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ssh595 ヘッドフォンのお話(2) [科学と技術]

<2013>

 

 ヘッドフォンとスピーカーは、基本的には同じものです。

 超小型のスピーカーを、個人だけがリスニングに使用するように、耳のすぐ近くに置けるようにした超パーソナルタイプのスピーカーがヘッドフォンです。

 ついでに言うと、マイクとスピーカーも基本的に同じものです。電気信号を音に変換する装置は、その逆もできます。実際、多くのインターフォンはスピーカーがマイクを兼ねています。

 

 ヘッドフォンの形式は、振動板(ダイヤフラム)の形状と本体(ハウジング)の形状で分けられています。

 ダイヤフラムの方は、コーン型とドーム型が多く、ついで平面型です。

 コーン型というのはよく見るスピーカーのような形です。ドーム型は文字通り振動板がドームのような形をしていますし、平面型も文字通りです。

 概して、コーン型は廉価版に多く、低音再生能力が割と高いようです。ドーム型は中級機に多く、中高音の再生能力がいいと言われているようです。平面型は高級機に多く見られます。

 

 ハウジングの方は、大きく密閉型と開放型に分かれます。密閉型は遮音性能が高く、開放型は聞き疲れが少ないと言われています。

 

 もっとも、どの形式が絶対的に優れているというようなものでもありません。技術の世界は常に一長一短で、何かメリットがあるとデメリットももれなくついてきます。ユーザーの側としては、予算と好みで自分に合ったものを探すことになります。


 

 ところで、スピーカーの主流はダイナミック(動電)型と書いてきましたが、他の方式もあります。そのことにも触れておきましょう。

 ダイナミック型以外の方式としては、コンデンサー(静電)型と、圧電型があります。

 

 コンデンサー型は、帯電したもの同士が引き付け合ったり反発し合ったりする(静電気の実験のアレです)を利用したものです。振動板に電圧をかけて帯電させ、電気信号の変化で振動板が動くようになっています。

 コンデンサー型のメリットはいくつかありますが、恐らく最大のものは振動板が軽量にできることでしょう。振動板は丈夫であるなら軽いほど有利です。ダイナミック型の振動板にはボイスコイルが必要ですが、コンデンサー型は不要です。しかもコンデンサー型の振動板は完全な平面です。これも強度さえ取れれば振動板は平面の方が有利です。

 一方、難点は効率が悪いこと。まず作動させるために高い電圧をかける必要があります。そのためコンデンサー型は外部電源が必要です。それでもなお、コンデンサー型はダイナミック型に比べはるかに能率が低い。市販されているコンデンサー型スピーカーは通常のダイナミック型よりも能率は数十分の一ほどしかなく、超強力アンプと組み合わせないと音量が出ないようです。コンデンサー型がヘッドフォン界で居場所を得たのは、ヘッドフォンならそれほどの音圧は要りませんから、超軽量平面振動板のきめ細かい再生能力というメリットが活きてくるのでしょう。

 この方式のヘッドフォンをずっと作っているのがスタックスという日本のメーカーです。スタックスのヘッドフォン(彼らはイヤースピーカーと呼んでいます)の音質には定評があります。残念なのはお値段が高いことと、外部電源が要るので家の中でしか使えないこと。ウォークマンやiPodと組み合わせるのには向いていません。ま、本体より5倍も10倍も高価なヘッドフォンをわざわざ組み合わせる人はいないと思いますが。スタックスの最高級モデルは30万円くらいします。

 なお、コンデンサー型がもっとも活躍しているのはマイクの世界です。どうもコンデンサー型は振動板が小さい方が得意なようです。

 

 一方、圧電型は、水晶などの「圧電素子」の特性を利用したものです。水晶に圧力を加えると、圧力に応じて電圧を発生します。だから逆にそういう素材に電圧を掛けると、電圧に応じて圧力を発生します。この圧力で振動板を動かして音を出す方式です。水晶にちなんでクリスタル型と呼ばれることがあります。

 圧電型のメリットはとにかくシンプルであること。小さく、軽く、安価に作れます。かつてイヤフォンといえば、TVやラジオを買うとオマケについてくる、しごく小さなモノラルのものでした。これらが圧電式のイヤフォンです。本当に小さく軽く、安価でした。

 デメリットは音です。はっきり言って音は全然大したことありません。圧電式は音響用スピーカーに使われることはほとんどありません。


 

DSCN0595.jpg


 これがクリスタル型すなわち圧電型のイヤフォン。年配の人なら「イヤホン」といえばこういうものと思うはずです。今はすっかり姿を消したようで、モノラルのものでもたいていダイナミック型です。このイヤフォンはソニー製で、当時ソニーだけがカナル(耳の穴に突っ込むパイプの部分)が写真のように斜めに取り付けられていて、装着性に優れていました。

 

 

 ヘッドフォンのお話(1)で書いたように、音の出口の技術は成熟していて、作りの部分が勝負となっています。

 メーカーが製品をPRする時に強調するのは、振動板の素材や形状、本体の形状(開放型でもちょっと凝った構造を持っているとか)あたりです。

 しかし、実は、ヘッドフォンには、スピーカーとは全然違う重要なポイントがあります。

 それは、実際に装着した時の装着性です。

 

 単純な話、ヘッドフォンは耳から少しズレただけで音がずいぶん変わります。イヤフォンなら耳にしっかり押し込むか軽く押し込むかで音はかなり変わります。大型のヘッドフォンであっても、本体を耳に少し押さえつけると、音の聞こえ方がまったく違ってきます。

 ヘッドフォンはスピーカーに比べて、こういう物理的な要因が音に大きく影響してきます。

 どんなに原理的に優れていて、ダイヤフラムからいい音が出ていたとしても、狙い通りに装着されなければ、そのヘッドフォンは本来の音とはかけ離れた音しか聴かせてくれません。

 

 ヘッドフォンの音は、音を出すユニット以外の部分の仕事がとても大きいんです。

 本体の大きさや重さ。イヤーパッドの形状・材質・当たりの良さ。ヘッドバンドの圧力。装着した時のユニットと耳との距離。装着した時にズレやすいか、よく馴染むか。

 で、困ったことに、人間の頭や耳の形は十人十色です。万人にピッタリ合うヘッドフォンを作るのは難しい。

 特にイヤフォンの場合、万人の耳腔の形状に合わせるのはムリです。センター試験の英語リスニングでも、イヤフォンがフィットしなくて苦労したなんて受験生がよくいるくらいですから。

 

 そういう訳で、イヤフォンの評価は、性能面以外に「相性」がかなり影響するようです。

 実はiPod classic付属のイヤフォンは、私の耳にはイマイチ合いません。少なくとも以前使っていたソニー・ディスクマン付属のイヤフォンほど良くない。音そのものは特段の不満もありませんが、形状はどーも相性がよくないようです。

 アップルのイヤフォンは装着性が悪いという人がけっこういるようです。これは形状に問題があるのか、それとも私と同じような形状の耳の穴の持ち主が多いのか。


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