ssh625 WHOの自殺報道指針を知っていますか? [マスコミュニケーション論]
<2013>
我が国は世界に冠たる自殺国家です。年間自殺者数は3万人前後。現場の必死の努力で昨年はかろうじて3万人を割りましたが、それでも人口10万人あたりの自殺率は男性36.2で世界11位、女性は13.2で世界5位です(2011年。ちなみに1位は男性がリトアニア、女性は韓国)。
自殺というのは、非常にショックな出来事です。
ショックであるが故に、否が応にも関心が高まります。
特に有名人や未成年の自殺は、どうしてもあれこれ知りたくなります。好奇心は人間の性(さが)です。
しかし。自殺をセンセーショナルに扱うことは、厳に慎まねばなりません。
「ウェルテル効果」をご存知でしょうか。
ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』が1774年に出版された時、読者であった数名の若者が別々の場所で物語の主人公と同様の銃による自殺を実行しました。以来、後追い自殺を誘発する現象を「ウェルテル効果」と呼んでいます。
自殺報道にはウェルテル効果があるというのが定説です。
世界中で、ウェルテル効果による後追い自殺は発生しています。
日本では、1986年にトップアイドル岡田有希子が飛び降り自殺をした時、多くのメディアが報道過熱となりました。そして、かなりの数のウェルテル効果自殺が発生しました。
こうした「さらなる悲劇」を防ぐべく、世界保健機構(WHO)が2000年に、メディア関係者向けの自殺防止のための指針(Preventing Suicide - a Resource for Media Professionals)を出しています。
指針は全部で9ページですが、ありがたいことに最後にまとめの要約(Summary)がついてます。原文に私の訳をつけてご紹介。
◆◆SUMMARY OF WHAT TO DO AND NOT TO DO (メディアがなすべきこととすべきでないことのまとめ)
WHAT TO DO (なすべきこと)
- Work closely with health authorities in presenting the facts. (事実を伝えるにあたり、保健機関と密に連携する)
- Refer to suicide as a completed suicide, not a successful one. (自殺は単になされたものとして述べ、成功したとは述べない)
- Present only relevant data, on the inside pages. (関連のあるデータのみ、1面でなく2面以降に掲載する)
- Highlight alternatives to suicide. (自殺以外の選択肢に注目させる)
- Provide information on helplines and community resources. (相談電話や自治体関係の情報を提供する)
- Publicize risk indicators and warning signs.(危険性の指標と警戒すべき兆候を公表する)
WHAT NOT TO DO (すべきでないこと)
- Don’t publish photographs or suicide notes. (写真や遺書を公表しない)
- Don’t report specific details of the method used.(自殺の方法を詳細に報じない)
- Don’t give simplistic reasons. (自殺の理由を単純化しない)
- Don’t glorify or sensationalize suicide.(自殺を賛美したりセンセーショナルに扱わない)
- Don’t use religious or cultural stereotypes.(宗教や文化による決めつけを用いない)
- Don’t apportion blame.(誰が悪いのかを言い当てない)
◆◆
政府はこの件について、(珍しく)きちんと対応しています。2008年には内閣府が「メディア関係者への手引き」を作成しています。その他の関係機関も活動しています。
その割には、マスメディア、特にTVはかなり盛大にWHAT NOT TO DOをやってます。
TV屋さんにはTV屋さんの事情があるのだとは思いますけど、ここはぐっとガマンして、国際標準の節度ある報道でやっていただければと思います。