ssh607 使える英語とキャラチェンジとお買い物 [三題噺]
<2013>
久しぶりの三題噺です。
何を隠そう、私はいたって内向的な人間です。初対面の人と話すのはもちろん、仕事で電話をかけることすら億劫です。
昨今はコミュニケーション能力とやらが妙に重視されてますが、もし私が今日日の学生だったらシューカツは困難を極めたことでしょう。バブル時代に就職活動で苦労したような人間ですし(ssh503参照)。
性向のせいかどうか知りませんが、私は話が回りくどいタチです。「~というのは分かるんですけど」とかいうような、譲歩や条件や但し書きのセリフがすごく多い。
それと、私は会話中にあまり相手に聞き返したり確認したりということをしません。何だかよくわからない時でも、とりあえず相づちを打ってしまうんですよ。大概は会話しているうちに後で何だかわかりますから。
私は英語のセンセイではあるのですけど、パーソナリティはあんまり欧米キャラじゃないのですね。
そのせいか、私にとって、英語を話すのはなかなかの大仕事です。
より正確には、本当に自分の言わんとしていることを、過不足なく言おうとすると、途端に困難を極める。
普段の調子で「~というのは分かるんですけど」みたいなことから話そうとすると、ちっとも意見や用件にたどり着けない。話の組み立て方そのものを変えないと、どーもうまく行かない。
つーても、話の組み立て方ってのは、その人の思考回路そのものでもあります。切り替えはなかなか大変です。
私にとって、英語でコミュニケーションを取るというのは、かなりのキャラチェンジを伴う行為です。日頃の回りくどくて断定を避けるキャラから、いささかストレートでアクティブで押しの強いキャラに変わる必要がある。
実際、同じようなことを言う人はけっこういます。使う言語が変わると、キャラも変わる。というかキャラを変えないといけないと。
ところで。
私の周囲で、私よりも年上で、海外在住経験がほとんどないのに、英語の運用能力が非常に高いという先生がいます。一人二人ではなく、けっこういます。ホントに大したもんだと思います。尊敬してます。
もちろん、そういう人たちはものすごい努力家です。勉強せずに語学がモノになるわけありません。
ただ、彼らには、一つの共通点があります。
それは、キャラ。
みなさん、日頃からものすごくアクティブでアグレッシブな方々なのです。
はっきり言えば、押しが強くて我の強い、ビジネスマン的なキャラ。
さて、昨今、グローバリゼーションに対応できる英語の使える人材を輩出せよと強く強~く教育現場に求めているのは、ビジネス界です。
彼ら彼女らは、教育現場に対して、実にストレートにアグレッシブに要求してきます。自分の主張を、遠慮なくどんどんしてくる。
しかも、ビジネス界には、英語の達人がたくさんいます。しかもしかもみなさん、学校を出てから自らの努力で身につけたのです。すごいことです。
自分達だってガンバってスキルをアチーブしたのだ、学校関係者が甘えてどうする、と言われれば、かなりの説得力です。
ここで、ssh的な考察。
ビジネスマンの皆様は、例えば私が英語を話す時にいちいちやっているキャラチェンジを、まったくやったことがないんじゃないでしょうか?
ビジネスで成功できるようなキャラだから、ナチュラルにガンガン英語を使い倒すことができた。ただ意欲だけあればよかった。
自分のパーソナリティそのものを切り替えないとうまくいかない、という経験を、彼ら彼女らは、まったくしたことがないのじゃないか?
そうであれば、「学校で使える英語を身につけさせろ」とアグレッシブに要求してくる理由が理解できます。
キャラを変えなくても英語のトレーニングができた人に、キャラチェンジという大きなお仕事から始めなきゃならない人の苦労は、想像もつかないのじゃないでしょうか。
私の勤務校の全日制普通科には、体験入学という行事があります。実際にオールイングリッシュの授業に参加してもらって、様子を見てもらう。
これはPRのためだけじゃありません。適性の確認です。オールイングリッシュで会話が多用される授業は、生徒によっては全く不向きなものです。ミスマッチは拷問になりかねない。
しかしもし、学校教育で誰もが使える英語を身につけねばならないとすれば、そこに適性もへったくれもないでしょう。グローバルビジネスマンの皆様からすれば、オールイングリッシュクラスへの適性をチェックするための体験入学プログラムなどナンセンスだと主張なさることでしょう。
ところで、使える英語というのは、どんなシチュエーションで使えることを想定しての議論なんでしょうか?
もしビジネスの場面で使える力というのであれば、いくら学校で鍛えたって、即戦力にはなりません。せいぜい即戦力の2~3歩手前くらい。
だって、ビジネスそのもののことがよくわかってなかったらどうしようもないんですから。しかもビジネスに必要なスキルは、会社や職種によって違います。何でもアウトソーシングしてコストカットしたいグローバルカンパニーの気持ちはわからんでもないですが、この部分は各会社で(あるいは各自が)トレーニングしてもらうしかないでしょう。
そういうグローバルビジネスの世界で羽ばたく人々を除いたその他の一般ピープルにとって、使える英語というのは、海外旅行で困らないというレベルのものでしょう。
3月に海外研修引率で2週間オーストラリアに居て、改めて思いましたけど、英語でのお買い物なんて、簡単なもんですわ。
何せ、あっちは売りたいのだし、こっちは買いたい。最初から用件が明確になっている。客が困れば、売る側は懇切丁寧にあれこれ教えてくれます。
それに、お買い物なんざ、しょせんモノの選択と値段の交渉くらいしかやりません。ビジネスのネゴシエーションとは比較になりません。
旅先で困らない英語なんて、別にわざわざ学校で教える必要ないですよ。旅行前にちょっと予習すれば十分です。
ま、それでも、中学から買い物や入国審査の英語を学びますけどね。
日本の英語教育を改革せよと主張するグローバルビジネスマンの方々なら、このくらいのファクトはまさか知らないはずはないとは思いますが。
グローバルビジネスマンの皆様は、日本の教育が悪いから英語が使えないとよくおっしゃいます。
でも、現実に、英語の使える日本人の数が不足していて、ユニクロなりトヨタなりの業績に悪影響を及ぼしているという話は聞きません。むしろ円安で一気に業績がよくなった(そのくせ賃上げは渋るといういつものパターン)というニュースばかりが聞こえてきます。
人材は、たぶん、足りてるんでしょう。
というか、各企業が研修でトレーニングして、使える人材にしたのでしょう。
ただ、それでもやはり言っておきたいことはあります。
なぜ、企業の研修で、彼ら彼女らは使える人材になれたのか?
基本ができていたからです。
言語の基本、地理歴史公民数理その他の基本、勉強するとはどういうことかということの基本。そして何よりも、社会生活の基本。
集合と言われれば集合し、名簿順に並べと言われれば名簿順に並び、決められた時間に従って行動し、集団の秩序を壊さないように行動して、エトセトラエトセトラ。
これらすべて、幼児教育から中等教育までかけて、学校が生徒たちに学ばせてきたことです。
そういう基本があって初めて、勉強も研修もビジネスも始まります。
英語が使えないとは言いますけどね、
企業のプログラムでインテンシブコースよろしく特訓すれば、1年かそこらでかなりのレベルまで上がるわけですよね。
その教育スキルは本当にすばらしいと思いますよ。これはアイロニーじゃなくて、本当に大したことですよ。
でもね。その特訓を受けるに足りるポテンシャルを、彼ら彼女らは持っているわけですよ。中学高校大学の英語だけで。
世の中、グローバルビジネスマンばかりじゃありません。自分とこで必要なスキルは、自分とこで鍛えればいいじゃないですか。実際、鍛えられているわけだから。
以上、グローバルなビジネスマンの皆様にもリーダブルになるように、なるべく英語を使って(ただしカタカナで)書いてみました。あまりリーダーフレンドリーなアーティクルでなくなったことをアポロジャイズいたします。