 

 突然ですが、ここ数ヶ月間、中央メディアで「民意」って言葉をあまり見聞してないような気がするんですが、みなさんどうでしょうか?

 「民意」って言葉は、決めゼリフ的に使われることがとても多いです。選挙に勝った以上それが民意だ、とかね。

 ところが最近は「決める政治」とやらが中央メディアの決めゼリフ。つい最近まで金科玉条だった「民意」はすっかり蚊帳の外。そういえば世論調査で野田政権の支持率がメチャクチャ低くても、あまり大きな話題にしませんな、中央メディアは。

 と思っていたら、とうとう産経クンと読売クンは、民意だの世論だのを政治が汲んではダメ、ゼッタイと断言しちゃいました。ネタは原発依存をどうするかというアレです。


 まずはいきなり産経クンに登場いただきましょう。タイトルからして「世論なんか気にするな」です。

 

◆◆エネルギーと原発 世論で基本政策決めるな (2012.8.31)

 世論に耳を傾ける努力は大切だが、エネルギー問題のような国の基本政策が世論によって決められるルールを確立させてはならない。高度で冷静な政治判断こそが優先されるべきだ。

 2030年の原発比率など日本のエネルギー構成について、寄せられた国民の意見を分析した有識者による検証会合(座長・古川元久国家戦略相)が「少なくとも過半の国民は原発に依存しない社会の実現を望んでいる」とする見解をまとめた。

 この見解は、これから政府が着手する国の中・長期的なエネルギー問題と温暖化対策の方向性を定める「革新的エネルギー・環境戦略」の策定作業の本質に影響を及ぼしかねない内容だ。

 検証会合の見解をお墨付きとして、デモに代表される反原発の時論に迎合し、「原発ゼロ」を軸とする新戦略の構築に傾斜するのは禁物だ。

 そうした迎合は、日本の発展に終止符を打つ行為に他ならない。国の存続と繁栄に安定したエネルギーが必須であることは、歴史が示す自明の理である。

 次の選挙で世論の逆風を受けるとしても、エネルギー安全保障の重要性を有権者に説いて、国の将来を確かなものにしてゆくことが、政治家の責務である。再生可能エネルギーの発電能力は、原発に比べると格段に小さく、不安定だからだ。

 そもそも政府が実施した意見聴取会やパブリックコメント(意見公募)、討論型世論調査は、準備不足で問題点も多い。意見聴取会で電力会社の社員の意見表明の機会を奪ったことなどにより、脱原発派が勢いを得た感がある。

 政府の調査では、新聞社などによる世論調査より「原発ゼロ」の回答率が高い。政府の調査そのものが脱原発ムードを醸し出した可能性が疑われる現象だ。

 こうした不確かな調査をよりどころに、エネルギー計画の策定を急ぐのは短慮に過ぎよう。皮相的な原発の性悪論にとどまらず、原発をなくした場合の経済や文化への影響までを視野に入れた議論の深化が必要だ。

 有識者の検証では、20代以下の30%強が「原発維持」の意見であることが注目された。政府は約20年後のエネルギー構成を考えている。若い世代の意見に重みを置いて検討することも重要だ。◆◆

 

 この文面を読むと、何か不都合なこと(浮気とか不正とか)がバレそうになって必要以上に威丈高に出ているオヤジでも見ているような印象を受けます。とにかく自分の立場に有利となりそうなことなら何でも拾い集めて声高に叫んでる。反原発を「持論に迎合」と揶揄したり、「意見聴取会で電力会社の社員の意見表明の機会を奪った」と被害者感情をむき出しにしたり(限られた意見表明者数に対して全会場に電力会社員が確保されていたことの不合理さは意図的に無視しているのかな)、「有識者の検証」なる正体不明のデータを〆に持って来たりと、もう相当に浮き足立ってます。

 で、そこまでして「世論が何といおうと原発だ」と強弁する根拠は、文中にわずか2つのみ。

  • 国の存続と繁栄の安定したエネルギーが必須であることは、歴史が示す自明の理である。(5段落)
  • 再生可能エネルギーの発電能力は、原発に比べると格段に小さく、不安定だからだ。(6段落)

 LNGやメタンハイドレードなどのエネルギー資源の話もないし、コジェネレーションなどの高効率火力発電技術も無視されている。脱原発=太陽光と風力だけでやっていく、なんて誰も言ってないでしょうに。こんなんで「世論が何と言おうと原発だ」と言われたって、誰が納得するんでしょうか。


 

 お次は読売クン。


◆◆エネルギー選択 「意識調査」はあくまで参考に(2012.8.26.

 国の命運を左右するエネルギー戦略を、人気投票のような手法で決めるのは問題である。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故を受け、「脱原発」を求める声は少なくない。

 だが、エネルギー政策では、原発の安全性に加えて、経済性や安定供給なども重要だ。資源小国の日本が電力を安定確保するには、原発を含む多様な電源が要る。

 政府は、原発を中長期的に活用するという現実的なエネルギー政策を推進すべきである。

 2030年の電源に占める原子力発電の比率を「0%」「15%」「20~25%」とする三つの選択肢について、政府が行った複数の意識調査の結果がまとまった。

 11回の「意見聴取会」と「パブリックコメント(意見公募)」、新たな手法の「討論型世論調査」は、いずれの調査も「原発0%」の支持が最多だった。

 ただし、この結果をもって原発政策に関する世論が示されたと考えるのは早計だろう。

 意見聴取会やパブリックコメントの参加者は、原発問題で積極的に意見を言いたい人が多いため、脱原発に偏る傾向がある。

 討論型世論調査も、最初の電話調査は無作為抽出だが、その後の討論会は希望者参加で、人数も約300人と少なかった。

 政治が国民の意見を聴くのは大切だが、受け止め方によっては、場当たり的な大衆迎合主義(ポピュリズム)に陥る恐れがある。

 調査結果を分析する政府の有識者会議では、「世論調査だけで物事が決まるなら、政治は不要だ」といった意見も出た。

 これらの調査結果はあくまで参考にとどめ、政策へのダイレクトな反映は避けるべきだろう。

 一方、政府にとっての課題も判明した。討論型世論調査で「原発0%」の支持は、討論前の41%から討論後は47%に上昇した。

 エネルギー政策で、「安全の確保」を最重視する人が、討論前より増え、最終的に8割に達したことが影響したようだ。

 ただ、誰しも「安全」への関心が高いため、「安定供給」や「地球温暖化防止」を選ぶ比率が低くなったのではないか。

 原発ゼロでは、日本経済が失速し、失業増や貧困拡大を招く。最大の被害者は国民だが、なぜかこうした認識は浸透していない。

 政府は原発の安全性向上に一層努めるとともに、的確なエネルギー選択に資する情報を、国民に提供することが求められる。◆◆

 

 これまでもよくあったパターン通りです。すなわち、産経クンと同じことを言いたいのだけれど、言葉の選び方が読売クンのほうがいささか慎重。産経クンが「世論なんかナンボのもんじゃい」と居直っているのに対して、読売クンは「これが世論と言えるのか」と、少々アタマの良いところを見せています。

 ま、でもそこは同じ穴のムジナ。国民の意見よりも政治決断だと主張する根拠は大変に薄弱で、これだけ。

  • 原発ゼロでは、日本経済が失速し、失業増や貧困拡大を招く。最大の被害者は国民だが、

 でもさあ、3.11以前の日本でも、経済は失速し、失業増と貧困拡大はえらく進みましたよねえ。どーせ被害者になるなら放射能汚染の心配が少ない方がいーじゃん、と反論されたらどーするんでしょうかね、読売クン?

 

 

 3本目に、もうちょっと穏やかな日経クンを紹介。

 

◆◆原発ゼロを性急に選んでいいのか(2012.8.31)

 政府は2030年に向けたエネルギー・環境戦略を決めるにあたり、原子力発電の全廃を選択すべきではない。

 私たちは福島第1原発事故を契機にエネルギー・環境政策を大きく変える必要があると主張してきた。原発の新設は難しくなり、原子力への依存は下がる。

[エネルギー自給率4%]

 その代わり自然エネルギーを可能な限り増やし、環境影響に配慮しつつ化石燃料を賢く利用する必要がある。エネルギーの利用効率を高め、ムダをなくすことで総使用量を減らす努力も重要だ。

 しかし原子力を選択肢からはずすのは賢明ではない。日本のエネルギー自給率は約4%(原子力除く)。国産は自然エネ以外にわずかな石油と天然ガスだけだ。

 1970年代の2度の石油危機を通じ、ひとつのエネルギー源に依存しすぎる危うさを学んだ。政府が原発ゼロを選べば資源国が日本の足元をみるのは避けがたい。多様なエネルギーの選択肢を手中にとどめおくことこそ、広い意味で国の安全保障にほかならない。

 地球温暖化への対処もある。原子力は温暖化ガスの排出削減に有効だ。世界第3の経済国である日本が世界共通の課題解決に背を向けることはできない。

 自然エネルギーの実力は未知数だ。発電コストは下がるのか。電力の安定供給に支障はないか。当面は自然エネ拡大に全力を投じるにしても、普及に伴う利害得失を常に点検し、もし限界が見えたら戦略を見直す柔軟さが要る。そのためにも選択肢は多い方がいい。

 石炭資源を有しエネルギーのおよそ3割を自給するドイツも昨年に脱原発を決めるまで長く曲折した議論を経た。スウェーデンは逆に80年代に決めた原発全廃の方針を今は凍結している。様々な試行錯誤がある。

 原発をすべて止め火力発電で代替したと仮定すると、石油や天然ガスの輸入額が年間約3兆円余分にかかる。これは東日本大震災前の10年度に国内の全製造業が稼ぎ出した経常利益(約16兆円)のおよそ5分の1に相当する。

 化石燃料の輸入が増え続ければ、19年度にも日本の経常収支が赤字に転じる可能性があると、日本経済研究センターは試算する。

 燃料調達費の増大と電力不足は日本経済に多くの面でマイナスの影響を与える。企業の生産能力の低下やコスト上昇につながり工場の海外移転を加速する恐れが大きい。雇用や所得の減少をもたらし国民生活を圧迫するのが心配だ。

 家計は電気料金があがっても節約で支払いを減らし、賄えるかもしれない。しかし製造業、とりわけ円高などでぎりぎりの経営を強いられてきた中小・零細の工場にとりエネルギーコストの上昇は死活問題だ。

 電力は暮らしや産業の基盤であり電気は現代社会の「血液」といえる。万が一にも途絶すれば、経済や社会がまわらなくなる。

 原子力利用は安全確保が大前提だ。従来の安全規制に問題があったのは間違いなく、国民の多くが憤りを感じている。原子力規制委員会の発足を制度刷新の機会とし信頼回復を急がねばならない。

[廃棄物問題に道筋を]

 政府や国会の福島事故調査委員会は、安全神話と決別し「事故は起きうる」との認識にたち規制を厳正にするよう求めた。政府や電力会社は原発に多重の安全対策を施したうえ、「事故」を「災害」に拡大させない防災面での対策を充実させる重い責任を負う。

 使用済み核燃料や廃棄物の処分について政府は早期に道筋を示さねばならない。明確な方策がないまま、長く原子力を使い続けることに抵抗感を抱く人は多い。

 世界では427基の原発が稼働し75基が建設中だ。多くは電力需要が増える新興国などに建つ。世界は原子力を必要としており、安全の向上に日本の技術と経験を役立てられるはずだ。

 政府が主催した意見聴取会などには原発ゼロを求める声が多く寄せられた。原発ゼロに慎重とされる30代以下の意見が少なく、世代間の偏りも指摘される。

 いずれにしても意見集約の結果は政策決定にあたって踏まえるべき材料の一つにすぎない。最後は政治の判断だ。何が本当に国民の安全・安心につながるのか。政府は大局的な観点から責任ある判断を下してもらいたい。◆◆

 

 3本の中ではこれが一番マトモな文面になってますね。「世論より原発」と声高でもないし、原発を残す理由についても割と詳しく述べられています。安全面や使用済み核燃料の話に触れているところも、卑怯じゃない印象です。

 ただ、それでも安全面(事故と使用済み燃料の処理)については、サラリと逃げてますね。ま、ここがきっちり論じきれる人はいないでしょう。実際に事故も問題も起きているのですから。

 ま、安全面が説明で「国民に納得」させることができないのは、やっぱりそれだけアブナいからでしょう。どんなに説明しても納得してもらえないのであれば、あきらめて引き下がるのが民主主義でしょう。

 あと日経クンにどーしても言っておきたいのは、都合のいい時だけ中小企業を引っぱり出すのは止めてもらいたいってことです。消費税増税は中小企業を思いっ切り苦しめますけど、あの時はそんなことロクに書いて無かったでしょ。自説を展開するためのネタに使われたんじゃいい面の皮ですよ。

 

 

 読み比べのために地方紙を1本。中央の地方紙、東京新聞。

 

◆◆原発ゼロ 熟慮の民意が表れた(2012.8.24.)

 二〇三〇年の原発比率をめぐる「国民的議論」の結果が出た。負担増を受け入れても安全を優先させたい「原発ゼロ」の民意が読み取れる。国民の覚悟の選択を、政府はただちに尊重すべきだ。

 これで「原発ゼロ」の声は無視できなくなったろう。野田政権が今後のエネルギー・環境戦略に反映させるとした国民的議論の結果が出そろった。意見公募(パブリックコメント)と、全国十一都市で開いた意見聴取会、さらに討論型世論調査である。

 これらの「国民的議論」は、三〇年の原発比率について「0%」「15%」「20~25%」の三つを選択肢とした。意見公募と意見聴取会の会場アンケートは、ともに八割以上が「0%」を支持した。

 とりわけ注目すべきは、国民同士の議論や専門家の話を聞き、その前後で意見が変化したかを調べる「討論型世論調査」の結果である。最多は「0%」支持で、討論前の32%から討論後は46%に大きく増えたのが特徴だ。

 事前の予想では、専門家の話を聞けば「原発ゼロ」支持は減るとの見方があったが、結果は逆だった。このことは「原発ゼロ」の選択が一時の感情などではなく、賛否多様な意見を踏まえ熟慮した末の決定を意味するものだろう。

 しかも、選択する上で何を最も重視するかとの問いには、「安全の確保」が80%強を占めた。原発維持派の大きな論拠である「電力の安定供給」(15%)や「発電費用」(2%)を圧倒したのは、電気料金が高くなったり省エネなど不便な生活をも引き受ける国民の覚悟の表れである。

 経済界は、脱原発では電力不足やそれに伴う企業の海外移転、失業増など経済が停滞すると主張している。これは、原発で稼いできた東芝、日立製作所や東京電力が中枢を占めてきた経団連の言い分である。枝野幸男経済産業相が「(原子力)依存度低下は経済のマイナスにつながらない」と反論したように、考慮すべき材料だが鵜呑(うの)みにすることはできない。

 低成長が定着し、大量生産・大量消費の時代はとうに過ぎ去り、国民の多くは省資源・省エネの暮らしを志向している。討論型世論調査でも、懸念される電力不足に対し、参加者の七割が「国民、産業とも省エネ余地がある」と、エネルギーを減らすライフスタイルへの転換を提案した。

 国民の重い選択を考えれば、政府が九月までに下す選択は「原発ゼロ」しかない。◆◆

 

 どうもこの種のテーマでは、中央紙は旗色悪いですね。東京新聞の社説は短いのですが、調査の細かい方法も紹介して、この民意は重いという結論を導いています。特に、討論型でかえって0%が増えたという指摘は鋭い。電力会社社員がどーたらと恨み節を歌っている産経クンとはかなり様子が違います。

 

 結局のところ、産経クンと読売クンと日経クンは「経済」を主眼にしていて、一方の東京新聞は「安全」を主眼としている。経済はもちろん大切ですが、現状が全然幸せじゃないこの国で「悪くなるぞ」と脅しても、ビビるのは現状が悪くない一部の人間(電力会社の社員とか、中央紙のような大企業の社員)だけでしょう。

 

 

 それにしても。

 日経クンはともかく、世論や民意を汲むことを迎合だのポピュリズムだのと言ってしまった産経クンと読売クンは、自分たちの主張に同意する人が数多く出た場合、「民意は◯◯だ」とか得意げに言う気じゃないでしょうね、まさか。

 自分で自分の首を絞めていることに気付いていればいいんですけど。


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