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ssh726 男気 [リテラシー・思考力]

<2015>

 

 「男気」。

 黒田博樹がMLBから広島カープに移籍して以来、やたらとメディアで使われるようになった言葉です。

 526日付朝日新聞「耕論」面のテーマがこの「男気」。語るのはミッツ・マングローブ、石坂典子、玉木正之。

 

 私が反応したのは玉木のインタビュー。

 彼は男気の元来の意味をこのように指摘しています。

 

◆◆ラジオで女性アナウンサーがこう話していたんです。「黒田投手のような男気あふれる選手が巨人にも現れて欲しいですね。」

 弱きを助ける。これが男気の意味だとほとんどの辞書が記します。僕の手元の「新明解国語辞典」には「弱い立場に置かれた者が苦しんでいることを知りながら、黙って見逃すことのできない気性」とあります。今期は大混戦とはいえ、巨人は球界の盟主とも言われたりして、名実ともに強者。男気をかけるようなチームではありません。◆◆

 

 私の手元の辞書でも、ほぼ同様の定義がなされていました。文字は「侠気」でもよく、同義語は「義侠心」。弱気を助け強気をくじく正義感です。

 スポーツで用いられる表現は往々にして誤用されることがあり、このような誤用や無理解が他の分野にも広がることを玉木は懸念しています。政府が男気を奮って安保政策を大転換とか。


 

 もしかしたら、玉木の懸念はもう手遅れかもしれません。

 

 ssh666で取り上げた産経新聞の記事は、すでに無理解な誤用をしていました。しかも見出しで。

 

◆◆130年前のエンジン技術を蘇生 大幅燃費向上を達成したトヨタの男気◆◆

 

 トヨタが新開発したと報道されたアトキンソンサイクルエンジンは、マツダが20年以上前に実用化&発売しています。さらにこのエンジンはマツダが2010年にデミオに搭載したスカイアクティヴGというエンジンに排気量といい圧縮比といい瓜二つで、とてもトヨタの新開発とは呼べない代物であり、この記事は立派に誤報だろうとssh666は結論づけました。

 

 そのssh666を書いたとき、「男気」という言葉の元来の意味までは気にしてなかったのですけど、玉木の指摘を受けると、この見出しは完全にマズいですな。

 何せトヨタは世界一の自動車メーカー。ジャイアンツなんかメじゃない。

 トヨタが男気を出すとすれば、弱小メーカーを援助するような行為に対してしかあり得ないでしょう。自社の利益につながる投資はチャレンジではあっても義侠心とは無縁でしょうに。


 私の感覚からすると、日本に義侠心なんてものは絶えて久しいように思えます。寄らば大樹の陰、長い物には巻かれろ。中央メディアのお偉いさんは首相とのご会食に皆勤、芸能メディアは大手プロダクションのご機嫌を損ねることは絶対言わない。誰も彼もが空気を読んでる。政権は世界一の大国に平身低頭媚びへつらい。

 どこのだれが、弱きを助け強きをくじいてますかいな。強きを助け弱きをくじくのが主流じゃないですか。

 

 男気が一番必要なのは、男気男気と誤用を連呼している方々のほうでしょう。


 

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